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5コイチ  作者: 稲田心楽
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9ページ目

 

 ステージ脇に、幸太、トンキン君、もんちゃんがスタンバイしており、馬マスクの駿のプレイを直立不動で見入っていた。



「トンキン君、いつも通りよろしく!」


「おっおう! ていうか、あのギターヤバない? めっちゃテンション上がるわ!」



 幸太は、目を丸くしているトンキン君を見つめ、肩を数回叩いた。



「頼みますよ! すぐに僕らも行きます」



 トンキン君は、鼻息荒くステージに向かった。馬面の駿もメンバー登場に気付き、煽るように激しくプレイ。ベースの低音が駿のギターと重なり、さらにフロアのボルテージが上がった。



「最高! しびれる!」


「キャーッ! めっちゃカッコいい!」



 お客さんは馬鹿ではない。良いものは良い、良くないものは良くない、はっきりしている。音楽に理屈を付ける人は沢山いるが、演者は惑わされず、試行錯誤し、日々努力すれば良い。そして傷つけばいい。賞賛を浴びるその日まで。その後も終わりの始まり。お客さんに喜んでもらう事だけを考えるのがミュージシャンの宿命である。



 最後にこのバンドの主役、ものまねのもんちゃんが登場した。ステージセンターに置かれたマイクスタンドの前に仁王立ち。



「みんな! 盛り上がってるか!」


「おー! 最高ー!」


「聞こえへん聞こえへん。盛り上がってるか!」


「おーっ!」


「行くぞっ! ワンッ! トゥ! スリッ! ゴッ!」



 もんちゃんの合図で本編が始まった。何度も何度も演奏したこの曲(kiseki)がまるで別の曲のように感じた。メンバーも違う、会場のキャパも全く違う、ギターも借り物で、設定も最低限のものなのに、こんなに違うものなのかと。ベースの堅実なプレイ、ボーカルのCD通りに歌うピッチとそっくりな声、もう本物を全てにおいて凌駕していた。顔以外。



 そして、なんと言っても幸太のプレイに脱帽した。もう言うこと無しだ。優しく包み込まれているかのようなリズム。それでいて、若者らしい荒々しさ。天才とは彼の為にある言葉だと思った。ギターを弾いていてこれほど幸せだと感じたことはない。間違いなく、出会った中で最高のドラマーだ。



 プロとアマの差とは何か? 『 高い技術を安定して提供する事』それがプロである。少なくとも今日のこのメンバーは、個々の能力、魂、どれを取ってもアマの域を完全に超えたプロのステージだと感じた。



「あっという間に最後の曲になりました」


「えーっ! そんなアホなー! 早すぎるっ!」



 良いものは何でもそうだ──本当に一瞬の出来事。それはまるで、好きな娘と見る夏の夜の打ち上げ花火のように。

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