100:阿保魔神
王都までは馬車一台ならば三日はかかるのだが、今回は大所帯なので四日かけて王都へ行くことになる。
道中一日目の夜、再びボォクが目覚めて、村の泊宿としている場所から抜け出して、村の外の舗装された道とは反対側にある林の中へとやってくる。
ここならば人もいないし話を聞かれても問題ないだろう。
林の中へと入るとシンクロウが木の上で待機していて、その姿を確認してからボォクは話し始める。
「お主も分かっり切っておると思うが、余の魔力は回復しておらぬ。
それに関してはお主に起因しておるから余とお主の同問題じゃの。
余は月夜にしかこうして顕現できんから肝心な時にはおらぬから頼らぬことじゃな。
だって余は駒じゃし。ぷれいやあはお主じゃしな!」
どうやら自分が駒になったのを根に持っているようだ。
器の小さい魔神だとこで。
「君は信仰心を奪われているから次回のゲームは不利だけど、他の神は信仰心を満足に得ながら参加するんでしょ?
そこのところはルールとしてどうなの?前回とかどうしていたの?」
「え?前回は余の勝利じゃったし、その前も余が勝ったし、なんなら余負けたのお主が初めてじゃしな。
あ奴等が何か抜かしておったが、信仰心が薄くて聞き取れなくての!かっかっかっか!
・・・・・・そうじゃよ!どうするんじゃ!どう考えても余が不利じゃ!
抗議じゃ!抗議じゃ!」
「抗議しても信仰心が薄くて聞き入れてもらえないだろうね」
「うぐう・・・ど、どうすればよいのじゃ?」
「地道に頑張るしかないね。勝つ為に必要なものがあるんでしょ?」
「そうじゃ!それじゃ!勝つためには必要なものがあるのじゃよ!
・・・・その前にじゃ、その女は誰なのじゃ?」
話の内容を昨日訊かれたバンキッシュを共に連れてきたのだが、ようやく質問してくれた。
質問しなければ自己紹介無しに話を進めるところであった。
「バンキッシュだよ。
俺の従者をしているから、この話にも関係ある。
死んでも口を割らないから安心してよ」
秘密の会話は人が多くなる程露呈してしまうが、味方内の一部には伝えていてもいいと思う。
バンキッシュを紹介すると一礼した。
「ほう・・・・ほほう・・・・成程の。
しかし前は心から信頼する従者なぞおらんかったのに、時を経れば成長するものじゃの」
「前回の敗因だからね」
前回の敗因は俺の力不足と、俺に対しての信頼不足。
いくら陰の魔王だと言われようが、反発する魔族はいた。
シークォみたいな奴とか。
何もかも全て俺の掌で動かせていたのならば、まだ勝機はあったのかもしれない――ほら、人を駒としてまだ見ている。
「では、其方は敵との認識でいいですか?」
「あぁ、いや、彼も同行者。丁度三百年前に生まれた魔族だから仲良くしてあげて」
「バレていたのですか」
シンクロウが敵と言ったのはガストである。
木の陰からスキルを使ってこちらを観察していたが、俺もだが、シンクロウにさえもバレていた。
木の陰から出てきたガストは仮面だけを浮遊させていた。
これには予想外だったが驚いた様子もなく言葉を返す。
「そりゃあね。君の種族は不眠だからね。
あんな狸寝入りで誤魔化せるとでも?」
「誤魔化せそうでしたがね。
私はガスト・ガイスト・ストレイガ。リヴェン様の従者です」
「ほぉほぉ、これはこれは良いスキルと魔力総量を持っておるの。
お主も中々見所のある従者を見つけられるようになったものじゃの!」
ボォクが感心しているのはおいておて小声でガストに問う。
「・・・いいの?」
「いいとは?私は従者でしょう?」
「まぁガストがそれでいいならいいけど」
ガストは俺の従者になる必要はないのだが、話を合わせておきたいようで、そう答えるようだ。
これから従者として扱き使ってあげよう。
「まぁ勝つ為に必要な物を集めるには頭数は多い方が良いからの」
「物なんだね。伝説の剣とか?」
「それはオーレが扱う代物じゃ。
お主らには集めなければいけないものがあるのじゃ!
それはげぇむに勝つのに必要な代物であり、余の完全復活を促進させる代物じゃ!
それはの!それはの!余の身体じゃ!」
「・・・・君って概念じゃないの?」
「阿保めが!
余は下界に降りて願いを叶える場合があると言ったじゃろう!
そうする場合は肉体を用いなければいけないのじゃ!
願いを叶えればその肉体は抜け殻となって死に絶えるのじゃがな。
普通は人知れず埋葬されるのじゃが、埋葬後に余の力のせいで遺物になるのじゃ。
お主が生きていた時代にも遺物は存在したんじゃよ?考古学の間では認知されておったのじゃ。
そこから魔遺物を創ったのはオーレの嫌がらせじゃがの。
それらを集めてお主が取り込めば余は完全復活であり、お主は余の身体が持っておったスキルを使えるのじゃ!
どうじゃどうじゃ!凄いじゃろ!勝ったも同然じゃろ!」
「場所はどこか分っているの?」
「・・・」
ボォクは目を泳がせる。
この阿保魔神。
「だ、大丈夫じゃ、心配するでない!
お主は既に二つ余の身体を所持しておる!
スキルとしてはあれじゃ、魔分子修復と能力耐性じゃの。
その二つを含めてあと・・・何個じゃろ?
ニ十個くらいじゃろうか?
八千年くらい前からやっておるからどれだけ現存しておるかは知らぬ。
それに余の身体の近くにいけば余自身も判別可能じゃからの!だから大船に乗った気持ちで安心せい!」
どんと胸を叩いて言うも、安心できるはずもなく俺は思案する。
ボォクの身体を集めるにおいて現在確認できている事柄は魔遺物であるが故に保管されている可能性が高い。
モンドが博物館から盗んだ魔遺物の中にボォクの身体はあった。
とりあえずは王都の博物館に再度訪れるのもありだろう。
もう一つイリヤが持っていたように価値を知らずにゴミとして捨てられている場合もある。
その場合は運になる。
ボォクが言うように人手は多い方がいいというのは、こちらを指しているのかもしれないな。
「魔遺物が破損や破壊されている場合はないの?」
「余の身体は通常では破壊されぬ。
他の神の遺物なら破壊されぬかもしれないが、そんな面倒なことはしとらんじゃろ」
オーレとワタ=シィがどんな性格の神かは知らないから一概には言えないが、これまでのゲームでボォクが勝ち続けていたならば、相当恨みが溜まっているはずだ。
ボォクが万が一にも勝つ可能性を潰している可能性は無きにしも非ず。
「神を殺すには神の攻撃じゃないといけないってことでいいかな?」
「まぁ肉体を持った神はそうじゃな。
・・・もしやお主!余に盾突こうと!
あれじゃからな!余は強いからの!お主なぞ小指一つじゃからな!」
「はいはい。
とりあえず博物館を回って君の身体を探せばいいんだね」
「・・・そうじゃ。
そうすれば勝てる!はずじゃ。
さぁさぁ明日からきびきび余の身体を探すのじゃ!」
「オレ、ボォク様の身体の在処知っていますよ」
「な、なんじゃと?」
「在処を知っていると言いました」
「そういう事じゃないのじゃ!
何故黙っておった!今の話の流れ聞いておったかの!?」
「ボォク様がリヴェン様と楽しそうに話しておられましたので、邪魔をしては悪いかと」
「いくら余が数百年ぶりに誰かと話せているからとて神である余が楽しくお喋りするはずなかろう! 余はこ奴よりも上位の存在じゃぞ!
そんな奴と楽しくお喋るするはずがなかろうに!
・・・・なかろうに!」
よっぽど混乱しているのか同じことを何度も言っていた。
楽しそうかどうかと訊かれれば、ボォクの普段を知らないので何も言えないが、嬉々としているのは確かであった。
俺は阿保魔神と喋るのは少し疲れているけど、顔に出すはずもない。
「どこにあるの?」
「まず一つは王都にありますね。
あ、博物館に保存されている訳ではなくて個人が所持しています。
その魔遺物を所持しているのが、リヴェン様達が助太刀しようとしているイリヤ・グラベル・メラディシアンの家系の者。
ユーフォリビア・デブレ・ラ・メラディシアンですね。
彼女がどこかに持っているコンパクトがそうです」
「流石は余の神官シンクロウじゃ!」
ユーフォリビア・デブレ・ラ・メラディシアンか。
話に聞くところ中央遺物協会に指示されている王位継承権を持つ人物だったか。
バンキッシュの所見では温厚で誠実で謙虚。
人を見抜く術があるバンキッシュが言うならそうなのかもしれないが、会ってみない事には確信できない。
「他には?」
「キュロス山脈の中にある人知れない限界集落と化した村メネの祠に祀られていますね。
ここは飛んで行けないので、歩いて昇るしかありません」
「じゃあまずはユーフォリビアからだね」
「なんでじゃ、なんでじゃ!
お主の従者を遣わせれば良いではないか!
時短じゃよ!お主ら生命体は時間の有限なんじゃよ!」
「うるさいよ。指示は俺が出す。
プレイヤーは俺で、君は駒だ。
介添神なら、それを忘れないでくれるかな?」
「そ、そんな強く言わんでも・・・」
本当に打たれ弱いようで、しゅんとして大人しくなる。
キュロス山脈へと昇っている時間が無いのは当然であり、一年後のゲームよりもイリヤを手助けした方が、ゲームを有利に運べるとみているからだ。
それにユーフォリビアがボォクの身体を所持しているとなれば優先度はそちらの方が高い。
もしも並行して行動した場合、どちらも失敗すれば大切なモノを失うだろう。
それだけは避けたい。
「一応他国のも把握していますが、聞いておきます?」
「いやいいよ。
他国に出張できる余裕があるならいいけど、動きやすいのはシンクロウくらいだ。
でも今は動きたくないでしょ?」
「ですね」
シンクロウは目覚めたばかりのボォクから離れるのは好まないと予想していたが、その通りらしい。
シンクロウ自体が陰に隠れた護衛のようなものか。
「ではユーフォリビア・デブレ・ラ・メラディシアンが所持しているのを獲得する方向で。
ボォク様?」
「あ・・・もう喋ってもよいのかの?」
「何を仰っているんです。
ここにいる者は皆、ボォク様の御声を望んでいるんですよ」
俺もバンキッシュもガストも望んではいないが、黙って見ておくと、シンクロウの言葉が本当だと思い込んだ。
「そうかの?
そうかの!?
そうじゃの!
よぉし!リヴェンよ!余の身体を集めて最強になり!余の信仰心を取り戻すのじゃ!かっかっかっか!」
そんな阿保魔神の高笑いが林の中に響き渡った後に魔力切れを起こし、ボォクは眠りについて今夜はお開きなった、
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