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(柿内幸太)
20歳の天才ドラマー。福岡から大阪に来て2年。最初は東京まで行くつもりが、立ち寄った大阪が肌に合い、いろいろなバンド、弾き語りのリズム隊をワンステージ8000円で受けながら生計を立てている。
「どうも。岡田さんから紹介していただきまして。朝倉駿といいます」
斜めに被っていた帽子を取り、深々と挨拶をした幸太に対して、テンガロンハットとサングラスを取り、挨拶をした。音楽をしている人は小難しいイメージ、自由な感じの印象だが、割にきっちりしている人は多い。どの世界もそうだが、礼儀は大切だ。年齢やキャリアに関係なく。
「中に入ってください。音速の駿さんですよね? 誰かに見られるとヤバイので」
幸太に背中を押され、楽屋の中に入った。これといって特別なものは何もない。折りたたみのテーブルが部屋の中央部にあり、パイプ椅子が三つ、行儀悪く置かれていた。部屋の奥にはタバコのヤニで曇った全身鏡がこちらを鈍く映していた。
「いや、まじやばかとです。音速Lineのデビュー曲のファンだったから」
少し苦笑いしようとするほっぺを無理矢理引き締めて、いきなり本題に入った。
「実はメンバー探してまして。岡田さんには断られたんだけど、凄腕のドラムなら紹介できるって話で」
「凄腕なんて……。嬉しいかぎりですが、一度プレイを観てもらう方がいいかなと」
確かにそうだ。彼が凄いと言うんだから間違いないとは思うけど、自分の耳と感覚で判断しないといけない。だが、すでにこの若者から只者ではないオーラが漂っていた。
「今日はここで演奏を?」
「そうなんです。8000円の仕事です。駿さんからしたら、子供のお小遣いにもならない額ですね」
8000円は多いのか少ないのか──相場もわからないし、メジャー時代はそんなとっぱらいではなかったから分からなかった。とりあえず、音楽をはじめた経緯、どんなジャンルが好きなのかいろいろと質問した。
「実は、動機は不純かもですが……」
また岡田健太郎のように、『お金』だと言われるんではないかと身構えた。価値観なんて様々だし、見ず知らずの相手に気持ちまで求めるのは違う気がしたが、動機については聞いておくべきだと思った。
「女にモテたいからとか?」
幸太は頭をかきながら少し言いづらそうに答えてくれた。
「……行方不明の親父を探してまして」
「えっ?」
全く頭になかった答えだった。




