62〜100
62
わたしはひとり
あなたもひとり
でもわたしたちは夢をみる
もしかしたらわかりあえるかもしれないという夢を
63
わたしが貯蓄したいと思うものは
お金ではありません
それは目に見える数字では
決してあらわされることのないもの
地球という名の銀行に
わたしが毎日預けたいと思っているもの――
64
例え<愛>以外のすべてのものが
いかに整えられていたとしても
人間のすべての手の業に
本当の息吹を与えるものは
ただ<愛>ひとつきり――
<愛>のない世界は死の世界
まるで太陽と月とが滅んだあとの地球のように
癒しようのない世界なのです
65
愛って万能の治療薬
愛に癒せぬ病いはない
例え肉体は死の床にあろうとも
魂に愛情という名の血液が循環しているのなら――
魂が死の上にあって
肉体が健やかなよりもずっといい――
否、そのほうが遥かに勝っているといっていい――
66
すべてのことにおいて
結果だけを求めるのは良くないわ
何かの結果に至るまでの過程を
優しい眼差しで見つめなくては――
例え愛を求めて
結果が不幸に終わったとしても
いつまでも不幸だけに目を留めて
人は生き続けることはできないのだから――
67
愛の仕事というものは
決して終わりを迎えるということがない
何故なら本当に本物の愛とは永遠で
終わることも枯れることも知らないものだから
68
わたしはひとりで黙っていた
彼が「一緒においで」と言って
わたしの手を導いてくれるまでは
<永遠>がわたしを誘って
あの崇高な墓場にまで連れていってくれた
そこでわたしはただ驚きうろたえる他はなかった
肉体を通して示される
このような永遠にも勝る愛が
地上でも許されて良いのかどうかということを――
69
一度でも<永遠>を経験したことのある者は
もはや<この世の力>を必要としない――
<この世の力>は<永遠>と相反する性質を持ち――
<永遠>自身は<この世の力>をすでに超越している――
<この世の力>はさながら鉄の鎖のようなもので――
<永遠>はそれ自身が解放なのだ
70
「あなたはそんなにも何が欲しいのですか」
とわたしが彼に訊ねると
「薔薇色をした血が欲しい」
と彼は答えて言いました――
情熱なしに人は生きていくことはできないと
隠喩で彼は答えていたのでした
71
あなたの欲しいものをすべて
わたしに言ってみてください
もしもわたしの中に
あなたの欲しいものが
何かひとつでも存在するのなら――
わたしは惜しむことなく
それをあなたに差しあげましょう
もしもわたしのこの申し出が
押しつけがましいものに聞こえたとしたら――
どうか許してくださいね
わたしは人を愛する仕方については
何も知らないものですから――
72
わたしが土下座して
あなたの足許に額をこすりつけたとしたら
あなたは許してくださるでしょうか
わたしにはわかっている――
優しいあなたがきっと「許す」と言ってくださるに違いないこと――
けれどもわたしはあなたから
より確かな証拠を与えられたいのです
もしもあなたがわたしを許してくださることが真実なら
どうかあなたの心の庭から薔薇の花を摘みとって
それをわたしにください――
棘だらけの真紅の血の色をした薔薇の花を――
73
わたしも多分他の多くの人々と同じように
おそらくはたくさんの過ちと罪とを犯して死ぬでしょう
でもわたしが生きている限り善行に励みたいと思うのは
決して己の罪に対する刑罰を減らしたいからではありません
それはただ愛のためだけになされるものなのです
74
魂に荊の鞭を百度加えられても
決して手放せないものがある
わたしにとって愛情とは魂の別の名で
それはいかなる苦痛にも耐えるから
75
愛よりも憎しみを
希望よりも絶望を
平和よりも戦争を……
地上に生きる人間の誰ひとりとして
そんなことを望んではいないのに
どうして世界は天地創造の以前よりも
混沌としているのだろう
76
わたしは永遠の家に住んでいる
その家は爆撃機に攻撃されても
原爆を垂直に投下されても
決して破壊されることのない家
魂と不滅との永遠の住処
77
肉体は魂の安全なる住処ではない
魂は魂だけで独立した国家だというのに
わたしたちは肉体という名の不自由な共和国で
暮らさなければならないのだから――
そして死に至ってから初めて
本当の自由と本物の独立とを勝ち得ることができるのだ
78
<生>と<死>
<善>と<悪>
<愛>と<憎しみ>
<戦争>と<平和>
<歓喜>と<苦悩>
<希望>と<絶望>
<繁栄>と<没落>……
わたしたちを日々悩ませるこの二元論
どこかにこのふたつのものの中間はないのでしょうか
79
もしもわたしの手に魔法の杖があったなら
人々の間にある諍いを静め
戦争の悪い実を平和の良い実へと変えることができるでしょうに
もしもわたしの手に魔法の杖があったなら
汚染された水の流れを清めて
その源までも潤すことができるでしょうに
もしもわたしの手に魔法の杖があったなら
飢えた人々の唇に
マナを降らせることも夢ではないわ
もしもわたしの手に魔法の杖があったなら
傷つき倒れた人々の心や体や魂までも癒すことができるでしょう
もしもわたしの手に魔法の杖があったなら……
80
わたしが住みたいのは
美しくて綺麗で繊細で
とても純度の高い国――
その名は<天国>
81
わたしも他の多くの人々と同じように
生きて死んで甦らなくてはなりません
何故なら死んでも甦った者は
<永遠の魂>を持つとわたしたちは信じているからです
82
わたしは希望よりも
絶望のほうをより多く愛した――
何故って希望の光の向こうにではなく
絶望の重い扉の向こう側にこそ
神さまはいらっしゃるのに違いないと
そんな気がして――
83
天使はこの世の汚れに感染すると
あまり長くは生きられない
ましてやこの世というところに
まったくといっていいほど免疫を持たずに生まれた
天使に似た人々などは――
どうやって生きながらえられましょうか
84
天国は本当に楽しいところなのでしょうか?
それともただ単に退屈なところ?
いいえ、ちっとも退屈なところなどではありませんとも!
だって生きている個人に
もう一度お会いすることのできる
唯一の場所なのですから!
85
わたしはあの方のことを愛しています――
天においても
地においても
ただあの方のことだけが
たまらなく恋しいのです!
86
神よ
わたしにはわかりません
わたしは自分から好んで
十字架を背負うことになったのでしょうか
それとも十字架のほうがわたしに向かって
<おまえはわたしのもの>
と言ったのでしょうか
87
神はわたしの心臓に釘を刺した
そしてわたしの魂には杭を貫き通した――
十字架という名の――
88
主よ
一体いつなのでしょう
わたしが魂の負債をすべて返し終えるのは
けれども主よ
一体どういうことなのでしょう
魂の負債をすべて返し終え
「これでやっと楽に息をつける」
と思ったその瞬間に
人が天に召されることなどは――
89
わたしの心の内に住む
<罪咎>と<良心>とが
一枚の大きな白い亜麻布を引っ張りあっています
ふたりともあまりに強い力でその布を引っ張りあったので
とうとう最後に白い亜麻布は真っ二つに裂けてしまいました――
わたしはなおも言い争い続けるふたりに向かってこう言いました
この裂け目こそが<信仰>そのものに他ならないということを――
90
<信仰>とは
気高く崇高な天国の方角へと足を向けること――
でもわたしたちはすぐに呟いてしまう
神の民イスラエルが荒野で主を試みてしまったように
わたしたちはすぐに不平不満を洩らしてしまう――
「主よ、何故に」と――
けれどももう一度
わたしたちが同じ道へと立ち返り
迷いなく同じ方向へ歩もうとするなら――
神は拒まれないだろう
その者の古き皮袋のような信仰を
91
主よ
苦しみながら死んでいく者の心を
どうか少しでも和らげてください
主よ
ただあなたおひとりだけが
そうすることを許されているのですから
92
天国とは
魂の崇高なる故郷なのでしょうか?
もし本当にそうなのだとしたら
人の死もきっと悲しいだけのものではないのでしょう
もしも<死>が究極的な意味において
癒しを伴うものであるのなら――
93
地上で露になった罪に対しては
弁護士が弁護してもくれよう
けれども魂の有罪判決に対して弁護してくださる方は
主なる神イエス・キリストただひとりきり――
もしもこの方を拒む方があれば
その者は自分で自分の裸の罪について
弁護しなければならなくなる
そして主イエスは検事の役割を担い
父なる神は裁判官――
この裁判の被告の勝訴する確率は
一体どこにあるのだろう
94
わたしは時々こう思う――
わたしが自分の人生に失望したり
絶望したりすることがよくあるように
神もまた人間たちに対して
失望したり絶望したりなさっておいでなのではないかと――
95
主よ
聖書の教えるいわゆる<復活の刻>
わたしは一体どのような心で
あなたの御前に引かれてゆくのでしょうか
太陽のように燦然と輝く心によってでしょうか
それとも死刑囚のような凍れる心によってでしょうか
96
わたしの救世主は
否定できない事実を真実をもって
解き明かすことのできる人――
もしもこの方が神でないとしたなら
きっとこの世界に神は存在しない――
この方はわたしの類稀なる苦しみを解放し
わたしの至高の悩みに答えを与えてくださった方――
また人々がわたしに対して嘲笑の刃を向けた時にも
この方だけは盾となってわたしを守ってくださった――
もし他にどなたかこのような方を御存知でしたら
どうかわたしにまで御連絡ください
97
人間の体が眠っている間も
その魂は起き続けている
そして魂は人の傷つき疲れた心を
肉体の知らない間にそっと癒しておくのだ
まさにこのことこそは魂が神の一部であることの証明
何故って神さまは
人と同じように食物を摂取したり
排泄したり
睡眠をとったりする必要のない方だから――
神は<無限>で<永遠>で
<無>でありながら<全て>でもあられる方――
神さまは魂のネットワークの管制室に住んでおられて
人間の操るコンピューターなどよりも遥かに精密に
わたしたちの心の秘密を御存知であられるのです
98
お金では買えないもの
目には見えないものを求めなさい
と主は言われます
もし<永遠の愛>や<魂の安息>
それに<信頼>や<希望>や<情熱>といったものを
お金で買えるとしたなら――
わたしは札束を天に届くまでに積み上げるでしょう
けれども目に見えないものを買うには
目に見えない代価によって支払いがなされなければなりません
それでわたしは全知全能の神に
全身全霊を尽して祈るのです
99
「わたしにも背負わせてください」
とわたしはあの方に懇願致しました
カルヴァリの道はなんとつらく
ゴルゴタの道程はなんと遠いことでしょう
それなのにあの方は血の跡の残る眼差しで
わたしにこう言ったのでした
「我に触れるな」と――
それでわたしはよろめきながら歩くこの方のあとを
どこまでも追っていくことにしようと心に強く決めたのです
100
わたしは思いだす
わたしの魂に暴徒が群がり
大怪我をした日のことなどを
わたしはどのような人間の苦しみにも耐え忍び
またどのような人間の憎しみにも怯まなかった
わたしの怯えはゲッセマネで退き
天の御使いたちはわたしの体を支えることさえ許されなかった
わたしは十字架を背負ってゴルゴタの丘へゆき
その場所で磔にされ
多くの人々のため血を流して祈った
あれから塵界では約二千年あまりもの歳月が流れたが
人々のありようはあの頃とあまり変わらない
わたしに出来ることはといえば
天の門を御使いたちに命じて
出来るだけ大きく広げておこうとすることぐらいだ