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「話は変わるけど、おやっさん見つかったんか?」
リュックから新しいスティックを取り出し、マスターに見せた。
「マスター! 見つかったんです! ほんまにありがとうですねん」
「ほんま? よかった! 元気そうやった?」
どう答えていいか分からなかった。元気そうにはとても見えなかったし、アルコール依存性かもしれない。昨日から何か嫌な予感を拭えずにいた。
「うっうん。元気だったよ」
「サル! ほんまよかったな。何せ、おやっさんを探す為にドラムやってたんやから」
「ありがとうです。今後は、駿さんのバンドの為に叩きます」
「めっちゃ惚れ込んでるやん」
「あの人と出会ってからですよ。僕の人生が良い方向に回り始めたのは」
「カリスマってやつか……」
「確かにね。あの彼は何か持ってるよね。メジャーバンドのギターリストだったんだから当たり前か」
マスターは、まだ同じグラスを拭いていた。そのピカピカのグラスでキューバリバーを飲みたくなったが、原付きで来ているので諦めた。横で複雑な表情を浮かべる健太郎を見た。彼の心の中は読めないが、きっと前向きな返事が貰えると信じて、12月29日に全てを注ぎ込もうと誓った。
「あっ! マスター、借りていた写真ありがとうございます」
「この写真を持っててよかったわ。また親子で飲みに来てよ」
「12月29日のライブ後に打ち上げしたいんですけど、空いてます?」
「いけるよ! 賑やかになりそうやな。貸し切りにしとくわ」
「マスター、いつもほぼ貸し切りやん!」
「健太郎さん、それは言わない約束」
「うちは、客を選ぶタイプの店なの!」
ずっと孤独だった──施設の頃、福岡での音楽活動、そして、大阪に来てからも。何処にいるかも分からない父親を探しながら、一人で生活をする事に疲れていた。だが、人の温もりに触れ、繋がりを強く感じ、今まで自分に起こった全ての事に感謝した。
『人生、何があるかわからない。何でも突然だ』施設にいた頃に聞いた言葉だ。『自分の事以外に目を向ける事』それが幸せへの第一歩だと思った。
「さっきの話やけどな、仮に俺が入って鍵盤の女の子を口説き落としたとしても、全てはボーカルやぞ。分かってるとは思うけど」
「はい。そこはもう重々承知です」
やはり、最大の問題はボーカルだ。その問題さえクリアすれば、メジャーへの道はグッと近づくはずだが、それが最大の難関であるのも分かっていた。




