もう1人の西野有紗
西野さんの柔らかい唇、甘い匂い、あの嬉しさ。
今でも忘れない。忘れようと思っても忘れられない。
それだけ俺の記憶の中に、しっかりといるんだ。
西野さん、西野さん……………大好きだよ……
───「……ばさ」
「つばさ……………」
「南雲翼!!!!!」
名前を呼ばれ、俺は飛び起きた。
「あ、りささん……?」
「あなた、車の中で倒れたのよ。」
「そっか……俺……」
「大丈夫?」
「……うん……………」
「何度も名前を呼んでいたわ。」
「……誰が?」
「貴方が。"西野さん、西野さん"って。」
「……………ごめん……」
「私じゃないことは、わかった。」
「……俺の好きな人の名前もさ"西野有紗"って言って有紗さんと漢字も一緒で、誕生日も一緒だけど、血液型は違うんだ。」
「……。」
「有紗さん……?」
「あ、ううん。何でもないわ。落ち着いた?」
「うん……それなりに。」
「家まで送っていくわ。」
「ありがと」
西野さん……………目の前にいる子も西野有紗さん。
でも、俺が好きな西野有紗さんではない。
もう、考えるだけで頭が痛い。
「ねぇ、」
突然、有紗さんが声をかけてきた。
「ん?」
「無理して私の名前呼ばなくていいのよ。」
「でも」
「国が決めた婚約者だから?」
「……っ。」
「私の名前を呼ぶ度に貴方の顔が苦しそうなの。
私が違う名前だったら良かったのにね。」
「そんな!有紗さんは悪くない!!」
「ううん。ありがちな名前だものね。本当にごめんなさい」
「有紗さんのせいじゃないって!そんなに自分を責めないで!」
「……えぇ……」
俺は、どうしたらいいのかな。
この現実を受け止めなきゃ、いけないんだよね……