『パ・ガ島』について思いつくままに書き連ねたる
(※ 当資料は近年の感覚では差別的表現が含まれますが原文を尊重してそのまま公開しております。帝国国会図書館番号○○号)
『夢の島、もしくは守護者の島を訪問し記録したるをここに残す』
無職 剣道家 小倉直樹
日本人であり『守護者』であることをここに明記す
【概要】
パ・ガ島(※現地で吉凶を意味する)は帝国より南、北緯X度東経13Y度に位置する。
我が国による信託統治を受け入れるにあたり我が国と同盟関係を結んだと主張し続ける三つの部族が支配する面積314キロ平方メートルになる火山島である。
【地理】
島の南東に近くに我が国の租借地『新京都』。
南西に現地部族の首府である『パ・ラ』(※幸なる旅立ちの港。旅立ちと都は同一の言語。日本人は『新神戸』と呼ぶ)を持つ。
島の狭さに反して多彩な地形と気候、豊かな植生と資源を持ち戦略的に重要な島として我が国とは古来より深い関係にあった。
【資源】
島北西は天然のグアノ(※化石化した鳥糞)資源の宝庫として世界的に認知されている。
このことから『グアノ島法および南洋におけるグアノ資源に関する南北亜米利加間協定』(1850年頃に南北亜米利加両国が発見した占領されておらず、且つ他国政府の管理下におかれていない土地は両国の認定の元その発見者および両国の土地とする法案および協定)によって発生した領有権争いから発生した『太平洋戦争』(※現地語でグ・ゴ=『糞戦争』)の発端となった。
不可解なほどに純度の高いこの島独自のチタン鉱石(※彼らの言葉で『ミ・ルゥ』。語源不明)を豊富に産出する。
その他豊富な火山性資源を持つが不思議なことに我が国との関係が始まるまでは現地部族には鉄鉱石や車輪を使う文化はない。
【植生など】
植生は豊富であり、動植物共に多様な独自種が生息する。
カツオ、マグロ、カジキ(『ピ』)、鯨やイルカ類(『パ』)、および海草(『プ』)をはじめとする海産資源の宝庫であり、観光資源としても期待されている。
反面タロイモ以外の作物は目立ったものがない。
南洋適応稲の増産は大きな成果をあげている。
火山の近くには野生化した豚や犬が確認され、現地では最大の御馳走とされる。
豚や犬は彼らが入植する際に持ち込んだ家畜が野生化したものでありこれより大きな獣は確認できない。
(※彼ら曰く犬や豚より大きい陸の獣は全て『ガ』(※外から来たもの。異界のもの、くちにするもおぞましきもの)である。
【気候】
気候は典型的な熱帯雨林気候であるが島南東は何故か温暖湿潤気候であり我が国の人間には過ごしやすいことから伝統的に多くの入植者を受け入れている。季節は雨季と乾季に分かれるが新京都周囲では僅かながら明確な四季が存在し、降雪もまれながら確認されている。
【我が国との関係】
彼らは日本人を彼らの伝説に登場する第四の民『パ・オ』、『太陽の民』(※喜びと絶望をもたらすもの)と呼ぶ。
租借地新京都、高等教育の受け入れ、帝国議席枠等の代償として各部族内における自治権を持つ。『ガ』族による献身的な治安維持活動により彼らの主張するところの『近年における最も理想的な敵対関係』を続いているが、『日本人がパ・オの役目を果たす限りのみ』と彼らは主張している。
【歴史】
ガ族の禁則地に一万年ほど前の遺跡が確認できるが、現三部族との関連性はない。(彼ら曰く『パ・オ』の遺したもの)。
5000年前に『パ』族が到達。彼らの本拠地となる。
同時期に『ガ』族が『グ・ル』港に到達。巨大珊瑚礁である『グ・ル グ・ル』を本拠としパ族と領有権を巡って長期にわたって対立と協調を続けている。
しかし『ン』族が到達した時期は今だはっきりしていない。
平氏政権の海外貿易方針を引き継いだ鎌倉幕府、中興の祖である織田幕府が続けた海外進出および貿易の記録に少ないながら何度か名前が登場する。
我が国とはスペインなどと同じく侵略と反撃、抵抗と支配を繰り返しつつも彼らの主張する『理想的な好敵手関係』を維持し、特に1940年に勃発した『太平洋戦線』(※現地語でグ・ゴ=『糞戦争』)以降は現地守備隊が犯した独断を基として最大反抗勢力であった『ガ』族の信頼を得ることになり彼らの本拠地であった『グ・ル』(栄誉の道程)の租借地契約を結ぶことに成功。以降は帝国の一員として良好な関係を維持している。
【言語・文化等】
オセアニア諸語族の明確な影響を持ちながらも独自の言語を持つ。
一年を三六〇日とする独自のカレンダーを持ち、一週間を六日(一日を休日、もう一日を訓練もしくは楽しむ日とする)、一ケ月を三〇日とし、『ン』月である閏月や『ン』日(彼らのとっての祝日に該当する)である月周調整日を持って農作などのライフイベントの調整を行っている。かなり大雑把な暦に見えるが四年周期においての正確性はグレゴリオ暦に比類する。
現地語は単音節を多用した『語らぬ言葉』を是とし、語彙は少ない傾向にある。
文字を持たない民族とされてきたが『語る紐』『語る鏃』(キープ文字)や『言葉に勝る踊り』(フ・ァラ)を持って意思疎通や科学知識等の伝承を行うことから豊富な語彙があると判明しつつありその総語彙およびテクスト量は日本語に匹敵する。部族内外の争いごとは主に『フ・ァラ』にて平和的に解決されることから当時流れてきた武士が大いに驚いたことが鎌倉時代の記録に残っている。
【特記事項:数学】
語彙は少ないが理解できないわけではなく、ゼロの概念(※『ン』。余談だが『ン』族とは『存在しない民』の意)を持ち、古来より円周率を理解し天文学に通じ、地球が丸いことなども基本的な知識として持っている(彼らの独自尺貫法『メ』は我々の持つメートルキログラム法とほぼ同一であるのみならず彼らの伝承では『小さなこの世界そのもの』であることから彼らは地球を一周したのではないかという研究者すらいる)。また独自の柔軟な宗教観、宇宙観を持っており日本神道や基督教なども柔軟に受け入れ咀嚼し進化させる哲学論を持っている。
数字の数え方は一般的に『ン』(※ゼロ)『ァ』『ィ』『オオ』とゼロから三以降までしか基本存在しないが、彼ら独自の算術においては十進法に類する言語が存在し、『ェ』『ォ』『ァァ』『ィィ』『ゥゥ』『ェェ』『ォォ』と仮称する。(※実際は口頭ではなく舞踊にて表現される)
【特記事項:遺伝資源】
周辺諸島の影響を明確に受けてはいるにも関わらず人種的には謎が多い。
一般的にパ族は男子は168センチほど、女子は162センチほどの体格。黒い肌に中庸で引き締まった体つきと縮毛、大きく愛嬌のある青い瞳。
ン族は150センチ強ほどの子供を思わせる容姿。色白で小柄で華奢だが機敏かつ耐水能力が高く、直毛もしくはゆるいウエイブのある白い髪。
ガ族は赤銅色の肌と男女ともに180センチ前後の強靭な肉体および日本人的感覚では上品かつ端正な顔立ちと黒い直毛を誇る。これは脇部や陰部も同様である。
例外は勿論あり特に日本人との混血においては顕著だが、これら部族的特徴が混血を繰り返しているにも関わらず未だ残存している。
彼らは他の民族にない遺伝資源を豊富に持っているが、完全に無知の状態から人類の遺伝資源の著作権管理の重要性に気づきその著作権管理会社組織を人類で初めて立ち上げたのは彼ら自身である。同時に彼らの舞踊の振り付けをはじめとする文化資源の著作権管理、モーションキャプチャーによるその自動テクスト化事業等をも行っておりこれにより彼らはこの島の温暖で良好な環境も相まってほとんど就労することなく生活することが可能となっている。
【常備軍】
文字を持たず、車輪を扱う文化がなく、鉄器を扱わない文化文明であるが極めて高度な科学知識と文明を持ち、向学心や知的好奇心豊富な彼らを舐めた各国列強はことごとく彼らの常備軍である『守護者』をはじめとした自警団により撃退されている。
彼らの『守護者』は各部族(※歴代の伝承からは日本人、イギリス人、スペイン人などの名前も確認できる)より選出された戦闘、海洋、舞踊、唄呪術等のエキスパート五名から(予備を含め10名)なる存在で、その歴代はその勲功と共に神話として今も『生きている』。
近年では戦闘のみならず前述した遺伝資源の著作権管理や対貿易協定、我が国との租借地契約などのタフな外交などもそつなくこなす部族における政府高官としての役目も持っている。
余談だが近年では日本における五人を基本とした子供向け特撮が彼らの『守護者』に一致したことから絶大な人気を博し、全シリーズ全話とも過去に放映されており、そのどれもが最大視聴率を稼いでいる。
(彼らにとってはフィクションの『守護者』も彼らの『守護者伝承』のひとつになっていることから彼らの柔軟性が垣間見える)
【宗教】
彼らは『ガ』を主神とする多神教をもち、その代行者にして神官でもある村落長や部族長、大酋長を尊敬している。
月の神にして虚無にして偉大なる胎を持つ『ン』女神の息子。
死体を弄ぶトリックスターであり、近年では我が国の月読命と同一視されている。
(※転じて彼らは死体を尊重する文化を持っている)
同時に『パ』(太陽の神、恵みと破滅、喜びと絶望を司る)を怖れ敬う。
彼らは『パ』を避け『ガ』のごとく平静に沈黙を守ることで恐怖や絶望に捕らわれない人生を得、『ン』に戻ることが出来ると信じている。
死を前提とした無常や輪廻転生の概念など基本的な宗教観は神道および仏教に酷似しており、我が国の宗教者とも交流が深い。違いをあげるならば守護者としての伝説が認められたものが輪廻の軛から解かれるということだが。これは守護者である自分もあまりよくわかっていない。この件については『この世界の身体を失った時におまえでも自ずとわかるだろう』と古老たちは呆れている。
【服飾】
服飾などは各部族によって変わるが木繊維を用いた不織布を使うこと、ボディペイントやある種のタトゥを好むことは共通している。
ン族は煌びやかな装飾と全身を覆う布地を用いたゆったりとした衣装を身にまとう。
ガ族は完全な裸族であり、煽情を是とした呪紋を多用し、近年まで帝国の良識ある者との間に悶着を起こしてきた。
パ族は中庸であり女子は胸部に胸当てもしくは全身を布でまとい、男子は腰布をつけ独自の靴を履く。パ族に限りタトゥの習慣がない。
(別研究者註訳:日本人入植者および観光客はガ族の旧本拠地である珊瑚礁を『グルグル島』と略して呼ぶがグ族と呼ばれると怒るガ族もこの珊瑚礁の呼称に対しては『確かに丸い』と我々の言葉を踏まえて笑っており気にもしない。これは近年放映された召喚魔法を扱った日本のアニメが彼らの琴線に触れたためらしく全話通して彼らの部族内視聴率は実に100%を記録している。彼らの認識中ではかのアニメの小柄で愛らしいヒロインもグ族の子供らしい)
※新京都では現在(2020年)軌道エレベータ『世界塔』(ン・グァ・プォ。名称は現地公募にて決定)の建設が進んでいる。
三部族の古老たちはこの建設に対してきわめて好意的であり租借権の延長を彼ら自身より『この塔および維持管理に必要なシンキョート周辺設備に限り現時点では永続的に租借を認める。ただし自由に使用を認めること。維持管理はこちらも負担するとともに実際の自由なる使用についてはお互いの相談と公共の福祉の範囲で決めよう』として申し出てきた。帝国政府は二つ返事で彼らの提案を受け入れるとともに関係者は彼らの流儀に従い『同意の舞い』を行うとともに朝まで飲み明かした。