99:頬擦り
「ちょっとなんでこの馬車、こんなに人多いのよ」
定員人数八人の馬車に向かってそう吐くのは金髪のポニーテールが特徴的なジュリ。
「私はリヴェン様とは離れられませんのよ。
貴方達は別にリヴェン様とくっつく必要ないですわよね!」
「いやわいらの荷物がこっちの馬車に乗っとるから、わいらはこっちやろ」
「機材を管理できひんのはアーティストとして失格やからな」
腕に引っ付く勇気もないミストルティアナは太腿が触れるか触れないかの瀬戸際で隣に座り、対面にいるウィンとウォンにいちゃもんをつけるが、彼らの意思を尊重して次の標的に変える。
「貴女!貴女ですわよ!
そのどでかい図体で座っているんじゃありませんよ!」
「わ、私?
だってあっちに乗るとガストに迷惑かけちゃうし・・・
それに主君を守るのが騎士の務めですし」
標的はパミュラである。
甲冑姿なので二人分の席を取っており、少々窮屈さが増している。
因みに視力は戻ってきているので、ぼやけているが近場なら見えるようだ。
眼鏡をかけるのは医者におススメされなかったので、自然に回復するのを待っている。
「いや貴女には二輪車がありますわよね!それに乗りなさいな!」
「だってだって、ヴィヴィアンを動かすのにも魔力が必要なんですよ。
移動で動かしていたら魔力尽きちゃいますよ。
ミストルティアナさんが補給源になっても、三十メートル程しか動きませんよ」
「はいストップ」
ミストルティアナが飛び掛かろうと力を込めたところで、ミストルティアナの頭の上に手を置いて止める。
「俺がいると争いが生まれるようだから、俺がガストの方へ行くよ。
ミストルティアナはパミュラと仲良くする事。
ウィンとウォンとモンドはその監視係ね」
「あ、あぁん待ってくださいまし、仲良くしますから。
ね、ね、パミュラさん仲いいですわよね?」
「?」
「ムキー!いけ好かないですわ!
何としてでも仲良くなってみせますわ!」
ミストルティアナの問いは首を傾げられて返された。
まぁ当の本人が仲良くなろうとする努力はしてくれるので放っておこう。
パミュラが努力に応えるかどうかは知らないけども。
「じゃああーしはこっちの馬車に乗るから」
「ジュリも仲良くなってもいいんだよ?」
「はぁ?・・・まぁ考えとく」
奥にいるモンドを一瞥して、そう言ってジュリは俺がネロを担いで降りるのと交代で馬車に乗った。
馬車は八台あり、二台は俺達の為に用意された馬車である。
一台の馬車はあんな状態で、もう一台には身体を治しているガストと、ガストの身に何かあった時の為にアマネと護衛のジュリが乗る予定だった。
ガストもパミュラもイリヤを助けてくれるようで、こんな状態でも付いて来てくれるようで有難い。
ギルド商会はメラディシアン支部内から三十人を選出して王都へと向かう。
その中には顔見知りとしてキュプレイナにワワにジュリがいる。
ハジメは戦闘員でもないし、エノンはキュプレイナが街を離れるので代わりに留守番するようだ。
あとはもしかしたらカイ・マンダイン・フェルナンデス・ゴフェルアーキマンが来るかもしれないらしい。
魔窟では会えなかったから、どんな奴なのかと、会うのが楽しみだ。
「あれ?こっちに来たんですか?」
「そう。ジュリと交代。
それで?どうしてバンキッシュは付いてきているのかな?」
ラーゼフォンを弄っていたアマネが俺とバンキッシュを見て言った。
俺が馬車を降りてからずっと何も言わずに付いてきてたバンキッシュ。
目が冷ややかだからジュリも何も言わなかったし、アマネも怖がっているので俺が訊くしかない。
「ご迷惑だったでしょうか?」
それはズルい言葉である。
どうしても当たり障りのない言葉で返すことになるのが決定している。
「いいや」
俺が座ると、バンキッシュは肩を寄せて隣に座った。
流石に驚いたのでバンキッシュの顔を黙って見ていると。
「どうかしましたか?」
そう言われてしまった。
「何か距離が近いかなぁって」
「そうでしょうか?いつも通りかと思いますが」
ガストもアマネも口を挟んでこない。なんならガストは寝息を立てている。
バンキッシュの表情を読み取る。
不安、焦燥、悲哀?なんでそんな感情が出てくるんだ?
・・・思い当たる節がない。バンキッシュにそんな感情を抱かせることをした覚えがない。
もしかして。
「ねぇバンキッシュ、昨日夜更かしした?」
触れ合っている肩が少しだけ動いた。
つまり昨日のボォクとのやり取りを聞いていて俺の身を心配してくれているのかな?
だとすれば可愛いところがあるものだ。
「夜更かしはお肌の天敵って言うからね」
バンキッシュの長い髪を触ってから頬を撫でて揶揄うと掌に頬を寄せられて自分から頬擦りをした。
予想外の行動に揶揄っていた俺が虚を突かれて驚いてしまった。
アマネも目を見開いて驚愕した後に気を使って明後日の方向を向いた。
「俺は変わらないし、いなくならないよ。バンキッシュは俺に付いて来てくれるでしょ?」
かなり意地悪な質問だが、バンキッシュの答えは分り切っていた。
「えぇ、リヴェンさんとイリヤさんの為ならどこまでも」
それでもバンキッシュからは不安は消えない。
先行きの見えない不安は人間の精神を蝕んでいく。
なんとかして取り払っておきたかったけど、これ以上責めると接吻することになるので今は止めておこう。
「出発するぞ~」
ワワの野太い声が後ろから響き渡った。
その声で我に返ったのか、満足したのか、バンキッシュは頬を擦るのを止める。
バンキッシュの不安は解消されずに俺達は王都へと向かうのであった。
感想、評価は継続する意志になります。
ブックマークして頂けると励みになり、更に面白くなります(個人差あります)。
何卒宜しくお願いいたします。




