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「チコ、どうやった?」
「どうやったもこうやったもないわ。感動したわ」
「まだ高校生ぐらいちゃうかな? 参ったな」
「おっとさんも凄いで!」
「ありがとうな、チコ」
「本気のおっとさんやったら負けてないで!」
チコの言葉で救われた気がした。勇気や希望を与える側の立場なのに、チコにはいつも励まされていて、どちらが親なのかわからない事がしばしばあった。
「もう変な練習やめなあかんで」
「確かに面白くもない練習やけど……」
「おっとさん、サインとか握手してくれるかな?」
拍手が鳴り止み、黒髪の女の子は深々とお辞儀をしていた。そして店員の方を向き、再度お辞儀をしていた。とても礼儀正しいと感心した。自分が若い頃、あんな風に礼儀正しかったかと言われると、残念ながらそうではなく、ただのクソ生意気なガキだった事を思い出した。
「すいません、通してください」
茶髪の女の子が、天才ピアニストの腕を引き、こちらに来た。まるでモーゼの十戒のごとく真っ二つにわかれたギャラリーの真ん中を、軽く会釈をしながら向かって来た。拍手喝采が再び起こり、彼女はそれを全身に浴びていた。
「すいません! 娘にサイン頂けませんか?」
「え? 私、プロではないんですけど」
チコを肩から下ろした。彼女は微笑みながらチコの手を取り、語りかけてくれた。
「サインはないねん。ごめんね」
「お姉ちゃん凄かった! プロになるん?」
「そのつもり。 ピアノではないけど」
「何か違う楽器? 歌手とか?」
「バンドのキーボードとして」
一瞬耳を疑った──これほどまでの腕前なら、ソロで充分にやっていけるのに、何故バンドなのか理解出来なかった。もうすでにメンバーも揃っているかもしれないが、音速のギターリストが頭に浮かんだ。彼は優秀な人材を探していると言っていたからだ。本当に彼女がバンド志望なら、とてつもない戦力になるだはずだ。
「バンドはもうすでに組んでるんですか?」
「まだですけど。心に決めたギターマンはいます」
「お姉ちゃん、おっとさんもベースやってるんやで」
「そうなんですか!」
そのギターマンの事を聞こうとしたが、茶髪の女の子に急かされ、エスカレーターの方に小走りで行ってしまった。音速のギター、プロ顔負けのピアノ、さらにドラムの幸太、断ち切ったはずの気持ちが蘇ってくる気がして怖かった。




