序幕
紅い壁に囲まれた石畳の白い道。
憔悴した、それでも美しい女性が侍女たちに支えられながら白い石畳の道を早足で歩む。裙裳の裾が乱れていたが、誰も気にする余裕がないようだった。
向かう先は、緑青の屋根も美しい建物だ。
着くと取次ぎを頼む必要もなく、中に入るよう招き入れられる。その者たちの視線の険しさに、彼女と侍女たちは蒼かった顔色をさらに悪くした。
案内されるままに進むと、ある房室の前に着いた。その房室の中からは、泣き声が漏れ聞こえていた。
女性は房室の前で膝をつき、
「遅くなって申し訳ありません。お呼びにより参上致しました」
頭を下げようとした。
「お前っ」
帳を跳ね飛ばすようにして飛び出してくる影。
「お前がっ、お前が毒を食べさせたんだ!」
「ち、違います。わたくしではありません」
「お前の寄越した菓子を食べて、倒れたのよあの子は! お前のせいでなくてなんだというの!」
つかみかからんばかりに近づいてくるその人を、周りの侍女たちが慌てたようになだめている。
だがその侍女たちも涙を流し、彼女たちを睨んでいた。
「わたくしの、わたくしの子は亡くなりました。どうして菓子に毒を仕込んだりするでしょう。誤解ですっ」
その時、房室の中からひときわ大きな悲鳴が響いた。
「太子さまが!」
「……嘘よ!」
侍女たちを振りほどき、房室の中へ飛び込む後ろ姿を、彼女は呆然と見ていた。
この日、二人の皇子の命が奪われた。
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作者は紅楼夢、武則天、楊貴妃などが大好きです。
ですが、この作品はあくまでも「中華風」なので色々と変えているところがあります。