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赤ずきんは銃を持って  作者: 珠子
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1-4

「おばちゃーん、Aランチちょーだい!」


「じゃあ同じの一つ」


「はいよー!ずいぶん遅いお昼だねぇ叱られてた?」


「違うってー!カイが仕事おっせーから待ってやってたの!!」


寮がある棟の一階、食堂のカウンター。書庫での作業を終え、フランツと並んで立つ。

台の向こう側で食堂のおばちゃんはがははと笑いながら手際よく皿にシチューを注いでいく。


「ま、新人のうちはね!いっぱい食べてよく働きな」


フランツと俺の目の前のトレーに勢いよく大盛りのシチューが置かれる。勢いあり過ぎて少し溢れた。続いて丸パン、サラダ。


「いただきます」


「ありがとおばちゃーん」


カウンターから離れて二人してキョロキョロと辺りを見回す。周りには人人人。ピーク時に来てしまったらしい。これじゃニコとフィーネがどこにいるのかわからない。


「邪魔しちゃ悪いし適当にここらで食べるか」


「オッケー。早く食べたいしー」


近くに丁度二つ空いている席を見つけて移動する。

ガタ。遠くで椅子を動かす音が聞こえた。


「カイ、フランツ!こっちだよー」


声のする方を向くとそこにはぴょこぴょこ動く金髪。小さな体で飛び跳ねるフィーネの姿。俺らだけでなくたくさんの視線が集まっている。


「やべ、見つかった」


「しゃーねー、行くかー」


ひいた席を元に戻し食堂の奥へ奥へと足を進める。やっぱり視線が痛い。今度は同期に加えて先輩の鋭い視線も感じる。いつか射殺されるんじゃないだろうか。なあ、フランツ?

フランツの方を振り返るが彼はシチューを見つめるのに忙しいらしい。しょうがないので彼に習うことにしよう。ああシチュー、俺の味方はお前だけだ。




「お疲れ様、二人とも」


五人がけの円卓。そこにはやっぱりフィーネとニコ。だが二人は席を一つ開けて座っている。ニコならば俺らが来るからといって隣に座ることくらいしそうなものだが。

フランツはフィーネの、俺はニコの隣にそれぞれ座る。

ちょいちょいと手を動かして隣人の頭をこちらに寄せる。周りに気づかれないように。


(ニコ、なんで隣座んなかったんだよ)


(いや、だって)


「だってアタシがいるからねー」


「「うわ」」


ばっと振り向くと人影。影はニッと不敵に笑うとそのままフィーネとニコの間の席に腰かけた。


「おかえり、イルマ」


「ただいま、フィーネ」


親しげに笑い合う二人。まあ実際親しい。

彼女はイルマ。フィーネの親友で、あだ名は天使の番犬。男子からは恐怖され女子からは憧れられる存在らしい。

あのニコがムッとした顔をするのもイルマがいるときだけだし、他の男たちからすればきっと天敵みたいなものなんだろうな。


「ニコは駄目でフランツは良いんだ」


純粋な疑問だったが、皮肉っぽく言ってみるとイルマは鼻で笑った。当たり前でしょ。フランツを指差す。


「フランツは男じゃなくてガキじゃん」


「俺はガキじゃねーー!」


夢中でシチューにがっついていたフランツがうがーと喚いた。納得。多分話の流れは分かっていない。


「じゃあ俺はちゃんと男なんだ」


「アンタは狼よ狼。警戒対象よ」


笑顔のニコとイルマの間で火花が散る。その横ではえっえっとおろおろするフィーネ。君も分かってないんだよな、知ってる。

潤んだ目でこっちに助けてと訴えてくるが勘弁してほしい。これに巻き込まれるより俺はシチューが食べたい。




シチューを食べ終えて一息つく。他の四人も皿を空にして手を合わせたり相変わらず睨み合ったり。

腹がふくれると頭がぼんやりするのはなんでなんだろう。本能か。ぼーっと卓を見回す。赤毛、金髪、こげ茶、金髪。おっと金髪でオセロができる。はは、何考えてるんだ俺は。


「そういえば」


書庫のあの少女。名前も何も知らない。


「書庫担当同じだった金髪の、目の色が紫の女の子いたじゃん、フィーネ名前知ってる?」


交友関係の広いフィーネなら。そう思い声をかけると明らかに視線を泳がせている。

えっとーえっとーと口をもごもごさせている彼女に代わってイルマが口を開いた。


「リーゼ=マイアー」


なんだか不機嫌そうだ。ガシガシと短い髪をかきながら続ける。


「知ってるも何も、アタシらのルームメイト」


フィーネから他の同室の人の話はよく聞くがその名前は聞いたことがなかった。改めて彼女の顔を見ると唇をもごもごと動かし居心地が悪そうにしている。


「あれ、あの時フィーネ知り合いいないって言ってなかったっけ」


「発言の一個一個まで覚えてんのかよキッモ」


「偶々だよ偶々」


また二人が睨み合う。普通に睨み合うだけなら良いのだがどっちも表面上は笑っているからなんというかこっちが笑えない。やるなら周辺被害を加味してほしいものだ。


「いや、その……」


集まった四つの視線から逃れるように視線を動かしながらフィーネは重い口を動かし始めた。


「私もね、ルームメイトだし女の子の同期って少ないしで、仲良くしたいな〜と思って話しかけてみたりするんだよ?でも、今日もなんだけど、すごい避けられちゃって」

「……嫌われてるような気がするし、だからなんか近寄っちゃいけないのかな?みたいな、ね?」

「……嘘。単に私が気まずいだけです」


はあ。盛大なため息とともに俯くフィーネ。

彼女が交友関係で悩みを持っていたなんて思ってもいなかった。誰とでもすぐ仲良くなる、そんな姿しか見たことないし。

両隣の二人も信じられないという顔をしている。三人一斉に、下を向いてシュンとしているフィーネの代わりにイルマを見つめると大きくコクリと頷いた。


「そーよ。フィーネにさえそんな感じ。

そもそも朝起きたら既にいないし、夜は消灯ギリギリまで戻ってこないからルームメイトでも全然交流ないの、もう意味わかんない」


段々と興奮して荒くなる口調をまあまあと宥める。

なんと言えばいいのか。わからないけどわかった。きっとこれは難しい。フランツも珍しく何も言わず黙り込むし、超難問だ。

五人で唸り合う。ううむ。それでも何も思い浮かばない。

いい加減フランツが痺れを切らしてわーっと卓に突っ伏したところで鐘がなった。昼休憩終了十分前の合図。周りがぞろぞろと移動を始める。


「行こうか」


ニコが声をかけ、それを合図に全員が立ち上がる。


「アタシ、ランドリールーム」


「私は座学だから別だね」


「俺らは…どこだっけー?」


「運動場で訓練」


「ああ、それそれー」


食堂から出たところで三手に別れる。階段、本部棟、運動場。軽くを手を振り合う。


「あのさ!」


突然の声に驚きつつ振り返ると、フィーネが真剣な表情でこちらを見ていた。


「ずっと一人は寂しいよね?!」


何が言いたいかはわかった。それでも何も返せない、見つめ返すしかできない。


「ごめん、それだけ!」


パッと振り返ってそのままパタパタと駆けていく後ろ姿を見送る。横目にはなんとも言えない表情をしているイルマが見えた。彼女もふいと振り返り階段を登っていく。

俺たちはというと、そんな二人の後に誰からともなく歩き始めた。会話はない。



運動場に向かう道すがら。色んな人がいるんだな、と当たり前のことをただ考えていた。


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