107:ユララちゃん☆参戦!!!
部屋に戻ってキュプレイナから報告を受けたガラルドはまぁまぁ怒っていたが、こうなることも折り込み済みなのだろう。
「ユーフォリビアとは明日の昼になった。今日はもう休め。
出歩くなよ!」
「はーいはい」
また釘を刺されてしまったが出歩くつもりはない。
「どうしてジャガロニがここにいるの?」
丁度別の兵団員と交代して休憩しようとしていたジャガロニを部屋に招いて訊ねる。
「ガラルドさんにスカウトされたんだ。俺はまだこの国で生きていくつもりだからな」
出した紅茶を飲みながらジャガロニは答える。
快復とは言えないが、自立できるようになったサマティッシは妹と共に王都外へ、マルコも家族と共に王都外へと逃げてしまった。
王国兵士の中の顔見知りはジャガロニだけになってしまったようだ。
「それに・・・」
「それに?」
「いや、なんでもない」
少し考える時間があり、言い澱んだ後にそう言われてしまった。
「気になるなぁ教えてよ」
「あんたは心を読むのが得意だろ?読んだらいいじゃないか」
「ヒントがないと読めるものも読めないよ」
「分かっている癖に、あまり凡人を虐めてくれるな。
ご馳走様、良い紅茶だったよ」
ジャガロニは動いていないと落ち着かないのか直ぐに立ち上がって部屋を後にした。
ジャガロニがイリヤの側に付いた理由はガラルドにスカウトされたのもあるけども、俺への恩義と、イリヤを撃ったことによる罪悪感だろう。
あとは自分がどう動き、未来のこの国の誰の元にいたいかだ。
彼は現実的な面もあるからな。
同室にいて、ジャガロニには簡素な自己紹介しかせずにずっと魔遺物を弄っていたアマネの方へと紅茶を持ちながら振り返る。
「アマネ、頼のまれてもらってもいいかな?」
「な、何か悪い予感がしますね」
「大丈夫大丈夫。簡単な仕事だからさ」
「そう言ってきた上司は沢山いますよ!
けど仕事は私にかかれば簡単でしたけどね!」
ドヤ顔で言い放ったので無理難題でも何でもない事を押し付けてやることにした。
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「あれー?四人だけー?」
没落貴族が残した廃墟の大広間へと入ってきたユララは階段の手すりに背中を預けている口と鼻が縫われ継ぎ接ぎ顔のヴェルファーレ。
ナイフで鉛筆を必死に削っている黒マスクをつけた男。
右側が顔の輪郭をなぞる様に長く、左側は短く反り込みが入った緑髪の丸ピアスをつけた女。
魔術教会のローブを着た男。それらを確認して声を出した。
「ザイバックもいるね」
「おぉ流石ザイバック、ユララちゃん☆気づかなかったよ~」
見た目は子供のような体系をしているザイバックと呼ばれた男は破れたソファーに座りながら手を上げてユララへと挨拶をした。
「これって酷いなユララは」
緑髪の女が呆れたように言う。
「だって~全員集合にしては少ないからさー、他の皆は?」
「リェンゲルスとメメメは二階で休憩中。
モモとマスターは知らないね」
「むー今回の依頼は全員が集まることに意味があるのにな」
「ユララにしては思い切った行動に出たよね。いいの?」
「べっつにぃまた作ればいいしね。
それに今を逃せば楽しみが減っちゃうからね」
「全てを投げ捨てる覚悟ならオレは応えるだけね」
「ヴェル〇は良い奴だよ~。ザイバックも良い奴だよ!」
手を上げて自分も自分もと主張しているザイバックに言っていると大広間の扉が開く音がした。
「んお?なんかうるせぇと思ったらユララが来てんじゃねぇかよ。
久しぶりだな。何年ぶりだ?」
「えーっとユララちゃん☆十七歳だからわかんなーい」
「五年ぶりだよ。だからユララが十二歳の時のこと」
入ってきたのはツンツン頭で眉の無い長身の男と長い髪の毛をグルグルに後頭部に巻いたモノクルをかけた女。
リェンゲルスとメメメである。
「もーメメメ〇ユララちゃん☆は永遠の十七歳だぞ。
それ以下もそれ以上もないの」
「よーやるよ、本当に」
「リェン〇も頭のセット毎日苦労してそうだもんね」
「これは元からだ」
「ちょっとどいてくれる?」
冷たく言い放ったのは長い黒髪をなびかせて姿勢正しく歩く女。モモ。
モモの言葉にリェンゲルスはニヤリと笑ってから道を開ける。
「おっとこれはすまねぇな、お嬢様のお通りだぞ」
その言葉に黙って通り過ぎようとしたモモが脚を止めて、人を威殺すような目でリェンゲルスを睨んだ。
「・・・死にたいの?」
着用している黒手袋が発光していつでも攻撃する準備ができている。
「・・・やるか?」
リェンゲルスも指の骨を鳴らしてみせて威嚇をする。
周りの者は誰も止めようとしない。
興味を持っているのは間近にいるユララだけだ。
メメメは無視して離れて行き、ザイバックの隣に座った。
魔遺物が起動される瞬間。
「やめろ」
とてつもなく低い声が廃墟一体に響きわたった。
小さく呟いたようにしか聞こえなかったのにも関わらず、全員の耳に透き通るように伝わると同時に、一触即発の雰囲気よりも緊迫感を与えてくる。
いつの間にか大広間に設置された長机の奥にある椅子に座っていた、紺色の革コートを羽織り脂肪で出来上がった巨体の男。
だらしない体にしては目がしっかりと座っており、この場の誰よりも圧を持っている。
ユララ以外が少しだけ委縮してしまう。
「よぉし、これで全員揃ったね。
あ、因みにこんな身体になっているけど、マスター◎だからね。
スキルの反作用だから気にしてあげないで」
この場に暗殺ギルドの全員を呼んだユララが進行役を務める。
「前置きは無しだよ、伝えた通り」
ユララは廃墟の窓から少し遠くに見える王城を指差した。
「王国ぶっ潰しま~す」
ユララは迷いに迷い、考えに考え抜いた結果導き出した答え。
誰の側につくわけでもなく、自分も継承者全員の敵として参戦する。であった。
その為に暗殺ギルドのマスターにいたるまで招集したのである。
「本気で言ってるんだよな?」
「本気も本気だよ。でなきゃ全員呼ばないよ。
リェン〇もしかしてビビってるの?」
「分けねぇだろ。
大国落としなんて今までやったことない事が舞い込んできたんだぞ。
楽しみで仕方ねぇだろ!」
「ふふふ、いいね滾っているね。
誰からでもいいよ、誰でもいいよ、全員でもいいよ。
殺して、壊して、終わらせてあげよう。
さぁ始めよう、国落としだよ」
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