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真相

 ■システィーナの視点


 城の地下、岩山のドームの中に一本の樹木が茂る。

 大地にしっかりと根を張り、ドーム全体に蛇のようにうねるツタを張り巡らせ、青々とした葉を茂らせている。幹の高さだけでも十メートルは超えるだろう。その太い幹の中心に、体長七メートルはあろう裸の女性が埋もれている。その女性の顔は、肖像画で見た鮮血の貴婦人バリトー・エリザベールその人だ。



「コックリ……。すべて、コックリの推理通りね…………。」



【怪異の真相】


 地下空間へ幽閉されたバリトー・エリザベールは、枯れ果てる一輪の花に自分を見た。

 美しさと若さを渇望するゆえ、自害したエリザベール。

 死の直前、彼女の肉体から抜け出た彼女の心、『霊』は、一輪の花に憑依し、花は妖花マンドラゴラへと変貌を遂げる。


 エリザベールは美しさを願い、マンドラゴラは大きく、美しく成長していく。

 しかし、生命には寿命がある。マンドラゴラは弱り、樹熱病を発症する。

 マンドラゴラの寿命が尽きかけた時、エリザベールは他者から寿命を奪おうと考える。己が人であった時、若い娘から若さを奪おうとしたように。

 必要なのは、さらなる寿命。

 寿命は魂に宿る生命エネルギー。

 生命エネルギーを奪うことができるのは淫魔……。

 久しく感じていない性の喜び。自らの霊力を使い、自らに生き写しのスクブスを生み出す。


 エリザベールは人だったころの失敗から、慎重に動く。

 まずは誰にも見つからないよう、新月の夜に行動する。

 誰にも見つからないよう、一人で寝ている者だけにする。

 奪った後も、チャームにより記憶の操作をする。

 効率よく、より多くの生命エネルギーを集めるため、丈夫な男から集める。

 一つの町で大勢から集めるのではなく、多くの町から少しずつ集める。

 慎重に、慎重に……。


 若い男の生命エネルギーを吸い取った妖花は、大きくさらに大きく成長することとなる。

 エリザベールは笑った。


 しかし古木は古木……次の新月の夜を待たずして樹熱病は再発する。

 でも、奪えばよい。

 さらに奪えばよい。エリザベールはさらにスクブスを生み出す。


 だが、自ら生み出した淫魔にも、樹熱病が感染していることに気が付かなかった。

 生命エネルギーを奪われた男たちは抵抗力を失い、樹熱病を発症した…………。




「すべて推理通りね。」

「いや…………そうでもないな…………。」



 え? どこか違っていたの?



「これほど巨大なマンドラゴラに変貌しているとは思わなかった。まあ、『推理』が外れたというよりは規模の『予想』が外れた……といったところか。」



 なるほど、確かにそうね。私もこれほど大きなマンドラゴラを見たことがない……。


 その時私は…………激しい違和感を覚えた…………。違和感、違和感だ。

 なんだろう…………この違和感…………。今一度マンドラゴラを見る。

 通常ならば『小さな花』程度のマンドラゴラが、『幹を持つ大木』にまで成長している。それが違和感の一つなのだろうけれど、それ以外でも…………何かが…………ひっかかる…………。



 なんだろう…………? なんだろう…………? その時、コックリのつぶやきに私は息を呑んだ。



「女の欲望は、自然を超越するもんだな…………。」



 ! ! !


 ! ! !


 私はその瞬間、すべてのことを理解した。

 そうか……そうだったのか…………!



 その時、巨大マンドラゴラの幹もツタも、すべてが震えだした!



 ザザザザザザザザザザッ!



 枝葉を震わせる音、葉と葉が交わる音がドーム内にこだまする! な、なにっ!?



「シスっ! エリザベールの目が開く!」

「えっ!?」


 うす暗闇の中、幹の中で眠る巨大な美女の目が、うっすらと開き始める……! ああぁ……起きるっ! 目覚めるっ! ああっ目が……赤い眼が……光った!!


「凄まじい敵意っ! 激しい殺意っ! やはりただのマンドラゴラじゃないっ! 別の生き物だっ!」


 その時、ツタの中に無数の赤い光が見えた! あれはっ! あれは、スクブスッ! 二十体以上のスクブスが、枝葉の隙間から顔を出し、敵意を剥きだしで出てきた!


「俺たちを殺す気だっ! シス、戦闘準備だっ!」

「分かった!」

「「シャアァァアアアアアァァァッ!!」」


 蝙蝠の羽で縦横無尽に飛び回るスクブス! 蛇が喉の奥から音を発するように、獰猛な牙と爪をあらわにした複数のスクブスが次々と襲ってきた! ある者は宙を、ある者は地を駆けるっ!


「『聖魔法』の力、見せてやる!」


 コックリはそう叫ぶと、宙から襲い来るスクブスたちに向け、大きく一歩踏み出し手のひらを突き出した!


 ダンッ!


 という、何かが炸裂するような音が響くと、三体のスクブスが吹き飛ばされた! 突然の出来事に、他のスクブスの動きが止まる。


「今だっ!」


 私は装備していた弓で、動きの止まったスクブスを射抜く。眉間を打ち抜かれたスクブスはそのまま地面に激突する。


「もう一丁っ!」


 コックリが左の手のひらを払うように左から右へ振りぬくと、再び何かが炸裂するような音が空間を揺らし、五体のスクブスが見えない何かに左から右へ弾かれ、岩壁に激突した。コックリのこの技は、攻撃型の聖魔法の一つ、波動砲だ。空間を揺さぶり、巨大な波動を作り上げて敵にぶつける聖魔法の一つだ。岩壁に叩きつけられたスクブスたちは波動砲の直撃を受けたのか、骨が折れたり体がひしゃげていた。

 それを見てもなお、襲い来るスクブスたちに、私も弓を当て次々に討伐していく。


 ダンッ ダンッ ダンッ 次々に炸裂音がドーム内を震わす!


「ギャアアアァアアアアアッ!」


 次々に退治されていくスクブスたちは、すでに三分の二がドームの床に転がっている。


 するとその時、異様な獣臭が鼻を突いた。

 それとともに腐った卵の臭いも…………これは火山、硫化水素の臭い!


「コックリ!」

「ああ、ヘルハウンドか……!」


 巨大な幹の裏から、これまた巨大な黒い犬が現れた。いや、犬と呼んでいいのだろうか……身の丈二メートルはある馬のように大きな体だ。


 何という筋肉だろう……肩の肉は筋肉でいびつに隆起し、犬というよりも熊のように足が太い。黒光りする毛並みは美しくさえ思えるが、瞳は白く濁り、白く鋭い牙をあらわに威嚇する。そのヘルハウンドが…………三体…………! うち一体が、口から息を吐き出すと、硫化水素の臭いと赤い炎がヒュゴッと見えた。


「でかい……シス、いったん螺旋階段まで下がってくれ!」

「わ、分かった!」


 その声に反応してか、一体のヘルハウンドが炎を吐いた! 巨大な赤い火の玉がっ、紅蓮の炎と言っても過言ではない炎の塊が! コックリに迫るっ!


「おいおい! ご主人様が燃えたら! どうすんだっ!?」


 コックリは再び左の手のひらを振りぬくと、火の玉が弾かれ、隙をうかがっていた二体のスクブスに直撃するっ!


「ギャアァアアアアアアアアッ!」


 燃え盛る炎に焼かれるスクブスの悲鳴がこだました瞬間、三頭のヘルハウンドが走り出した! 重量級の筋肉の塊が、振動と共に走り寄る!


「「グルガァアアアアアアアアアアッッ!!」」


 二頭がほぼ並び、一頭がその後ろを駆ける! 右側の黒犬が半歩早いっ! 距離はあと五メートル! コックリは右の手のひらを右から左へ薙ぎ払った。


 ダンッ!


 という炸裂音とともに、右から襲い来る黒犬が弾かれ、左の黒犬に激突した! 上手いっ! 前の二頭がもんどりうって転倒する! とその時、後ろから駆けてきたもう一頭が、巨体と思えぬ敏捷さで飛び上がり、コックリ目がけて飛び込んできた!


「コッ……!」

「『聖剣技』も見せてやる!」


 薙ぎ払った右手で、左腰に差したサーベルを持つ。コックリはそのままサーベルを抜き取る勢いで下から上へ剣を振り上げた。暗闇の中に白い光の軌跡ができる。


 キュインッ!


 という甲高い音が一瞬したかと思うと、飛び掛かってきた黒犬が、きれいに真っ二つに割れた! その直後、二つに分かれた黒犬の体が炸裂音とともに、あとから来た波動によって天高く舞い上がった! 舞い上がった二つの肉体は、ツタに覆われたドームの天井に突き刺さる。


 あれは波動砲を刀身に纏わせ、空間をも断つ斬撃を放つ技、聖魔法を込めた神殿騎士の剣技『聖剣技』だ!


「「ガアァアアアアアアッ!」」


 床に倒れたままのヘルハウンドが炎を吐き出した! わあ、コックリと近い! コックリは左手で薙ぎ払うと炸裂音とともに炎が方向を変えるけど、五メートルくらいしかないから! 


「あちちちちちっ!」


 直撃は受けなかったけど、熱は弾けない。コックリの左手から煙が上がった!

 と、その瞬間!


「グルアァアアアアアアアアアッ!」

「うおおおおおっ!?」


 炎に隠れてもう一匹が襲い掛かってきていた! 真っ白で巨大な牙が、コックリの腕に噛みつく!


「コックリ!」「大丈夫っ!」


 コックリはとっさに手甲で守られた腕を噛ませていた。その噛ませた状態で、がら空きののど元に剣を滑り込ませ跳ね上げると、再び白い光が軌跡を描く。


 キュインッ!


 また甲高い金属音が轟き、ヘルハウンドの首はコックリの腕を噛んだまま、首から下の胴体だけが凄まじい勢いで真上に跳ね上がった!


「さあ、最後の一頭だ。」


 コックリは左腕を払い噛みついていた黒犬の頭を落とすと、最後の一頭に目を向けた。そして次の瞬間、炸裂音が響いたと思った時にはコックリは五メートル先にいる黒犬の首をはねていた! は、早い! 早いっ! たぶん、足に波動を集めて、瞬間的に移動したんだと思う! たぶん!


 ああ圧倒的、圧倒的だ……一人で旅に出られる訳が分かる。

 スクブスたちが、ガタガタと震えている。

 ああ、スクブスだけじゃない。エリザベールも驚愕の表情を見せて、樹木全体が揺れている。ドーム全体から葉と葉が揺れる音が響き渡る。


 これが、世界に七名しかいない神殿騎士の強さ。聖魔法を使いこなし、聖剣技を体得し、推理力に長け、邪悪なものを赦さない強い意思を持つ。

 いや、よくぞ七名も存在すると思う。これだけの騎士が七名も……。


「バリトー・エリザベール!」


 コックリがサーベルをマンドラゴラに向け叫ぶ。彼の深い、良く通る声がドーム内に響き渡る。


「美と生への執着を捨てよっ!」


 そう宣言すると、コックリは駆け出した! そしてまた炸裂音が響くと、コックリが宙を飛んでいた。しかも複数の炸裂音とともに空中でジグザクに! たぶん片足ずつ波動を発生させて、空中を飛んでいるんだ! エリザベールより、高く!


 驚愕の表情のエリザベールが、大きく息を吸い込んだ。マズイ、叫ぶ気だ! マンドラゴラの絶叫は、聞く者を突然死させる力がある! あれだけの大きさは、マズイ! 私は魔法を発動させる。


 大きな口を開け、絶叫するエリザベール。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!  ???」


 間一髪、風の精霊魔法『沈黙』の魔法が、彼女の声を封じた。私もコックリを護る!


「恩に着るっ!」


 コックリは落下しながら、目にも留まらぬ速さで剣を左右に振りまくる。白い光の軌跡が左右にジグザグに発生する。


 キュィンーーーィィイイイイイイインンッ



 音叉の反響音のような音がこだますると、マンドラゴラの体が…………、数十センチの厚み切り分けられたかと思うと、次の瞬間切られた体が交互に、左右に吹き飛んでいく。頭部も、頚部も、胸部も、胴体も、腕も足も、数十に切り分けられた樹木が、左右に吹き飛んでいく!



 ドドドドドドドドドドドド……!



 コックリが地面に降り立つと、大木から伸びていた枝も葉も、ツルも、何もかもが天井から落ちてきた。わあ、危ない! と思ったら、当のコックリは切り飛ばしたエリザベールの破片を確認しながら、頭上を見ることなく落ちてくる枝葉を剣で払い落としながら悠然と私の元へと歩いてくる。な、なんであんなことができるの……!?

 ああ、残されたスクブスが悲鳴を上げドロドロと溶けはじめて消えてなくなった……エリザベールが生み出した使い魔だからか……。



 頭上からの落下物がなくなると…………ああ、一筋の光が差し込んだ。ドーム状の天井付近に、明り取り用に穿たれた穴があったのね…………。

 一筋の光は、ポッカリとあいたエリザベールがいたその場所を照らし出す。



 百年もの長きにわたり、美と若さを望み、渇望した美の化身は、今完全に滅せられたのだ。



「討伐完了。」



 コックリはそう言うと、剣を鞘に納めた。

 これですべて解決になる……。もう、樹熱病におかされることはない、すべてが解決になる。





 そして、私が初めてヴェネリア島を見て、恐怖した理由も……。

 なぜヴェネリア島を見て、恐怖したのか。


 その理由も……。


 すべて、解決に…………。




あと4~5話続きます。

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