おいわいさま。
「ねぇ、見たことある?」
「いや、あるわけないじゃん」
「だって……ねぇ…… 」
割りと有名な。
大きな病院の渡り道で世間話をしている患者たち。
彼女らはいわゆる、怪談話に花を咲かせていた。
「いっぱい手を生やしてて、毛むくじゃらで……でもって、血塗れとか。意味わかんなくない? 」
「だよねー? つーか、盛り過ぎっしょ? 」
「だいたいそんなの、聞いたことないしぃ」
手にしていた携帯機器で検索しようともまるで引っ掛からない。
都市伝説にしても程がある。
皆が寝静まる頃、深夜遅くにケタケタと笑い声が辺りに響き渡っていった。
真っ昼間であれば良いものの仲睦まじい女子トークショーは更に輪をかけ、他の入院患者から苦情のひとつというより掛け布団を被せられて、粽にされることは必須だった。
とにかく、それくらい五月蝿く実に面倒臭い。
「で、さぁ……」
「ウッソ!? マジパねぇ!」
「キャハハハ!! マジウケる!!」
盛り上がりが最高潮に達しようといていた、まさにその時である。
月明かりが暗闇に覆われ、足元を照らす機器の動力すら全てがシャットダウンされたのだ。
傍にあった自動販売機も沈黙する。
「え……なに、これ…… 」
他の二人は言葉も発することができない。
ただ、ガタガタとその身を震わせて暗闇の最奥へと視線を注ぎ……
やがて、静寂だけがその場を支配していった。
眠りを妨げる者には報いを与えん。
今宵も ──
おいわいさまは這いずり回っている。
時に死神の鎌を振り上げながら。