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Live spot(Rocket Rock)
教えてくれたライブハウスは、近畿で5本の指に入るライブハウスだった。収容人数100人の箱。ここを先ず満員にする事が、メジャーへの第一歩とされているらしい。チケット代が、他の箱より3割増し。名の通ったアマチュアバンドがしのぎを削るこのステージに、とんでもないドラマーがいるとの事。最寄りの駅から少し離れた国道沿いに、赤と黒のコントラストが、いかにもライブハウス感を漂わせる倉庫のような外観だ。
「いらっしゃいませ!」
長髪の男が、少し大きめの声で話しかけてきた。大音量で音楽を流している為、それでも聞き取りづらかった。今回はこの間の失敗から学び、かなりの変装をしてきた。サングラスにつけ髭、黒のテンガロンハット。音速の元ギターとは気付かれないとは思うが、細心の注意をはらった方がよいだろう。
「すいません。岡田さんの紹介でこちらに来まして……」
「岡田さん? どちらの?」
確か合言葉を言えば、楽屋まで通してくれるはずだ。
「青いカナリア……」
「お電話頂いてます。サルならそこのトイレの横の階段から下に降りて頂いて、一番奥の楽屋にいます」
長髪の彼はトイレを指差し、近くにいた別の店員らしき若い男に、階段の前に置かれた(立ち入り禁止)の看板を片付けるように指示した。
「少し前にサルが楽屋入りしたんで、お会いになるなら今がベストかと。ライブ30分前は、儀式みたいなのがあるみたいで、ちょっと近寄りがたい雰囲気になりますから。
儀式とはルーティン的な事なのか──そういう意識高い系は大好きだ。『サル』というのはあだ名なのか分からないが、言われた通り階段を降りて、一番奥の部屋の前に来た。白い何の変哲もないドア。下の部分だけ黒く汚れていた。靴跡のようなものだ。躊躇なく、ドアノブの上あたりをコンコンと鳴らした。
「あいよ! ちょっと待って」
ドアが開き、迷彩のキャップを斜めに被った若者が顔を出した。確かに猿っぽい感じだ。とても運動神経が良さそうな、今時の若者という印象を受けた。




