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1-6(後半):ランダムなんて大嫌い

すみません、さっき気づいたのですが1-6の後半が抜けていました。

なので次話として追加しておきます。

 フカは視界にギアアームを捉えると、能力を発動した。


 その次の瞬間、ギアアームの側面部分が内側に円形に凹んだ。

 まるで、見えない手に殴られたように。

 フカは顔をしかめる。


「ごめん、超微妙!」

「だからあやまんなって!」


 効果を確認してから走り出したエン。

 それをいくつもの鏡が追従する。


「あぁもう、エン出るの早い! 追いつかない! そっちが謝って!」

「ごめんなさーい!」


 ふざけた謝罪を返しながら、ギアアームが振り下ろしてきた腕を剣で受け止めて弾き返す。


「フカもいい加減やめて。うちは好きだよ、フカの、効果がランダムな能力。くじ引きみたいでなんだかたのしーじゃん」

「……そうかな」


 自分は好きじゃない、と心の中で叫んだ。


 エンは、斬撃をまとった炎を発生させる能力。

 ソノは鏡とガラス型のバリアの生成。


 ほとんどの人の能力は効果が固定されていて、あるいは自分で効果を操作することができる。

 しかし、フカだけは、時によって効果が異なる。

 見えない何かが打撃、斬撃、射撃を繰り出しているというところまでは固定だが、その攻撃の種類や威力はその時々によって異なる。


 相手にするモンスターが同じなら大体同じ効果になるので、相手によるのではないかと推測している。しかし、それも稀に違う効果になることがあり自分でもわけがわからないくらいだった。

 


  ゲームでも、ランダム性の高い能力を持つキャラは、なんとなく扱いづらくて敬遠してしまう。

 

 まさか、自分の能力が忌避していたものになるとは夢にも思わなかった。

 それとも、嫌っていたからこんな能力になったのかもしれない。

 

 この世界では、ほとんどのモノが別のものに置き換わる。

 スマホや制服のように、機能だけが変化する場合もあるけれど。

 

 絆創膏が回復アイテム、バットが剣、ならば能力もなにかの置き換えであるはず。


 しかし、能力を発動させることで見た目上の変化はない。 

 だったら、目に見えないものーーーーすなわち、心ではないかというのが定説だ。

 

 実際、好きなものが能力に現れる場合は多い。そうでない場合もかなりあるけど。

 ならば、このランダム性も、煮えきらずふわふわと揺らぎやすい軟弱な心の現れなのか。


 この能力も、うまくはまれば強いときもある。だが、ほとんどの場合補助的な攻撃性能しか持たない。

 エンは強い。高い攻撃性と、戦闘のセンスもあると思う。

 ソノも、防御系能力としてはかなり希少で有用な能力を持っている。


 このチームの一番のお荷物は自分だ。

 そう思うたび、心に楔が打ち込まれたような気になる。

 フカは、また自分が嫌いになった。


 

 お荷物ながらも隙を見て攻撃を加える。自分では一応接合部に狙いをつけているつもりだが、やはりそんなにうまくいかず微妙にずれている。

 そのたび、自分に対する苛立ちを覚える。

 

「おらぁっ!」


 エンがギアアームの台座と腕の接合部に切りかかる。


 珍しく、エンが頑張って弱点を狙いに行っている。

 エンの能力は、斬撃の効果を持つ炎の発生。見た目は真っ赤な炎だが、実は温度が低く、近づいてみてもほとんど熱さを感じない。

 炎で焼くことができない代わりに、その炎の揺らめき一つ一つが刃であるかのような効果を持つ。


 彼は普段、炎を剣にまとわせることで切断力を上げる使い方を好む。

 今回は、自分の周りに細長くとぐろを巻くように炎をまとわせ、時折鞭のように炎を伸ばして腕の関節部分を攻撃しに行っている。


 エンとソノの奮闘もあり、明らかに動きがにぶり倒しかかっていたそのとき、ギアアームが耳をつんざくような金切り声をあげた。

 同時に、金属がこすれる音が響く。

 ギアアームは攻撃をやめ、エラーを起こしたように小刻みに動いている。


 明らかに様子がおかしい。


 それに構わずエンがトドメを刺そうと剣を上に振り上げたところで、ギアアームがアーム部分を横に振るった。

 さっきまでの攻撃パターンと違う。

 エンはその攻撃を避けきれず、頭部に食らって後ろに吹っ飛んできた。


「エン!」

「フカ、フォローよろ!」


 ソノがエンの前に鏡を集中させる。

 フカはエンのもとに駆け寄って、彼をさらに後ろへ引きずってギアアームの攻撃圏内から離れる。

 

 スマホを取り出しカメラアプリで確認すると、エンのHPは二分の一を割っていた。

 ゲームなら無視してもいいが、一回ミスしてもここではやり直しが聞かない。

 回復アイテムを腰のポーチから取り出す。持っている中でまぁまぁのランクのものだ。

 試験管のような入れ物に紫色の液体が入っている。蓋を取って、中身を彼の頭にふりかけた。

 液体は空気中に排出されたとたん気化したような状態となって、小さな光の粒となりエンに降り注ぐ。


「いってー……ありがと」

「ちょっと二人ともー! やばいよアレ」


 ソノの声で、ギアアームに顔を向ける。


「うわぁ……」


 そこには、先程の倍以上の長さのアームが、新たに二本胴体から生えているギアアームの姿があった。

 エンががばっと顔を上げる。


「変化型か! すげぇめっちゃレアじゃん!」


 モンスターには、戦っている途中で形態を変えるタイプもいる。

 すべての個体でピンチになると変化するモンスターもいるが、低確率で変化するようになる個体もいる。

 後者はとてもレアで、『変化型』と呼ばれる。

 レアドロップの確率が上がる、という説もあるが真偽は不明。


「エン、どうする?」

「そーだなー。ま、基本戦略は同じでいいんじゃね? 攻撃パターン変わるだろうからまずは全パターン吐き出させてから本格的に」

「じゃなくて」

「じゃなくて?」


 フカはエンに視線を向ける。

 エンは目をきらきら輝かせていた。

 聞かなくても大体答えはわかっているが、チームのリスク管理担当として聞いておくか、と意を決する。


「撤退するかしないかってこと」


 エンはびっくりしたようで、一瞬固まった。


「するわけねーだろ、バーカ」


 馬鹿にしたニュアンスではなく、楽しそうに答えるエン。


「いやね、お前がそういう感じでいてくれると俺的には助かるところもあるんだけどさ。--変形する敵、おそらく誰も倒したことないレアなやつ。そんなのに、俺が燃えないと思う?」

「思わない」


 エンは立ち上がって前方に進む。

 それからフカを振り返る。


「何度も言ってるよな。俺は熱狂の中で死にたい。だから、ここで死んでも、まぁ文句ない」


 できればトップに上り詰めてから死にたいけどな、と小さく付け加えた。


「でも一応チームだから。お前らの意見を聞いとこうかな」


 どう? とエンはソノに話を振る。

 ソノはいつも通りスマホをいじりながら答える。


「うちはどーでも。ちょっと相手の方がレベル低いのが嫌っちゃ嫌かな。できるだけ早く死にたいけど、死に場所はいい感じの機会を選びたいよね」


 ソノは本当にどうでも良さそうに答えた。


「僕もどうでもいいよ。ソノとほぼおんなじ」

「まねっこー」


 ソノがからかうような声を上げる。

 本当に同じなのだろうか。

 確認する意味で、フカは自分の考えていることを口にしてみる。


「この世に嫌いなものが多すぎる。好きなものなんてほとんどないから、さっさと死んでも同じだと思う。でも、嫌いな人たちにバカにされるのはもっと嫌だから、情けない死に方はしたくない」


 能力の低いフカがこのチームに入れた、二人と共同戦線を組めた理由。


 彼らはみんな死にたい。

 

 自分にふさわしい死に場所を探すため、ダンジョン攻略に力を入れている。


 人生というのは残念ながら不公平だ。

 死にたい人には死が訪れないのに、死にたいなんて微塵も思っていない人に病や事故が襲いかかる。


 自殺はしたくない。嫌がらせを苦に死んだとか、心が弱いとか死んでまで誹謗中傷されそうで。

 かといって、急に病や事故などに遭うことはなぜかない。一日のうち、この国で何人が死んでいるのかわからないくらいなのに。


 だから彼らはダンジョンに希望を求めた。


 ダンジョンでは、ものすごく多くはないものの死亡者はそこそこいる。

 強い敵を倒してダンジョンを攻略したために命を落としたり、街を防衛するために命を使う人たちのことは、みんな称賛する。


 ダンジョンで死のう。


 フカは中学生のときにそう決めて、たまたま志を同じくする二人に出会った。

 あれから三年経っても、まだ死ねていない。

 人の目や世間体を気にしすぎているせいかもしれないが、これだけは譲れないので仕方ない。


「なんだ、お前らどう見てもまだ死にたくないじゃん」

「そう、なのかもね」

「じゃ、最高の死に場所探すためにもーーここでこいつぶっ倒そうぜ」


 一瞬の沈黙。


「……それ意味わかんないんだけど」

「前半と後半の文脈がつながってないよね」


 ソノが冷ややかな視線を向け、フカがそれに同調する。


「あーもう冷める冷める気分が冷める! 格好よくて良いこと言ったことにしといて!」


 エンはぶんぶん剣を振り回した。

 フカとソノは顔を見合わせる。


「どーする?」

「エンがそういうなら、ここはそういうことにしておいてあげようか」

「なんで」

「面倒くさい」

「それは納得」


 ソノはにっとフカに笑いかける。


「しゃー、行こうか。三人いればらくしょーでしょ」

「そうだね。さくっと倒せることを祈ろう」


 エンは満足そうにうなずいてから、ギアアームに向き直る。


「行くぞ、待ってろよレアドロップ!」


 そこは格好良いセリフを言うところなんじゃないか? と思いつつ、即物的な態度に好感を覚えた。


 三人は再び、ギアアームに挑みかかった。

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