捧詩
<E.E.D.に捧ぐ> その3
芸術家は<一般性>の中に埋没したりしない――
いや、できないのだ
<E.E.D.に捧ぐ> その4
彼女はほとんど天才的――
いいえ、天才とは常に完璧なる者
最も神は人が完璧であることを
決して許したりはなさらない方――
それで魂の砕かれた破片が
いつも他の部分を蝕もうとするのです
<E.E.D.に捧ぐ> その5
あなたは抒情詩の女王にして
短詩の女王
あなたの朽ちることのない花冠は
消え去ることのない朝露と真珠
それから芳香を失うことのない薔薇色の輝きとで出来ている
結局のところ
この世の者は誰ひとりとして
あなたに相応しくなどなかったのです
カルヴァリの女王の崇高麗雅な口接けなどには――
<E.E.D.に捧ぐ> その6
彼女には唯ひとつのもの以外
何も与えられはしなかった
だが神は<それで十分>と
お考えになられた御様子で――
彼女がどんなに
「どうかお願い一口だけ」と願っても
「優しい神さま、どうか一度だけ」と祈っても
それ以外何ひとつ与えられはしなかった
彼女に与えられたのは
<彼女の人生>
それひとつきり――
だが真理とはわたしたちが考えるよりも
遥かに深く広大で複雑なものだったのだ
<E.E.D.に捧ぐ> その7
あなたの詩句のひとつひとつを
読み解くことは
まるで聖書の詩篇を
紐解くことのよう
どの語句もひとつとして誤りがなく
余分なところも無駄なところもなく
絶妙なインスピレーションと啓示とに
満ち溢れていて――
おお、エミリー
わたしはあなたに魅了されています
あなたの詩、あなたの生き方、
あなたの人生哲学とも呼ぶべきもの、
あなたの生き生きとした生涯と
あなたの全存在とに
わたしの愛するエミリー、
わたしはあなたに天上の国でお会いできるであろうことを
この上もなく楽しみにしています
どうかその時には
韻の踏み方ひとつ知らぬわたしに
英詩の手ほどきをしてくださいね
もしかしたらあなたは
「わたしよりもSさんにお願いしては?」
と謙遜しておっしゃられるかもしれませんけれど――
わたしはシェイクスピア氏にではなく
是非ともあなたにお願いしたいのです!
<E.E.D.に捧ぐ> その8
あなたのいうとおり
お墓って最高ね
墓石という名の枕は
肉体にはとても硬く感じられるものだけど――
魂にとってはこんなにも柔らかい
おかげでこのままぐっすりと幾世紀でも眠っていられそう
どんなに遅くても至高のお方の再臨の時までは――
<E.E.D.に捧ぐ> その9
恩寵ですよ、お嬢さん
朝陽が昇りました
さあ復活の白い衣を纏って
お墓から出ていらっしゃいな
万物を創造された神に
とうとうお会いすることが叶うのですよ……
え?
なんですって?
天国へ行きたくないですって!
どうしてなの?
お墓のほうが安全だなんて
そんな保守的な考え方は
もはや通用しませんよ
さあ、早く出ていらっしゃいな!
みんながあなたの花嫁になる姿を見たくて
天使であるこのわたしを遣わしたのですから!
<E.E.D.に捧ぐ> その10
あなたはサクソンの愛され人――
サクソンはあなたを捕えて離さなかった――
あなたがサクソン以外のことに心を奪われる瞬間を
彼はそれはとても妬ましく思っていて――
それであなたを自由な詩の檻の中へと監禁したの
あなたもまたサクソンの愛に
官能的なまでに応えた人――
そして彼の愛を永遠に自分の所有として離さなかった――
けれどもあなたの時代の人々には
そのような途方もない結婚については
ついに理解できず――
今ではあなたと共に
墓へ葬られることのなかったサクソンだけが
あなたの不滅の愛の確かさを証ししている――
<E.E.D.に捧ぐ> その11
あなたは花嫁の中の花嫁――
イサクに嫁いだリベカの行為よりも
神はあなたの心の清純さこそを
愛しておられることだろう
ましてやあなたは詩聖――
天国の扉をノックして
そのドアの開かれる時
あなたは人々のみならず
天使からさえも
万雷の拍手を持って迎え入れられる
その轟きの音を聴く時
あなたは自分の名声の高さに
身を隠したくなるほど
驚くことだろう
あなたが生前に書き記した
多くの詩の一篇一篇に宿る魂に
どれほどの人々が
希望と愛と慰めとに授かったかを知って
けれども今度という今度こそは
決して恥かしがらないで欲しい
何故って
もはや身を隠したくても
隠すべき身体そのものが
わたしたちには喪われているだろうから!