第一の夜
ぺた、ぺた、ぺた……
モノクロの廊下に自身の足音だけが響く。
もうどの位こうして歩いていただろうか。数分のようにも数時間のようにも感じる。
どこまで歩いても果てがなく、人の気配すら感じる事が出来なかった。
現実味の無い世界。
自分がどこに向かっているのか、この廊下に終わりがあるのかも解らないままただ歩き続けるのは苦痛以外の何物でも無い。
しかし歩みを止めることは出来なかった。
それが何故なのか?と問われればきっと明確な答えがある訳でも無かったが、とにかく歩くことをやめてしまったらいけないのだと強迫観念のような思いで歩き続けるしかなかった。
「…………」
不意に人の声が聞こえた気がした。
その途端に今まで聞こえていなかった秒針の音も聞こえてきた。
「誰かいるのか?」
藁にもすがる思いで呼び掛けてみる。
「………な…」
誰かが何かを喋っている。
そう確信はしたものの秒針の音が邪魔をして何を言っているのかはわからなかった。
こちらが聞こえないのなら相手にも自分の声は届いていないのではないか?
そう思って今度は叫ぶように呼びかけてみた。
「誰かいるのか!」
「……で………し……」