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赤ずきんは銃を持って  作者: 珠子
4/6

1-3

第七部隊の敷地内に鐘の音が鳴り響く。

時計は真上を指差していて、俺も真上に伸びをした。


結局返却作業は時間内に終わり切らず、五つの台車にはそれぞれ最後の二十冊ちょっとが積まれている。いや、最初の量を考えれば上出来か。

清掃をしていた数人はもう用具を片付け始めている。溜息をつきながらその場を通り過ぎる。


「カイ!」


呼び止められた。フィーネだ。後ろにはニコも。


「ニコと私で先に食堂の席取っとくね」


フランツにも伝えておいて。言いながら手を振る二人。ひらひらと振り返す。いやぁ、その後にぞろぞろと続く同期の視線が痛い痛い。

一緒に食べたければ言えばいいのに。どうせ彼女は嫌がらない。あ、駄目だニコがいる。


しばらくしてしゃがんで本を戻しているフランツに会った。先ほどの伝言を伝える。


「じゃあ俺らが行くまで二人きりー?」


顔を見合わせる。瞬きを二回、それからニヤッと笑う。


「ちょっと遅れて行くか」


「だなー」


俺の方が時間がかかりそう(向かう棚が書庫の一番奥だった)なので、俺が終わるまでフランツには書庫の前で待っていてもらうことになった。

うぇーいとハイタッチして別れる。さて、やりますか。


もうそろそろ終わり。そう思うと憂鬱は乗り切れるもので、これまでが嘘のように順調に台車は軽くなっていく。足取りも軽い。

この勢いならあと五分ってところかな。早く済ませちゃ


ガッ


衝撃。一拍遅れてゔっと何かが潰れたような声。っていうかごめん、本当に何か潰したっぽい。


「いたたた」


前を見ていて見えなかったが人がしゃがみこんでいたらしい。乗り上げた台車をどかすと彼は立ち上がる。


「ごめんね、邪魔しちゃったね」


「いやいやこっちの方がごめん、思いっきり轢いた」


あはは。彼は笑いながら台車から落ちた本を拾い集めている。菩薩だろうか。


「これで終わり?」


はい、と拾った本を台車に戻してくれる。そんな彼の手元には二冊の本。

本を届ける係の人か。そういやあまり見かけなかった。


「うん、そっちもそれが最後?」


「そうだよ。もう一人の女の子は早々に終わらせちゃったんだけどね、僕とろいから」


こっち手伝いに来てない?

聞かれるが首を傾げる。見かけていないしそんな話は誰からも聞いていない。もしやサボりか。


「まあいっか、僕はこれ届けたらそのまま上がるね。そっちも頑張って」


小走りで駆けていく背中。たしかフーゴ。せっかくじゃんけんに勝ったのにフィーネとは別の係を選んだやつ。異質だったから覚えてた。

そういえばその係のもう一人はあの少女だったっけ。こちらはあまり記憶にない。ずっと俯いていたから顔もぼやけてはっきりとは思い出せないし。


ようやく最後の棚。残り三冊ということで台車は端に置いておく。意外と使いづらいし。

早足に本を抱えて目的の場所に踏み入る。


「「わ」」


棚の前で本を読んでいた噂をすればな例の少女と、いきなり棚の裏から現れた俺。目が合う。

こっちは急ブレーキをかけて本を落とすし、彼女は後ろに退いて尻餅をついた。ひゃっ。


「うわ、ごめんごめんごめん」


急いで本を拾って小脇に抱え、空いた手を彼女に伸ばす。が、彼女は両手で顔を押さえたまま動かない。


「大丈夫?救護室連れて行くよ」


ぶんぶん。激しく首が横に振られる。

大丈夫です。と小さな声で呟かれるがこの状態で放っておくわけにはいかないだろう。そう言うんだったらせめて立ってから言ってくれ。


「もしかして、目?」


ビクッと彼女の肩が大きく跳ねた。


「……見ましたか」


「はい」


そろそろと顔から手が離される。そこにはきゅっときつく閉じた小さな口、筋の通った鼻、そして紫色の瞳が二つあった。


「…綺麗だと思うけど」


本音。それなのに彼女は伏せ気味だった目を更に伏せさせて黙り込んだ。

この状態、どうしろっていうんだ。


「その髪の色とも合ってると思うし」


次に目についたのが髪の色。見事な金色。誰かを褒めるなんて慣れてないし語彙もない。そろそろ許してほしい。限界だ。

ぎこちなく笑って見せると彼女は俯いてかぁっと頰を赤らめた。ふるふると震えている。拳なんか握りしめちゃって。……え、拳?


「ごめんなさい」


彼女はそれだけ言ってあっという間に走り去っていってしまった。残されたのは彼女が先ほどまで読んでいた本。拾い上げて題字をなぞると『狼による被害 a001〜025』。


「いや、難しすぎるだろ…」


独り言は、虚しく消えた。

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