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101:キュプレイナの過去

 四日後の昼を過ぎた頃、俺達は王都メラディシアンへと到着した。


 でかい壁に囲まれた下、キュプレイナが身分証明書を見せ、荷物を全部点検されてから前回の一般通路とは少し違い幅広い通路を抜けていく。


 約一ヵ月ぶりの王都へと戻ってきたのだが郊外は前回来た時よりもひりついている雰囲気だった。 通りには人は少なく、俺達の乗っている馬車を家の中から見つめているだけであった。

 歓迎はされていないかな。


「リヴェン様・・・」


 隣にいるミストルティアナは心配そうに見つめられる。

 原因はこれからイリヤに出会う事と、前日にキュプレイナと交わした契約だろう。


 これはその回想。


「我々ギルド商会がイリヤ・グラベル・メラディシアン殿下に付く理由?」


 夜ご飯であるマイチゴの実が入ったパスタをスプーンの上で絡めながらキュプレイナは問うた言葉を言った本人であるウィンへと返した。


「ギルド商会がイリヤ殿下と直接関りがあったのは魔窟探索からだ。

 関わっているのはイリヤ殿下の側にいるガラルド・ヴェンジェンス氏だな」


「ほぉ、あの白髭のじいちゃん偉い人やったんやな」


「ガラルド氏は隠者に堕ちる前は王国軍の教官であってな、私もお世話になったものだよ。

 まぁ個人としての恩もあるのだが、捨てられた生活必需品の魔遺物を直してギルド商会へと回していたのがガラルド氏の集落というのが大きな点だ。

 そのせいでガラルド氏には迷惑をかけたがな・・・」


 そう語るキュプレイナは申し訳なさそうであった。

 イリヤも言っていたがガラルドの集落からは若者はいなくなっていた。

 それはこのギルド商会へと生活必需品の魔遺物を直しては送っていたからかもしれない。

 壊れた物を直して使うよりも、新しいものを創った方が若者には受ける。

 そうしてドズは離反した――のかもしれない。


「正直な話、我々は中立的な立場を維持するつもりであった。

 元々のシーマ殿下もギルド商会本部が気に入っているからであって、我々の支部としては微塵も興味が無い。

 なんなら・・・。

 とにかく逝去当初は中立であろうとしていた」


「どういった心変わりなのかな?」


 丸テーブルには俺とキュプレイナとウィンとバンキッシュが座っている。

 遠くの方でミストルティアナとパミュラが揉めている声がするが放っておこう。


「ガラルド氏から要望があってな・・・内容は言えないが、私個人はその要望に応えることにした。

 メラディシアン支部には私の声を反発する人間はほとんどいないので、私が乱心していない限り支部の総意となる。

 理由としてはこんなものだろうか」


「俺は内容まで言えるよ。

 俺達はイリヤを手助けする為に会いに行く。

 俺なんて恩赦を貰って感謝も言えていないからね。

 それに俺はイリヤを守るって約束したからさ。

 今の王都は脅威だらけだろうからさ」


「本当にそれが本音かい?」


「そうだけど?」


 即答するとキュプレイナは「そうかい」と言ってパスタを口に運び、飲み物である麦酒を飲んで、思案するのを隠して、麦酒を味わっていると装って目を瞑った。


「私はガラルド氏に命を助けられた恩義がある」


 服の襟を掴んで胸元をはだけさせると左胸に深い傷跡があった。


「リヴェン氏は見ただろうが私は孤児院生まれでね。

 当時は荒れており、孤児院では手の付けられない問題児と言われたものさ。

 でもそんな私を見限らなかったのが師匠であるシスタークラリスでね。

 殴りかかっても蹴りかかっても彼女の持つスキルで私は手も足もでなかったさ。

 シスターになる前は軍属だったって噂もあった。その噂が確信へと変わったのが同僚であったガラルド氏が現れた時だったね。

 ガラルド氏を見た時のシスターが見せた顔が今でも忘れられないよ。攻撃しても笑顔を崩さないシスターの顔が真顔に戻ったからね。

 シスターとガラルド氏は何やら内密な話をしていてお転婆な私は盗み聞きをしにいったさ。

 あいにく聞く場所が悪くて内容を全ては聞けなかったがね。

 ガラルド氏の提案をシスターは首を振って答えていたよ。

 それを見てからガラルド氏は諦めきれなさそうな顔をして帰っていったよ。

 問題はその後だ。

 数日後、私はエノンを連れて遠くの村へとシスターの誕生日を祝う為に買い物に向かっていた。

 それが不幸を回避できた幸運だったね。

 買い物から帰ったら私達の住んでいた孤児院が燃えているんだもの。

 孤児院の前には無惨な家族の死体。その中にシスターの死体もあった。

 それを踏みつけにしている数人の大人を目にした瞬間に私は無我夢中でそいつらに向かって攻撃をしかけた。

 結果はこの傷をつけられて死にかけた。

 気が付いたら病院のベッドで寝かされており、エノンが泣いていて、その隣にガラルド氏もいた。 ガラルド氏が駆け付けた時には私は襲った奴らの半分を殺していて、残りの数人は逃げていた。

 ガラルド氏は自分のせいだと言って謝罪した。

 確かにガラルド氏が来なければこんなにことにはならなかったが、私は殺した奴らの方が憎かった。

 孤児院は野盗に襲われた事になった。

 身寄りのない私とエノンはガラルド氏の家で世話になり、軍へと入り、退役後にギルドへと入り、五年が経ったころガラルド氏から本当の事を聞かされた。

 イリヤ殿下の母にあたるマリア・グラベルがイリヤ殿下の存在が王城内で明らかになった。

 前王は丁度床に伏せていて王位継承が始まるかどうかという場面であった――それから九年は生きていたのだがね。

 なんにせよマリア・グラベルは前王の妾で継承権を持つ者でね。不当な後継者を排除する為に殺害しようと目論む者がいた。

 ガラルド氏は元同僚であったシスターにマリア殺害を阻止する為に頼みに来たのだとね。

 それが殺害を企てる輩にバレて、徹底的に敵を潰すのが信念のようで、私達の孤児院は関りがあると判断されて襲われた。

 当時はシスターが何と言っていたのかは分からないが、その時理解した。

 シスターはあの時、あの子達は巻き込めないと言っていたのだとね。

 そして今回の王位継承の中にそれを指示した人間がいる。

 そのためにもイリヤ殿下に鞍替えしてほしいとガラルド氏に頼まれたのだ。

 私とエノンはそいつを許さないし、立場を忘れ、立場を利用し殺害しようとしている。

 ・・・・まぁ、なんだ、私の私怨でギルド商会を動かしている訳だな。

 これが本音だ。あとオフレコにしてくれ。流石にこれをここにいる全員には話せないからな」


 これがキュプレイナの誠意だろう。

 嘘にしては感情が表に出過ぎだが、それを作っていたのならば誉めよう。

 どちらにせよお互いの間に壁があってはイリヤを守ることに支障が出るだろうから、俺も誠意をみせておく必要があるな。


「俺達はイリヤを助ける・・・・魔族だ。

 ウィンとウォンは竜人族でミストルティアナは蠍と蛇の混血でガストは幽霊でパミュラはデュラハン。で、彼女は魔族になったバンキッシュ・フォン・キャスタイン。

 俺は魔族じゃないけど元魔族、三百年前に存在した魔王の右腕だよ。

 あ、アマネは人間だから」


「・・・・いいさ、別に私の話に合わせなくても」


「私は貴女と顔を合わせた事があります。

 あれは・・・そう王芸祭の時でしたか。

 この顔を忘れてしまったでしょうか?」


 バンキッシュは仮面を外して素顔を晒す。

 周りの人間は食事や会話に夢中で誰も気づいていない。

 というか少しだけ動けるようになったガストが離れた場所から気を利かせてスキルを使ってくれている。


 キュプレイナが飲もうとしていた麦酒のコップを口につけたまま止まる。


「なっ・・・貴殿は亡くなったと・・・」


「バンキッシュ・フォン・キャスタインは死にました。

 私は唯のリヴェンさんに仕える魔族のバンキッシュです」


「と、まぁそんな感じさ。

 俺達はイリヤを助け、魔族を助ける為に動いている。

 非公式だけどギルド、ゾディアックエイジを名乗らして貰っているよ」


 と言うと、キュプレイナはコップを置いて眉間を押さえる。

 そして口元を緩めた。


「ふっ、はははは、私の身の上話なぞ滑稽に思える程の暴露ではないか。

 ゾディアックエイジか、いいギルド名ではないか。我々もそんな名前を付けた方が良かったか?

 ・・・ふふ、ではやはりそうだな、イリヤ殿下を狙う不届き者を共に成敗しようではないか」


「危害を加える者だけ~とかイリヤは言いそうだけどね」


「そうなのか?イリヤ殿下は心優しい方なのだな」


「優しさの塊だよ」


 だからこそ今の状況下の中に置いておくのはイリヤの純粋さを消し去ってしまうだろう。

 現在は相手が不慮の事故で亡くなるか、王位継承権を放棄するかの二択で進んで行く。

 イリヤが立候補して継承権を放棄していないのはイリヤの意志なのか、それともガラルドや他の誰かの為にやっている行動かは会ってみないことには分からない。


「イリヤを狙う人物は分っているの?」


「んん?大きな後ろ盾があり力を持っていてそういう事をするのはシーマ殿下とカナビナ殿下とカレイズ殿下、それとハトハル王妃だな。

 この四人は何かと力でねじ伏せようとするな。

 特に悪い兆候が出ているのがハトハル王妃だ。

 ドレイズ王政権時に私腹を肥やし過ぎたが過度な力を誇示するようになっている。

 王位継承権はないが警戒するには越したことは無い存在だね」


「逆に仲間になってくれる奴はおらんの?」


「それは分からない。

 ただでさえイリヤ殿下はイレギュラーなのに私達という後ろ盾がある。

 そこにホイホイと信頼関係を作りに行くのは他の候補者たちにも目をつけられる自殺行為だろうからな。

 血で血を洗うのが王位継承というものだ。

 全く人生で二回もあると嫌になるよ」


 パスタを完食し、麦酒を飲み干した後にキュプレイナは煙草の箱を持って席を立ちあがった。

 バンキッシュが煙草の煙が苦手になったみたいで、肩身の狭い喫煙者は外へと行くしかないのである。


「まだ何か話したりないのか?」


 外へと出たキュプレイナを追って出ると、丁度煙草に火をつけて一口目を堪能しているところだった。

 口から煙が出て夜風と共に流されて消えて行く。


「いや、ただ俺も一服にね」


「・・・・」


 空を見上げながらキュプレイナに煙草を差し出される。

 俺は黙って箱から一本抜いて小火を使って火をつける。


 二人で黙って煙草を吸いながら背後から聞こえる喧騒と共に時間が過ぎていく。


「・・・リヴェン氏」


「何?お願いは三つまでだよ」


「なら安心してくれ、願いは一つだ」


「内容によるけど聞いてあげるよ」


「もしもだ。

 私が今回の王位継承の中で復讐を果たせずに命を落としたならば、リヴェン氏がエノンと共に敵を討ってくれないか?

 今回はエノンを置いてきたが、王が決定した時に祝宴がある。

 その時にでも狙ってくれ。無論謝礼はする。エノンにはそう伝えてある」


 キュプレイナの目は本気だった。

 今のところどんな攻撃でも死亡を確認されていない俺に頼むが一番なのだろうな。

 出会って五日程度の得体の知れないモノに頼むのも・・・いやそんなモノだからこそなのかな。


「ずっと隠しているけど、君の復讐の相手って結局誰なの?」


「・・・ガラルド氏か聞いた時から耳を疑っている。

 今でさえも本当かどうかを確信していない。

 ・・・だから口では言えない」


 もごもごと口を動かしてからふぅとため息をつく様に息を吐いた。

 共に出てきた煙は文字になっており、そこには口では言えない人物の名前が書きだされていて、すぐに風に乗って消えた。


「器用だね」


「宴会芸の一つさ」


「それにしても都合がいいね。

 俺もその人物に用があってさ。

 どう?イリヤと会ってから、顔を合わせに行かない?」


「・・・正気か?」


「常にね。

 君の決心をつけた方が良い。復讐するのならね」


「・・・・・・・・・・」


 キュプレイナは煙草の火を見つめている。

 彼女の瞳に映るのは煙草の小さな火ではなく記憶の奥にある孤児院が燃やされた大業火。

 彼女の瞳が燃えている。

 疑念を焼き払う為に、復讐をの炎を相手に着火させる為に。


「いいだろう。

 では到着後にガラルド氏と話して、会合させてもらおう」


「決定だ。これは契約だからね」


「あぁ分かっているさ。

 ここだけの話で、二人だけの契約さ」


「リヴェン様!こんなところにいらっしゃったんですわね!」


 話が終わったのを見越してかミストルティアナがやってきた。

 見事に取り繕っているが、俺の前では無意味である。

 キュプレイナに気付かれているかどうかは知らない。


「リヴェン氏も隅に置けないようで」


「でしょ?煙草有難う。おやすみ」


「礼は行動で返すのが真人間だよ。おやすみ」


 煙草を携帯式吸い殻入れの中に閉まってからキュプレイナは先に酒場の中へと戻ってしまう。


「あ、あの、ネロちゃまが壊れてしまった?みたいなのですわ・・・・えっと・・・」


 何と言葉をかけていいのか分からないのかミストルティアナはもじもじしている。


「大丈夫。何も心配しなくていいよ。

 それで?ネロがどうしたって?」


 ぽんぽんと頭を叩いてやると、少しだけ表情が晴れた。


「ネロちゃまが余は魔神だとか、従僕はどこだとか荒れていまして」


「直ぐ行こう。案内して」


 その日は阿保魔人の覚醒が早く、ネロが故障したという事にしておいた。


 キュプレイナが煙で描いた名前は俺も狙っている人物。

 阿保魔人ボォクの身体を所持している人物。

 ユーフォリビア・デブレ・ラ・メラディシアンであった。


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