三部族の命名法則
パプァは『パ族のプの産んだ長女』という意味らしい。だからパパァと聞こえる。
プは屋号らしい。プの産んだ娘の子供はペになる。
具体的に述べるとパプァとパプィは母が違う。
しかし彼女らは同じプの子として姉妹を名乗る。同じ家屋に『母』が何人もいることで家事負担を軽減している。誠に合理的と言えよう。
だがこのままでは重複する名前になったり、そもそもアイウエオの後はどうなるのか疑問だ。なぜなら母は幾人もいて一人一人が五人六人と子を産むのだから。
彼らの数の数え方は原則三までであり例外的に五までをァィゥェォと呼びさらに10進数を用いる時に限ってァァィィゥゥェェォォを使うのは以前に述べた。この疑問をパプィに聞いたところ彼女いわく『小さな頃はポポポと呼ぶ』つまり『パのプのポポポ』を略して『プポ』などと呼ぶ。
固有名詞はないのか不思議に思って尋ねると『ある』とのことで確かに大人たちは固有の名前を持つ。
敵に贈られたりあるいは称号のようなものを固有の名とするようだ。中には『鳥の糞』という不名誉な名もある。その『鳥の糞』なる男は守護者で私の同僚で英雄なのだが。
彼らはあまり名前にこだわらずコロコロと改名を繰り返す。敵につけてもらった名前が最も名誉ある名前であることは三部族一致している。
考えてみれば我が友の頭は見事な鳥の巣頭であり一人佇むその頭に小鳥が巣を作っていたのを私とパプァは苦笑いしながら眺めていたものだ。鳥達は誠に良い巣を見つけたが彼らの不幸はこの理想的なる巣が人間の髪であったことだろう。
我らの友は実に穏やかで口数もなく漁の腕はとてもよくよく歌いよく踊るこの島々では理想的な男である。闘う時は別人だが。
しかしパプァは何故か幼名のままである。
曲がりなりにも『守護者』であるならば敵から与えられた名を名乗っていい筈であるが。
そう『鳥の糞』に疑問をぶつけると彼は苦笑いしていた。
「実はある」
守護者仲間の女性、『炎を踏む脚』(※私には発音できない)から衝撃の事実を告げられ私はパプァの顔を、パプァは『炎を踏む脚』嬢を強く見ることになった。
「私ももうちょっと早く会っていたらガグガと名乗ったかも」
そういって彼女は豊かな胸を震わせて私におどけて見せた。
パプァはその後、しばし機嫌が宜しくなかったので日本から持ってきたChocolateが役に立った。
後に私は他部族同士で夫婦となる者同士は幼名を名乗り合い、婚約に際してお互いの部族の名を贈り合う慣習があると知ることになるが、当面先の話である。