96:神の心臓
「はえー、そんな風に締結したんですね。
いわばイリヤちゃんの護衛?従者?
どちらにせよ、イリヤちゃんが王になれば良いこと尽くめで、金銀財宝や美味しい料理に高級な家に肖れるって事ですね。
最高じゃないですか」
昼食のTボーンステーキにかぶりつきながらアマネは言う。
「話を聞いていましたの!?
イリヤちゃまの命を狙う奴らがいるのですわよ!
貴女みたいな貴族生まれでもない平民には分かりませんでしょうが跡目争いは過酷で厳しいのでしてよ!」
「あー、ミスティ、わいに言わんといてくれ」
スキルを酷使したせいでまだ視力が戻っていないミストルティアナはウィンに向かって説教していた。
キュプレイナと握手をしてから三時間後。
俺達は前に宿を取っていた宿に身を置いて、ルームサービスを使って遅めの昼食を取りながら今後の振舞い方について話し合っていた。
「ミストルティアナの言う通り、王位継承は血生臭いことになるだろうね。
いつの時代でもそうさ、権力者が去れば、誰がその権力を手にするのかと躍起になる」
俺は昼食を食べずに魔力補充屋一軒丸々から買った魔遺物から魔力を補充中。
エルゴンや大きな街の近くには魔窟はないそうで、補充屋にいかないと魔力を補充できなかった。
「貴方方が言うと言葉に重みがありますね」
ベッドに横たわりながらガストは言う。
パミュラに貫かれた部分の治りが遅く、未だに歩くことままならない。
パミュラ曰く、あの大太刀は名刀魔光丸という名であり、特性として直接刀身で斬られた部分は魔光丸に呑まれるらしい。
斬撃だけで済んだ俺は幸いだったということだ。
「あ、寝てなきゃ駄目だよガスト」
「うごっ、ぐっ・・・そこは傷口・・・」
「きゃあ!ごめんね、ごめんね!
痛くなかった!?痛かったよね・・・
あ、ご飯あるよ?食べれば元気になれるかな?」
「そう、ですね・・・とりあえず、寝かせて頂きます・・・」
通常状態に戻ったパミュラは少々抜けている性格であるが、戦闘面になると甲斐性がある性格になるようだ。
オンとオフの切り替えが激しいのは、魔遺物にされたからもあるが、元々の性格が起因していると、アマネは推測していた。
名刀魔光丸に呑まれた部分をガストへと戻す為に、アマネが特注で作ったチューブ型魔遺物がガストの腹部へと繋がっていて、パミュラは自分が仕出かした事なので反省の色濃く、ガストを看病している。
看病の最中にびしょびしょのタオルを仮面の上につけたり、足がもつれてガストの上にダイブしたり、ルームサービスに手を加えて不味い料理にしたりと色々やらかしているらしいが、全部良かれと思っての行動なので責めに責められないガストであった。
因みにここはガストの部屋に全員集まっている。
「せやけどどうするんや?
イリヤちゃんの手助けをすると言うても、わてらが現状の王都へと入れるとは思えへんねんけど」
「そこは明日キュプレイナが馬車を手配してくれて、それに乗って王族経由の入り口から入れるらしい。
問題は入った後の事だね。
他の王位継承権を持つ相手と絶対に一悶着はある。
武力なのか政力なのか何らかを行使してくるはずだ。
今回みたいに連続して大きな戦いになれば俺の魔力が尽きる可能性がある。
一旦ヨーグジャに戻りたいけど、ドズが入れてくれるかどうかは交渉しても五分五分だね。
ごめんねミストルティアナ、暫くは君の家に帰れそうにはないよ」
「大丈夫ですわ。イリヤちゃまが王様になって王国を征服なさったら、いつでも帰還できますもの」
「いやブラザーの方はちゃんと向くんかい」
「リヴェン様は心の目で見抜けますからね!」
ミストルティアナはそんなことを言っているが、本当は俺のつけている香水で判断しているだけである。
「アマネ、何か無限に魔力を作れる魔遺物とか作れないの?」
「いやいや作れる訳ないじゃないですか、考えて物言ってくださいよ。
この世にそんな永久機関を持つ者は生物くらいですよ。
魔族しかり人間しかり魔物しかり、体内に魔力を宿す者から吸えばいいんじゃないですか?」
「雇い主のリヴェン様に向かってなんたる口の訊き方でして!
修正しますわ!」
「ちょ!ご飯中ですよ!
ぐぐぐ首絞めるのは勘弁してください、謝りますから!ごめんなさいしますから!」
「二人は何かそんな逸話とか神話とか聞いたことない?」
修正されているアマネは放っておいて、休眠状態のネロを撫でているバンキッシュと、紅茶のお替りを淹れてくれているモンドへと問う。
「騎士団時代には魔術師達がそんな扱いでしたが、リヴェンさんが消費する魔力を要する者はこの世にはいないのではないでしょうか?
パミュラさんでさえも、総量はリヴェンさんには劣るのですし」
パミュラは頭だけが魔族で、身体は魔遺物である。
つまり生きながら頭を開かれていたのだが、その時は暴走していたので痛みも無かったらしい。
パミュラの胴体を補給源とすれば前回の戦いの消費分を取り戻せるだろうが、パミュラも戦力に入れておきたいので、その案は却下となる。
「魔神の心臓・・・ですかね?」
モンドが呟いた単語を俺は知らない。
魔神ってボォクのことだろうが、それの心臓が魔力の永久機関なのか?
「あ、あぁ!そうですよ!
魔神ボォクの心臓ですよ!
いた、いたた、ポカポカ殴らないでください。
ぐえ、いや違います、全力で殴れって言っている訳じゃなくてですね。
これ、これ差し上げますから落ち着いてください」
「なんですの、これ?」
「リヴェンさんとお揃いの香水です」
「これに免じて修正はここで終わりにしましょう」
アマネもミストルティアナの扱いを分かってきたようだった。
「それで?」
「ひっ、あのあの魔神ボォクは知られている通り魔族が崇め祀る神でして、この世に魔力を生み出したと謂われています。
そのボォクの心臓には無限の魔力が付き詰まっているってお話ですよ」
バンキッシュに睨まれて小さな悲鳴をあげる。
バンキッシュには慣れていないようで。
「俺が生きていたころにはボォクにそんな神話はなかったけどね」
「どこからの起源かは私も詳しくはありません。
そもそもボォクが存在しているかも怪しいですしね」
「シスターが神を否定してもいいのですか?」
「あ・・・違いますよ。
オーレ様は存在されますよ。
ボォクなんて悪神はいないんです。そういうことです」
他宗教の神は否定するシスター、これは如何に悪い行いかは言わずもがな。
「僕は故郷を出てから中央遺物協会について調べていたら辿り着きましたね。
予想ではありますが、中央遺物協会が作ったデマかせかと思います」
「私もそう思います!
オーレ様、絶対!
唯一神オーレ様!」
アマネが言うと神と言う存在が嘘臭くなるな。
まぁ俺も神を信じてはいない。
この世界に来た時も神の手引きは無かったしな。
あの勇者が神からチートスキルを貰っていたとしても、俺みたいに努力で得たのに尾ひれがついただけかもしれないからな。
魔神ボォクはいない。
「夢物語に頼っている場合じゃないか。
いざとなれば敵対する人間の魔力を奪えばいいかな」
それでイリヤに有利に進めば何でもいいが、イリヤを手助けする前にまずイリヤに会わないとな。 大方傍らにはガラルドがいるのだろうし、話をしなければならない。
「リヴェンさんがいればイリヤちゃんは無敵なのでは?」
「力で圧制するなら簡単だろうけどね。
王位継承はそんなに簡単じゃないよ。
だけどイリヤの為にも内紛状態はさっさと終わらせるに限るね」
今後の方針はこれくらいだろうか。
確認するまでもなく、全員がイリヤを手助けるの方向で話が進んでいて、俺は一安心した。
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