閑話:サン・マルゴー大聖堂
今後使う設定を伏線として掲載したく
■女性司祭アリアの視点
シンと静まり返った聖堂内。
巨大な柱に支えられ、見事なアーチを描く天井には、燦々と輝く金色の天井画が描かれ聖霊の世界を夢想させる。ヴェネリアングラス職人の技術の粋を集めたステンドグラスとフラスコ画は、聖霊と人との交信を描き、人々が座り祈りを捧げる長椅子は、座ることで磨かれ鈍い光を放つ。
私は静寂に包まれたこの大聖堂がとても好きだ。このサン・マルゴー聖堂に任命されてから早五年、毎夜欠かさず礼拝を続けている。聖堂内は凛とした空気に包まれ、聖職者である私には清らかな魂オーブが見える。それこそがこの空間が清められた魂の世界『清冥界』とのつながりを物語っている。
そう、魂の世界は『清冥界』と『汚冥界』とが存在し、この物質界の上層と下層に重なり合って存在している。生物は死ぬことで、その魂は重なり合うどちらかの冥界にずれて存在することになる。物質界と二つの冥界は重なり合ってはいるものの、つながってはいないため、通常それぞれの世界の魂と会うことはできないが、この聖堂のように長い間人々の祈りによって清められた空間は清冥界とつながりやすく、清らかな魂オーブがその存在を知らせる。
逆に打ち捨てられた墓所や戦場跡など死者の怨念が渦巻く空間は汚冥界とつながりやすく、汚れた魂が変化したアンデットやゴーストといったものが、そのつながりから人に危害を加える。世界に怨念が充ちれば世界全体が汚冥界とつながりやすくなり世が乱れる原因となるため、我々聖職者や修道僧などは日に数回ミサを行い、世界から怨念を減らす儀式を行っているのだ。
不思議なことに、人々の目には清らかなものは見えず触れられず、汚れたものは見えてかつ危害を加えてくる。
魂とは空気のようなものだろうか……清らかな空気は透明で見えないが、汚れた空気は見たくなくとも見えてしまう。何とも皮肉なものだ。
静寂のひと時を打ち破るように、侍祭が慌てた様子で大聖堂内へやってきた。
「アリア司祭様! たった今、神殿騎士殿が来訪されました!」
「え……神殿騎士?」私の心臓はドキリとした。
「はい、神殿騎士はコークリット様で、今 待機室にお通ししております。司教様が湯あみ中でございますので、アリア司祭にご連絡に上がりました」
やっぱり、コックリか。
その名前に、懐かしい顔が浮かぶ。ギルドを統括するロードス様が法王庁の話をした時、なんとなく私はコックリが来るかもと思っていた。こんなこともあるんだな、と思った。
「分かりました。では司教様が出られるまで対応いたします。連絡ありがとう」
私は静寂に包まれた大聖堂を後にした。