第七章 柏木遙の憂鬱
「あーあ。良いな、勉強できる人は。」
そんな楠城浩太のぼやきを聞いて柏木遙は、お前が得意な教科は体育の実技だけだもんねと呟いた。
「それって何の役にも立たないじゃん。」
「今更気が付いたの?ってか、勉強できないこと嘆くなら、本当に遊んでばっかいないで少しは勉強しなよ。」
「どうせ今更勉強頑張ったって人に教えられるほど勉強ができるようになる訳じゃないし。花月ちゃんは今勉強してるんだから、今教えられないなら意味ないじゃん。」
浩太のその返しを聞いて遙は心底呆れた気持ちになって、あぁそっちと呟いた。
「せっかく赤点まのがれて、追試も補修も受けずにすんで自由の身なのにさ。花月ちゃんに良かったねって言ってもらえて嬉しかったけどさ。でも、こんなに近くにいるのに全然接点作れないじゃん。花月ちゃんあんなに一生懸命勉強頑張ってるのに遊ぼうなんて誘えないし。勉強の邪魔して嫌われたくないし。俺も勉強できればな。香坂さんみたいに、花月ちゃんの勉強見てあげて、あんな風に一緒にいられるのに。花月ちゃんヒマさえあれば勉強一人でもしてて、香坂さん帰ってくるとすっごく嬉しそうに、光、光ってさ・・・。」
そう嘆いて撃沈している浩太に冷ややかな視線を向けて、遙はあからさまな溜め息を吐いた。
「あのさ、浩太。いつからお前、小学校の問題も解らなくなったの?そんなに頭悪かったの?それでよく高校入れたね。」
「え?」
「あのさ、お前完全に恋に目が眩んで現実見えてないみたいだから教えておくけど。花月、中身小学生以下だから。見た目は凄い美人だし、姿勢良くて案外行儀いいけど、あいつ野生児だからね。黙っておとなしくしてれば年相応に見えなくもないけど、口開いて動き出せばただの子供だから。花月は子供だから。あいつを年相応だと思うなよ。」
「えっと。遙ちゃんそれって・・・。」
「あぁ、面倒臭いな。本当、お前勉強嫌いだから、勉強してる姿見ただけで拒否反応起こして逃げてるみたいだけど。そんな風にうだうだ言ってるなら、花月と一緒に勉強して来なよ。そしたら一石二鳥でしょ。」
「え?」
「花月、こないだまでひらがなもカタカナも読み書きできなかったんだぞ。今、あいつがしてるの小学生レベルの勉強だから、それなら浩太でも教えられるでしょ。花月と勉強しながら少しは勉強嫌い克服してこい。ここでそんな風にうだうだされると本当うざい。うるさい。面倒臭い。とっとと部屋から出てけ、バカ。」
そう言って、戸惑う浩太を部屋から半分無理矢理追い出して、遙は溜め息を吐いた。
花月がサクラハイムに来てから浩太が前以上にうるさい。口を開けば、花月ちゃん花月ちゃんって、本当にうざいんだけど。今日は光だったけど、こないだは湊人のこといいなって俺も料理できればなとか言ったり、いちいち遙ちゃん俺どうしたら良いって、知るかそんなの。勝手にしなよ本当に。お前の恋愛に俺は関係ないから。そんなことを考えて遙は、あーもう本当に苛々すると叫んだ。
「ちょっと浩太からかうのと、だしに使って浩太に色々やらせるのに便利かなって思ったけど。花月が五号室使うの反対しとけば良かったかな。本当、うざい。」
そう呟いて、でも別に花月が悪いわけじゃないしなんて考えて、遙は自分のベットに倒れ込んだ。花月が悪いわけじゃない。でも花月がいるから浩太がうるさい。本当疲れる。今日はこのままちょっと昼寝しようかな。そんなことを考えているとスマートフォンの着信音が鳴って、遙は誰だよと悪態を吐きながら画面を確認し、心底嫌そうに溜め息を吐いた。
「もしもし。」
『あ、遙ちゃん。久しぶり。元気にしてる?』
「うん、元気だけど。なんか用?」
『何か用?って、遙ちゃん。高校入って家出てから全然帰ってきてくれないんだもん。そんなに離れてるわけじゃないんだから連休ぐらい帰ってきてくれても良いのに、ゴールデンウィークも帰ってきてくれなかったし、全然連絡くれないし、お姉ちゃん達寂しい。』
「あ、そ。勝手に寂しがってれば。」
『もう、遙ちゃんったら相変わらずつれないんだから。もうテストも終わったでしょ?たまには帰ってきなさいよ。』
「なんであんたらのおもちゃにされるために帰らなきゃいけないの。嫌だから。絶対帰らないから。帰省するとしたら浩太と一緒に帰って浩太んち泊めてもらうから。」
『ふふっ。そう言うと思って、お姉ちゃん達が行っちゃうことにしました。』
「はぁ?」
『今、美香お姉ちゃんも帰ってきてて、丁度良いから三人で遙ちゃんの様子見に行っちゃおうかって話しになったの。遙ちゃんが住んでるところがどんなところか気になるし。管理人さんや一緒に住んでる人達にも挨拶したいし。』
「そんなの母さん達がしてるからいい。って言うか来るな。」
『そんなこと言われても、もう決めちゃったし。と、言うわけで、明日三人でそっち行くからよろしくね。久しぶりに四姉妹でお出かけしましょう。』
「四姉妹って、まさかここで・・・。」
『だって、遙ちゃんが全然帰ってきてくれないからしかたがないじゃない。逃げたら代わりに浩太君でも可愛くしちゃおうかな。それで、写メ撮って遙ちゃんの彼女だってお母さん達に見せびらかしちゃおうかな。浩太君と一緒に逃げるなら、そしたら・・・。』
「どんな脅しなの、それ。」
『だって、遙ちゃんが練習台になってくれないとお姉ちゃん達困るんだもん。』
「そんなこと言って遊んでるだけでしょ。」
『確かに遊んでる部分もあるけど、練習したいって言うのは本当よ。普通の人を変身させるのは普段やってるから、オフでは美しい物をより美しくを追求したいの。そのためにはやっぱモデルは基が良くないとダメだし、わたし達の手が付けようがないくらい元から完成されてても変身させがいがないし。美人だけど完全に男の子な今の遙ちゃんを誰がどこからどう見ても完璧に女の子に変身させるのってかなり燃えるのよね。でも正直、遙ちゃんが本当に妹で、素直で可愛かったら良かったのにって思うな。そしたらもっと色々楽しめたのに。あ、でも、女の子だったら普通に自分でお洒落するようになっちゃうから、結局今のままが良いのかしら。』
「俺の意思は完全無視かよ。」
『ふふっ。それは末っ子に産まれてきた運命を呪いなさい。それか、幼少期を女の子として育てると男の子は丈夫に育つって男の子を女装させて育てる風習がどっかにはあるらしいって耳にして、遙ちゃんが小さい頃完全に女の子として育てたお母さんのことを恨むのね。本当、遙ちゃんそこら辺の女の子より断然可愛くて、あれでお姉ちゃん達火がついちゃったんだもん。というわけで、明日行くから。よろしくね。』
そう言って通話が切られ、遙は最悪と呟いて突っ伏した。ここで女装させられるの?皆に女装姿見られるの?無理。本当、嫌だ。それが嫌で逃げてきたのに、あいつら追いかけてくんのかよ。そんなことを考えて、明日は何が何でも逃げなきゃと思って、でも逃げたら浩太が女装させられるのか、浩太の女装姿とか見たくないな、ってか、それを彼女だって言いふらされるとか本当にありえないなんて考えて遙は撃沈した。それに、二人で逃げたら何が起こるっていうの。怖いから。本当、あいつらなにやらかすか解らなくて怖すぎるから。もう嫌だ。本当、あいつらと縁切ってどっか遠くに行きたい。本当、いいかげんにして。小さい頃から本当にさ。浩太がいなかったら俺、本当に・・・。
「柏木、これってお前だよな。お前、普段女の格好してるの?」
同級生の男子にニヤニヤしながらスマートフォンの画面を見せられて、遙は固まった。
「やっぱお前なんだ。こないだ親と買い物行ったとき見かけてもしかしてって思ったんだけど、やっぱそうだったんだ。へー。お前こんな趣味があるんだな。しかも女子トイレ入ってるし、変態じゃん。マジ気持ち悪い。」
そこに写っていたのは、女装姿で女子トイレに入っていく遙の姿だった。
「違う、これは・・。」
「違うって何が?こんなにハッキリ写ってるのに何が違うの?」
「姉さん達に無理矢理着せられただけで。」
「じゃあ、女子トイレも無理矢理つれてかれたのか?」
「それは・・・。」
「やっぱ変態じゃん。」
「違う。前その格好で男子トイレ入ったら中にいたおじさんに怒られたから。」
「前って、やっぱお前しょっちゅうこんな格好してるんじゃん。」
「それは・・・。」
言い返そうとすればするほど、どんどんドツボに嵌まっていき、返す言葉が解らなくなって、そして、そんな自分を囲んでオカマコールが響いていた。
「ちょっと、柏木君が可哀相でしょ。」
「そうだよ。世の中にはそういう障害の人もいるんだから。からかわないで受け入れてあげなよ。ね、柏木君。」
「違う。俺はそんなんじゃ。」
「無理しなくていいんだよ。女の子になりたいならそれでいいじゃん。」
「違う。俺は本当に・・・。」
正義感ぶった女子達の言葉が、それに便乗してからかってくる声が、軽蔑した視線が、嘲笑する声が、攻撃する言葉が・・・。誰も俺の言葉なんか聞いてない。信じない。違うって言ってるのに、なんで、なんでこんな風に・・・。それが遙の学校での穏やかな日常の終わりだった。制服だから、学校では女の格好させられないですんでたのに。ここではちゃんと男でいられたのに。なのに。それからは学校でも変な目で見られるようになって、男ではいさせてもらえなくなった。男でいようとしてもオカマ扱いされて、間接的に、直接的にイジメを受けるようになった。家にいれば女扱い、学校に行けばオカマの変態扱い。俺をまともに扱ってくれる奴なんて、俺の言葉をちゃんと聞いてくれる奴なんて、俺が俺でいられる場所なんてどこにもない。そう思って遙は幼くして絶望しそうになっていた。そんな遙を支えていたのは、幼馴染みの浩太の存在だった。
「はーるかちゃん。あーそーぼ。」
そうやっていつも脳天気に遊びに誘ってくる浩太の存在が、ずっと変わらず自分の傍にいる彼の存在が、遙の心の支えだった。
「今日は何して遊ぶ?公園行く?他の皆も集まってるだろうから遙ちゃんも一緒に遊ぼうよ。」
「いいよ、俺は。お前の友達、俺のこと男女だとか言ってからかってくるし。」
「遙ちゃんに負けて悔しかっただけだって。あんなチビ女に負けるなんてって、鬼ごっこで捕まったの悔しがってたし。次は絶対勝って泣かしてやるって言ってたから、遙ちゃん来るの楽しみにしてると思うよ。」
「はぁ?なにそれ。」
「よく解んない。なんか、女に負けるとか男のプライドが何とかとか言ってた。」
「本当、意味分かんないんだけど。ってか、こんな格好してるからそう言われるんだよね。本当嫌だ。何で俺いつもこんな格好しなきゃいけないの。あーあ。男の格好がしたい。」
「遙ちゃん、男の格好したいの?。」
「当たり前でしょ。そもそもこんな格好するの嫌に決まってるじゃん。そんなこと言うならお前が着たら?」
「いや、俺はムリ。俺には絶対似合わないし。遙ちゃんは似合ってるから良いじゃん。凄く可愛いよ。」
「可愛いって言われても全然嬉しくないんだけど。そもそも似合うとか似合わないとかそう言う問題?」
「え?そう言う問題じゃないの?」
「じゃあ、似合ってれば男が女の格好してもいいってこと?」
「良いんじゃない、好きにすれば。俺は似合うって言われても嫌だけど。」
「なんだよそれ。」
「だって、嫌なもんは嫌じゃん。」
「それを言うなら俺だって嫌だよ。なのに、母さんこういうのばっか買ってくるし、姉さん達も俺を着せ替え人形にして楽しんでるし。本当、嫌だ。」
「あー。自分の趣味じゃないの勝手に買ってこられるってよくあるみたいだよね。学校でもみんなよく文句言ってるよ。こんなダサいの嫌だとか、あっちの色が良かったのにとか、自分が欲しかったのは○○なのにとか。」
「俺の悩みとそれを同じにしないでくれる?」
「え?同じじゃないの?」
「同じじゃないでしょ。」
「え?どうして?同じだと思ってた。」
「本当、浩太ってバカだよね。」
「え?なんで俺バカにされてるの?遙ちゃん酷い。」
「バカにバカって言って何が悪いの?ほら、遊びに行くんでしょ。早く行くよ。」
こんな浩太の脳天気さにいつも助けられてきた。何も気にせず、ずっと変わらず、自分がどんな格好をしていても、自分がどんな話し方をしていても、変な目で見ないで、避けないで、嘲ったり蔑んだりしないで、普通に友達でいてくれたのは浩太だけだった。浩太だけが何も考えずに自分が自分でいられる場所だった。
そんなことを思い出して、遙はちょっとぐらいうるさいのは我慢してやるかと思った。まさか本気で俺のこと女だと思い込んでたとは知らなかったけど。でも、男だって解った後も浩太は何も変わらなかったからな。何の偏見も持たずに相変わらずの調子で友達してくれてるし、しかたがないから親友ポジションで面倒見てやってもいいか。そんなことを考えて起き上がる。
「明日の姉さん達襲来をどう乗り切るかは後で考えるとして。のど渇いたし、下行こ。」
そんなことをぼやいて、遙は食堂に向かった。
食堂の机で浩太が花月の勉強を見ている姿を見て不思議な気分がする。やっているのが小学校低学年向けのテキストだと解っているが、浩太が勉強している、というか人に勉強を教えている姿があまりにも違和感がありすぎて、遙はつい二人をじっと見てしまった。
「遙、どうかしたの?」
視線に気が付いた花月に声を掛けられて、遙は別にと答えた。
「勉強してるなと思って。俺、のど渇いたからなんか飲もうかと思うんだけど、二人もなんか飲む?自分ののついでに紅茶でもいれてあげようか?」
「本当?ありがとう、遙ちゃん。」
「遙、ありがとう。」
二人にそう言われ、遙はキッチンに向かった。お湯を沸かしながら二人の様子を眺め、精神年齢も近いしお似合いなんじゃない、とか思う。花月の方がずっと真面目で努力家だから、この調子だと浩太、すぐ学力追い越されそうだけど。そんなことを考えて、遙は花月っていったい何者だろうと思った。知識はないけど頭が悪いわけじゃない。大抵のことは一回教わればすぐできるようになるし、ひらがなカタカナはあっという間に読み書きできるようになって、辞書の使い方を教わってからは辞書を駆使して自力で絵本以外の本も読んでいる。何の装備もなしでいとも軽々屋根に上って風で飛ばされた洗濯物を取ってくるとか異常な運動神経の良さを発揮したり。小柄なのに管理人さんぐらいなら軽々持ち上げて運ぶ怪力の持ち主だし。ナイフ一本あれば鹿や猪ぐらいなら狩れるとか、嘘か本当か意味さえもよく解らない野生児エピソードを沢山持ってるけど、でも、食事の仕方は綺麗だし行儀良くて、物の扱いは丁寧で、そういう所は全然野生児っぽくない。元々着ていた着物は生地もいいものだし仕立てもしっかりしてて、明らかにに既製品じゃなかった。実はどこかのお嬢様だったりしてなんて思わなくもないけど、それなら全く教育を受けていない意味が解らない。花月の存在自体がちぐはぐで、考えれば考えるほど訳がわからなくなって、遙は彼女の正体が何者なのか考えるのを止めた。
「はい、どうぞ。」
そう言って紅茶を差し出して、二人ともちょっと休めば?と声を掛け、遙は自分も席に着いた。そしてお礼を言って紅茶を受け取りそれを口にする花月を見て、そういえばここのところ花月ずっとジャージ着てるよなと思った。胸に西口って書いてあるから管理人さんのお古なんだろうけど。でも、なんで毎日ジャージ?
「ねぇ、花月って最初着てた着物以外はジャージしか持ってないの?」
「うん。お姉ちゃんから同じのいくつかもらったから、この服なら何着かあるよ。なんか、成長期に入って身長ぐんぐん伸びちゃって、買ったけど着れなくなっちゃってそのままだったのが家の押し入れにあったんだって。」
「いや。他には?女子なんだし着る物がジャージだけってどうなの?」
「えっと、色々買ってお金なくなっちゃったから洋服は次のお給料が入るまで我慢してってお姉ちゃん言ってた。でも、着物よりこっちの方が動きやすくてわたしこの服好きだからこれでいい。」
笑ってそう言う花月を見て、遙はしみじみと、花月って見た目だけなら美人だよなと思って、美人だけどファッションに無頓着でダサい学校指定のお古のジャージで平気か、なんて思って、もしかしたら俺の代わりにできるんじゃないかなと思った。
「花月。ちょっと、そこに立ってみて。」
そう言うと、疑問符を浮かべつつ花月が立ち上がって、言われた通りに少しスペースの空いた場所できをつけをした。そんな花月の姿を上から下までしげしげと眺め、ちょっとあっち向いてとか今度はこっちとか言いながら全体を見回して、遙はこれならいけるかもと思った。背は低いけど、全体のバランスが良くてスタイル良いし、姿勢も良い。何よりも素が美人。
「ねぇ花月。明日、俺の姉さん達が来るんだけど、俺の代わりに相手してくれない?」
「え?明日お姉さん達くるの?」
「さっき電話がきて、三人揃ってくるってさ。どうにか逃げられないかと思ってたんだけど。花月、洋服持ってないみたいだし、なんか似合うの適当に買ってやってよって言えばあいつら喜んで連れ回すと思うんだよね。自分が女装させられないですむなら荷物持ちぐらい喜んでやる。」
「わたし、遙のお姉さん達と何すれば良いの?」
「ちょっと姉さん達に化粧されたり、髪型セットされたりするのをされるがままになっててもらって、お洒落して一緒に買い物行ったり食事行ったりして、後はされるがままに着せ替え人形になってれば良いだけ。花月が姉さん達の相手してくれると、俺本当に助かるんだけど。」
遙にそう言われて、花月は解ったと彼に笑顔を向けた。
じゃあ早速と、パシャリと花月の写メを撮って姉にメールすると、即電話がかかってきて、遙は面倒臭そうにそれに出た。
『遙ちゃん。今のメールの子何?どういう関係なの?』
「花月っていって、管理人さんがサクラハイムで保護してる迷子だよ。管理人さんのお古のジャージしか着る物持ってないから、明日来るならついでに姉さん達のお古でも持ってきて。身長は百五十くらいかな。姉さん達より小柄だけど、衣装持ちで着てないの沢山あるんだから花月が着れそうなのなんかあるでしょ。」
『えー。そんなにかわいいのにわたし達のお古なんて。わたし達とタイプ違うし、どうせならその子に似合うの色々選びたい。お姉さんが買ってあげるから色々一緒に行かないって聞いてみて。あと、髪も切って良いかな、って。そのパッツンストレートも似合ってるけど、ちょっと段付けて、顔周りふわっとさせた方がもっとかわいくなると思うのよね。あと、あと・・・。』
「かわるから自分で聞きなよ、面倒臭い。」
そう言って遙は花月にスマホを渡して、彼女が姉と話す様子を眺めてほくそ笑んだ。
随分と長電話をした後、花月からスマホを返されて、遙はお疲れ様と声を掛けた。
「なんか人が代わる代わる話ししてて、わーって、何言われてるのかよく解らなかった。」
「うん。まぁいつもそんな感じ。美香姉さんはまだ落ち着いてるけど、俺のすぐ上の双子がうるさいから、基本右から左に流しといていいよ。どうせあいつら人の話し聞いてないし。明日もそんな感じだろうから、頑張って。」
花月にそう言っているとメールの着信音が鳴って、遙はそれを開いた。姉からの花月を気に入ったといったことと明日よろしくという内容のメールを確認して、小さく笑う。
「ねぇ、花月。もし帰る家が見つからなかったらうちの養子になりなよ。一人ぐらい増えたって、うちなら全然問題ないし。」
そう言うと心底意味が解らない様子で花月が疑問符を浮かべて見上げてきて、遙は俺の家族になりなよってことだよと言った。
「ちょ、遙ちゃん。家族になるって・・・。」
「俺の嫁になりなよって言ってないんだからいいでしょ。それに花月がうちの家族になれば、お前の家族とうちの家族が一緒に旅行に行くとき花月も一緒に行くってことだから浩太にとっても良いんじゃないの?」
「なっ。ちょっ。遙ちゃん。」
顔を赤くして焦った様子で言葉を詰まらす浩太を見て遙は目を細める。花月のせいでちょっと浩太はうざいけど、でも、花月が自分と浩太の仲に入ってくのも悪くない気がして、遙は声を立てて笑った。