ショートストーリー 銭湯にて
Sは息子が三、四歳の頃よくパチンコ屋に連れて行って遊ばせていた。
その頃はまだパチンコ屋は子供を連れて入っても良かった。
息子はパチンコ店内を遊び場にして、結構機嫌よく遊んでいた。
落ちている玉をたくさん拾ってきたり、見知らぬおっちゃんから景品のチョコレートをもらったりして、結構人気者だった。
Sはある日、嫁が同窓会で夜遅く帰ることになったので、息子を連れて銭湯に行くことにした。
息子はたぶん銭湯は初めてなので、喜ぶに違いないと、いつも行っている銭湯に連れて行った。
銭湯にはサウナ、電気風呂、薬湯、水風呂とあるので、Sはこの銭湯を気に入っていた。
もう、三年は日曜日には必ず来ている。
なじみになった客も多い。
ただ、ちょっと環境がよくない。
刺青をした兄ちゃんや、おっちゃんがよく来ている。
今日も脱衣場に行くと、刺青をした兄ちゃんが、素っ裸で扇風機の風を背中に当てて涼んでいた。
それを見た息子が、
「お父さん、あのお兄ちゃんの背中に落書きしてある」
とおおきな声で言うのです。
Sはびっくり仰天してしまい、その兄さんを見ると、ぎょろりとSをにらむではありませんか。
まわりにいた客もいっせいにSと息子を見るのです。
Sは慌てふためきました。
結局、Sと息子は風呂にも入らず、そそくさと、逃げ帰ったのでした。