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1-2:ここはダンジョンの中

プロローグの一週間前くらいからスタートです。

 洋館の廊下に似た空間を、三人は並んで歩いていた。

 廊下はかなり広く天井が高い。この建物が、巨大な建造物であることがうかがえる。


 白い壁にシックな色の黒い腰板。その白い部分には、時折プロジェクションマッピングのように色とりどりの蝶や花のシルエットが流れていく。しかしどこかにプロジェクターがあるようには見えなかった。


 そこを歩くのは、ブレザータイプの制服を来た、少年二人と少女一人。


 一番右側を歩く少年は、スマホをいじりながら歩いていた。

 彼の顔を、中央を歩く少年が覗き込んでくる。


「フカ、お前何してんの?」

「スマホゲーム」


 フカ、と呼ばれた少年は、軽く顔を上げて答えた。

 中央の少年が、その画面をのぞき込む。

 表示されていたのは、絵柄を上にして規則的に並べられたトランプたち。



「ソリティア?」

「まぁ。フリーセル」


 訂正したが、相手には違いがわからないようだった。


 中央を歩く少年はしばらくスマホ画面をじろじろ眺めていたが、それに飽きたのか今度は一番左の少女の方を振り向く。

 そちらも同じように、手元のスマホ画面を凝視していた。


「ソノは何してんの?」


 ソノは、少年の方に顔を向けてから、自分の耳に手をもっていった。ワイヤレスイヤホンを片方はずしてから、問いかける。


「エン、今なんか言った? ごめん聞こえなかった」


 傾いたスマホ画面から、動画が流れているのがわかった。

 エンと呼ばれた少年は何も答えず、不満げに顔をゆがめる。


「もー、お前らやる気なさすぎ、緊張感なさすぎ! ここがどこだか本当にわかってんの?」


 フカとソノは平然と答える。


「「ダンジョンの中」」


 言って、二人は顔を見合わせた。


「お、そろったー」

「やったね」

「仲良いなぁお前ら……」


 エンはあきれ顔で肩をすくめる。




 ある日、世界各地にダンジョンが出現した。

 それまでに存在していた建造物が、ゲームの中に出てくるようなモンスターが飛び出し、レアアイテムが眠るファンタジックな存在へと変化したのだ。だから、「ダンジョンが出現した」、というよりは「成った」と表現する方が適切かもしれない。


 すべての建物がダンジョンになったわけではなく、『ダンジョン領域』と呼ばれる領域の中に存在する物のみ。その領域の中では、これまでの常識が通用しない不可思議な現象が起こりうる。


 この国では、現在国土の半分がダンジョン領域でおおわれている。


 人々はダンジョン領域外へ移り住んだが、浸食してくる領域から出現するモンスターの対処、それと物資の調達のため、ダンジョン攻略に挑むよりほかにしかたがなかった。

 そこで、ダンジョンが出現したと同時に現れた特殊能力を持つ子供に着目し、学校の授業にダンジョン攻略が組み込まれた。今も、三人は授業の真っ最中。




 ソノがイヤホンを耳に突っ込み直しながら答える。


「エンはやる気ありすぎなの。そんなに緊張するようなタイプのダンジョンじゃーないじゃん」

「特殊なモンスターもいなければ、罠も報告されてないしね」


 ここはすでにマップができあがり、攻略寸前と言われるダンジョンだ。

  罠の位置は固定。それほど多くの種類のモンスターが出るわけではない。特殊な対処が必要なモンスターはwikiに大体報告が上がっている。


「このダンジョン超つまんない。ずーっと廊下だし。壁の模様はかわいいけど、もう飽きた。もっとかわいい敵がでるとこ行きたい」

「仕方ないよ。学校から素材採取の依頼押し付けられちゃったんだから」



 学生は、モンスターの削減やマップの構築、資源採取など様々な課題を与えられる。

 課題の種類や量は学校から指定されるが、基本的には好きなダンジョンを選んで行くことができる。事前に計画書を出す必要があるが。


 今回はその例外。

 学校側から、このダンジョンでこの資源を採取してこいと指定されている。断る権利はあるが、成績に関わるのでよほど無茶な依頼でなければ受ける方が望ましい。


 ソノはため息をつく。


「レベル上がるといいことないんだね。めんどいこと増えるばっかしじゃん」

「まぁ、高い方が依頼押し付けられやすいよね。仕方ないのかもしれないけど」


 レベルは1から始まり、上がるほど能力強化されたり特殊な補助スキルが発現するなどのメリットがある。上限は不明だが、現在プレイヤーの中で最高は98。

 ほとんどの学生が10までにとどまっており、高レベルのプレイヤーは希少だ。


 その理由は、経験値を積み上げればレベルが上がるわけではないから。

 


 たらたら喋る二人に、エンはむっとしたような表情で自分の腰を手で叩いた。そこには、学生服に似合わない西洋剣が鞘に入ってぶら下がっている。


「でも、どんなダンジョンのどんな階層だって、ランダムエンカウントで時々は俺たちのレベルに見合った敵が出るわけだし、あんま油断すんなよ」

「それは有園さんの自動防御で対処できるでしょ」

「ソノ」


 ソノのちょっと低めの声。口が不機嫌さを表すように曲がっている。


「ソノって呼んでっていつも言ってるじゃん」

「あぁ、うん……ごめん、ソノ」


 女子をあだ名で呼ぶのがなんとなく恥ずかしいが、いつも彼女にはっきり訂正されるので余計恥ずかしい。

 気まずくて、フカはスマホに視線を落とす。


 すると、横から伸びてきた手にスマホを奪い取られた。とったのはエン。

 エンはくるりと半回転しながら、二人の前に躍り出る。


「つまんねーなぁ。もっと熱くなろうぜ! 例えば今ここに、強い敵が現れたとしたら」


 そのとき、右側の壁を破壊して、異形のモンスターが現れた。

 艶のある鱗で覆われた胴体。そこから広がる蝙蝠に似た翼。とげとげしい頭部には、鋭いキバのある大きな口と眼光鋭い瞳。


 ドラゴン。


 西洋ファンタジーに出てくるようなそれが、エンに向けて口から火を噴きだす。

 その間に 六角形の鏡群が割り込んできて、一つの板のようになって火をはじき返した。


「あーあ、エンがフラグ立てるから来ちゃったじゃん」


 ソノがイヤホンを両耳から外しながら言う。彼女の周りには、いつの間にか現れた六角形の鏡がいくつかふよふよと宙にただよっていた。

 エンを責めるようなことを言いつつも、なんだかうれしそうで口角が上がっている。


「は、俺のせいなのこれ?」

「強い敵来たらどうするんだ、とか言うの、強敵フラグなんだよね」

「それはフラグとか漫画とアニメの見過ぎ」


 エンはフカに視線を向け、スマホを投げ返す。

 危なげなく受け取ったフカはスマホを操作し、アプリを切り替える。

 カメラアプリに似た画面が開く。

カメラをドラゴンに向けると、画面上に『Lv.45』とポップアップ表示される。


「……どうせ漫画とかゲームみたいな世界じゃん」


 独り言のように呟きながらスマホをしまう。

 少し前方で、エンがドラゴンに向き直る。


「フカ、あいつのレベルは?」

「45」

「マジで? 2レベ上じゃん、やっば、ウケる」


 ソノは前を向いたまま後ろに下がる。

 フカはエンの背中に問いかける。


「どうする? 退く?」

「まさか!」


 エンは腰に下げた剣を抜き、中段に構える。


 レベルは、大半のRPGみたいに経験値積み上げたら上がるわけじゃない。


 自分より高いレベルの敵を倒す。すると、相手のレベルに合わせて自分のレベルも上がる。

 

 つまり、理論上はレベル1のプレイヤーがレベル99のモンスターを倒したら、一瞬でレベル99になれるという狂った設定。


「2レベ程度じゃ負ける気しねーよ。それに」

 

  構えた剣に赤い炎が伝う。


「死んだって別に構わないだろ」


 エンは楽しそうに笑いながらそう言った。


「だよねー。いったれいったれ!」


 ソノが軽くぴょんぴょん跳ねて答える。


「それもそうか」


 学校の中で、誰とダンジョン攻略するかは自由に選べる。

 三人がパーティを組んでいる理由。それは、目的の一致。


 全員、そろそろいい感じに死にたい。

 ダンジョンのある世界で、彼らは死に場所を探してる。




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