第13話 ライバル登場
幻甲艦の主砲の一門がガゴンと火を噴く。
実体弾か。
イ・ドゥガンは片手をあげ、掌で弾く。弾はプラズマに戻って消えた。
最初の一発を皮切りに時間差で全砲門連続で撃ち込んで来るが、なんということなく受け止める。
超電磁バリアは実体弾も通さない。
「「フィジカルリンケージ確認。イ・ドゥガンからイ・ヴァンダーへ変形! ファイティングシステムブレイクアップ!」」
オレとレイラはシンクロして叫んだ。
ボイスコントロールはレイラ一人でいいんだが、オレも合わせて重ねてみた。カッコいいからだ。セリフは前回で覚えたし。
イ・ドゥガンの装甲が大きく展開し、内側から各種兵装がせり出す。
幻甲艦が主砲をビームに切り替え一斉射撃する。元はプラズマだから実体弾も光線砲も自由自在のようだ。
しかし、合体時や変形時は狙わないというお約束を知らんのか。
模倣体相手に言っても無駄か。
変形途中でも、超電磁バリアがビームを弾くから、どうせ効かないけどね。
手足の装甲が開放され、兜が割れ、背中の大きな翼がバインダーのように畳まれる。
怪獣のようなイ・ドゥガンが巨大な騎士の姿に変わる。
人工知能イとオレの知覚と感覚が一体となり、レイラのナビゲーションが直接伝わる。
レイラとオレとイがひとつになり、熱い滾りがオレの中にほとばしる。
ヴァンダーモード!
「「変形完了! 姫騎士ロボ、イ・ヴァンダー。ここに見参!」」
実はイ・ヴァンダーの口には発声機能があり、言葉を話せる。オレとレイラはシンクロして口上を述べた。だってスーパーロボットのお約束だもんね!
イもまんざらではないようだ。熱い魂が伝わってくる。さすがオルドゥーズの人工知能。わかってる感じだ。敵のまがい物AIとは違う。
幻甲艦は主砲のビームに加え、空対空ミサイルや近接クラスターロケット弾など各種攻撃を全力斉射で攻めてくる。幻甲人10体分は伊達じゃないようで、攻撃がなかなかに分厚い。
「「ブラスターマシンガン!」」
「「ギズモプロテクト!」」
「「ドローンファング!」」
攻撃の圧力で超電磁バリアが飽和されそうになり、各種近接迎撃装備を併用してしのぐ。
そして高速で移動しつつ位置を入れ替え、二本の太刀で隙あらば攻撃を試みる。
「「ローエンドカット!」」
「「ミッドレンジエッジ!」」
「「ヴァーティカル・ツインカッター!」」
斬撃の手ごたえはあるんだが、相手がでかい。
卵ことコアは幻甲艦の中心に固まっている。浅い攻撃では届かない。
突然、幻甲艦の艦首が四方に展開し始めた。内部に巨大な砲身が見える。
波〇砲かよ!
艦首を刀で斬り付けるが、向こうも超電磁バリアを展開して防御している。おまけに主砲を全門正面に向け零距離射撃してくる。目の前が閃光と爆発に染まる。
くそっ。
少し距離を取る。仕切り直しだ。
『航平、あの艦首砲のエネルギー量だと、戦闘フィールドを通過する可能性があるわ。撃たれる前に対処しないと外に被害が出るかも』
『わかってる!』
知識と意識は共有している。今のやり取りは確認のためだ。
幻甲艦が斜めに傾き艦首を学園方向に向けた。講堂が射線上にある。
おいやめろ!
護るためにオレたちが軸線上から逃げられないよう誘導してやがるんだ。AIのくせに生意気な。
オレよりきっと賢いんだろうなあ。くそう。
「「超電磁バリア全開! オーバーブースト!」」
ドガンと艦首に体ごとぶつかる。
バリアに勝てるのはバリアだけ!
超電磁のフィールドを相殺し侵食する。卵10個分が何だ。出力はこちらの方が上だ!
艦首巨大砲(名前は知らない)がエネルギーを充填され輝く。もう時間がない。
わずかに空いたバリアの穴に二本の刀を突き刺した。そして左右に払うように斬り裂く。バリア消失!
「「ブレストカノンズバースト!」」
胸部のビーム兵器を斉射する。充填状態の艦首巨大砲に至近距離で全弾撃ち込む。
砲身が膨れ上がり、吹き飛ぶ。
オレは瞬間移動で距離を取る。
艦首巨大砲の暴発は、幻甲艦を包み、やがて艦自体が大爆発を起こした。
轟沈だ。
だが。
『コアの反応は消えてないわ!』
『わかってる!』
繰り返すが、念のための確認だ。
爆炎の後に、10個に分かれたプラズマが浮いていた。すぐにそれぞれが大の字型にまとまり、10体の幻甲人に変化した。変幻自在か。
幻甲人たちは得物が違っている。細剣もあれば大剣持ちも。一体は刀だ。片手剣の二刀流もいる。
模倣を進化させているな。ほんとにやらしい奴らだな。レイラが呪いというのが分かる。
幻甲人は四方八方に広がると、空中を踏み込んできた。細剣の打突、大剣の斬り下ろし、刀の居合斬り。かん、ごん、ぎんと二刀でさばく。
連携して攻撃か。向こうもAI同士で通信しながら行動している。
なかなかやっかいだな。
しかもここは空中だ。地上のように前後左右だけじゃなく、上下からも連携攻撃が来る。
真上と真下からの攻撃なんて経験がないぞ!
どうする?
上下方向から迫る2体に、オレはイ・ヴァンダーを横倒しにした。斥力制御で重力方向も横を下にする。これで上下の攻撃は左右の攻撃と同じになる。二刀で跳ね飛ばし、今度は左右から来る2体に対してまた90度回転し対処する。
幻甲人たちはねじれの位置から同時攻撃すると同士討ちになるため結局は平面的な連携に留まっている。座標軸を回転しながらの対応でカバー出来そうだ。
逆にわざと軸を相手とずらせばトリッキーな太刀筋が生まれる。オレは横倒しになりながら前後から迫る幻甲人二体の両腕を斬り飛ばした。
が、その二体はすぐに後退、別の幻甲人が前に出て戦っている間に腕を再生した。プラズマで出来た幻だからコアを潰さないと決定打にならない。
剣には剣で決めようと思っていたが、こだわってる場合じゃないな。それはもうちょっと余裕が出来てからだ。
オレはまだ戦闘経験2度目のひよっこにすぎないのだ。
イ・ヴァンダー本来の能力を使おう。
「「マルチロック!」」
戦闘ディスプレイに次々ターゲットアイコンが出てロックされる。10体のコア、全て捕捉。
「「ヴァンダー、フルバースト! ファイア!!」」
イ・ヴァンダーの手足から、胸から、腰から、そしてせり上がった背中のバインダーから、無数の光芒が煌めき、10本のビームの束になって発射される。
1対多の戦況において殲滅兵器たるイ・ヴァンダー。
その真骨頂は、全兵装解放によるフルバーストだ。
敵が何機出現しようが、ビームの束は樹形図のように分かれて増え、全てを同時撃破する。無限分裂光線だ。
一撃でエネルギーが飽和し、幻甲人を形成するプラズマが虹色のガスとなって吹き飛ばされていく。
タマゴ型のコアが露出し、ビームで砕け爆散した。
ひとつ残らず。
10体程度相手にフルバーストは過剰だった。やり過ぎだ。
なお、幻甲艦の艦首巨大砲よりも遥かに高エネルギーだが、戦闘フィールド直前で中和消滅するように調整して撃ったので、周辺に被害は出ない。
「「ごめん、コアの回収を失敗した」」
『今回は仕方ないわ』
『15時55分、特定対象殲滅に成功』
『状況終了』
「「いや、待て。別の重力震を検知」」
『こちらには反応がない』
「「こっちにははっきりと信号が来ている。地球用のマルチセンサーでは捉えられないんだ」」
戦闘フィールドごと空が大きく裂けた。
「「イのフィールドごと!?」」
空に空いた穴から巨大な物体が姿を見せた。
また宇宙戦艦。今しがた撃破した幻甲艦に似たシルエットだが、もっと洗練された美しい艦体。
「「ナズィ・ニルファール!」」
レイラと知識を共有しているオレにもわかる。本物だ。
『レイラの母艦なのか』
「「これは敵じゃない、ちょっと行ってくる!」」
『あ、おい、レイラ、コーヘイ!』
ドゥガンモードに戻る。ヴァンダーだと背が高くて着艦出来ない。
オレはびよーんと後席コクピットに座る。
リンクが切れたので、また事情がさっぱりわからなくなった。
うーむ、しまった。ヴァンダーモードだとイやレイラの本音が分かるのに聞いてなかった。
聞いてないというより一体になってるから聞かずともわかってるからだ。そしてヴァンダーモードが解除されると忘れてしまう、ということを忘れるからだ。
こりゃダメだ。やっぱ直接聞くしかないか。
「あれがレイラの母艦なのは間違いないんだな。精巧な偽物、破門候の罠じゃないよな」
「大丈夫よ航平。艦長らクルーのリンクを感じる」
レイラの気がせいているためか、リンクがうまくいかない。オレたちは口で会話した。
イ・ドゥガンが空中に浮かんだ宇宙戦艦ナズィ・ニルファールに着艦し、収納される。空の穴は消え、戦闘フィールドが復旧していた。
戦いは終わったが、地上からナズィ・ニルファールを見られるわけにはいかない。不可視処理のためだ。
アンダーガールズが日本政府とUC本部に連絡をしフィールド展開延長の承認を取った。
これは想定外の事態だ。
ああ、文化祭の閉会には間に合わないな。上映会、盛況だったのかな。
無事みんなを護れたんだから、ヨシとするか。うん。
「航平、ジャンプするわよ」
「へ?」
メイド服のレイラに抱きかかえられ跳ぶ。
目の前に大勢の人がいた。
ナズィ・ニルファールの第一艦橋?
「姫!」
「王女様!」
「レイラさま!」
「よくご無事で」
「して、その格好は?」
「変わったデザインだけど可愛いね」
感動の再開シーンだ。
口で話しているから、オルドゥーズ語が脳内回路で自動変換された。
心は読めない。
オルドゥーズ人なのでレイラ同様に脳内ブロックが常時効いているようだ。
レイラを全員で囲んで、ブリッジは大騒ぎになった。
オレ目線では、レイラのメイド服よりブリッジの乗員たちの方が変わった格好だ。
厚めのレーシングスーツというか、表面がやけにでこぼこしたダイビングスーツというか。
宇宙服かな?
ヘルメットはかぶってないけど。
オレが所在なげに壁際に立っていると、角刈り頭のいかにも軍人風な中年男性が近づいてきた。
「君がこの星の適合者か。姫を助けてくれてありがとう! 礼を言う」
「助けたというか助けられたというか、……あなたは」
「おお、これは失礼。艦長のロズダムだ。以後よろしく!」
「オレは瀧本航平。航平でいいっす」
「おう、航平! 君も宴に入れ! 今日はめでたい! ちょっとした邪魔は入ったがな」
「幻甲艦がくっついたままになってるとは気が付かなくて……」
「気にするなヤルダー、あの程度姫にとってはなんでもない。まさかいきなりフルバーストするとは思わなんだがな! この星で姫はずいぶん大胆になったらしい!」
さっきのはこの船についてきた卵だったのか。
破門候の嫌がらせはこっちの人たちも受けてたんだな。どこまでもネチコイ奴だな。
ストーカーだ! ストーカー認定!
ブリッジのコールが鳴った。緊急連絡のようだ。
「おお、今日はなんという日だ。姫、マムルーク殿が完全回復した。こっちに向かっている。もしかしたらあの幻甲艦のコアがずっと悪さをしていたのかもしれんな。」
「マムルークが! 洗脳はもう解けているのね!」
「ああ、破門侯の鍵を破るのに時間がかかったがね。大丈夫だ」
ブリッジのドアが開いて、銀に近い金髪で、レイラによく似た顔立ちの美しい青年が現れた。
「レイラ!」
「マイハニー!」
レイラとマムルークと呼ばれた美形は衆人環視の中でひしと抱き合った。
ハグ!?
熱い抱擁!!??
は!!!???
なんだこれ!!!!????
マイハニーってなんだよなんなんだよレイラ!!!!!?????
今回のイラストは旧作のままです。このマムルークはちょっと幼すぎるかも。




