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バリトー城 地下

 ■システィーナの視点


 城下町の坂道を上りきると、そこには深い堀と堅牢な城壁が待ち構えていた。ああ、やはり手入れがされていないから、堀の底には樹木が繁っているし、堀の中腹の崖にも樹木やツタが繁っている。跳ね橋の先には、ツタに覆われた石造りの古城が佇んでいる。



「よし、行くよ。」

「うん。」



 でも、はぁ…………跳ね橋がボロボロになっていて、ところどころ穴が開いているわ。鉄で補強された部分を通るんだけれど……ミシミシッと嫌な音が響く。コックリは鎧を纏っているから体重が百キロくらいありそうだけど……、何とか渡りきった。


 城壁の中には中庭があり、その先には館…………屋根や壁、窓に複雑な装飾がある館風の城が鎮座し、入り口は大きく口を開けている。ああ、城全体がすごいツタで覆われている。



「入るよ。シスは念のため光の精霊を出してくれるかい?」



 分かったわ。私は呪文を唱えると、目の前に青白く光る球体が現れた。これは光の精霊、ウィル・オー・ウィスプだ。

 私はウィスプを城の中へと動かした。



 薄暗いバリトー城内に入ると、幅が広い通路が奥へと伸びている。

 高い天井はアーチ状の柱に支えられ、天に伸び上るような印象を受ける。床は大理石でできているようだけれど、ほこりやゴミが散乱し見る影もない。この散乱したゴミは、昔は赤かっただろうカーペットがボロボロに破れて散乱しているのかもしれない。

 壁には燭台があった跡が残っているけれど、たぶん盗まれてしまったのね。そして特筆すべきは、ツタ。通路の壁や天井に、びっしりとツタが張り付き、葉が生い茂っている。



「城の内部にツタか……。ふむ。」



 ええ、コックリの予測・推理どおりね。本当怖いくらい……なんでそんなに分かるのかしら? 

 私はここへ来る前に、コックリに全ての考えを聞いている。その考えとバリトー城の現状を照らし合わせるに、すべてがことごとく合致している。

 ウィスプによってほのかに光る通路を進む。石造りの城内はひんやりと冷たく、コックリの鎧の音が通路内に響く。うう~ん、隠密活動には向かないよね。するとコックリが立ち止った。どうしたの?



「しっ……。」



 二人して聞き耳を立てる。どこか遠くから風が吹き込む音が聞こえる。

 コックリと私は顔を見合わせてうなずくと、そちらの方へと向かった。廊下には多くの扉があったのだけれど、ほとんどが壊され残骸が散乱している。……と、一際大きい壊れた扉の中から風が吹き抜けていることに気が付いた。たぶんここだ、扉の中を覗いた。



 そこはパーティー用のホールだった。



 中は天井が高い広めのホールで床が薄汚れてはいるが、元は白と黒の大理石のようだ。また精緻な施しのある縦長の窓がたくさん並んでいる。その壁が一部崩れて、そこから風が吹き込んでいるのね。ここもツタと葉によって壁や天井がびっしりと覆われていて、さながら森の中に埋もれた遺跡のようだ。調度品は全て持ち出されているようで中はガランとしている。



「華やかだったんだろうな…………。」



 本当にね……。コックリと共に中に入ると、ああツタで覆われた壁には薄汚れた肖像画がある……女性の肖像画だ。この女性がもしや……。



「絶世の美女、バリトー・エリザベールか……。」

「あれ、なんだか見たことがあるような……。」

「ああ、スクブスだろう?」

「ああ~!」



 そうか、スクブスにそっくりなんだ……。というかスクブスがこのエリザベールに似せているのか……。若さを、美しさを欲し、多くの若い少女たちを拷問の末、殺害した美女……。でも、人は自然の流れには逆らえない……逆らえないのよ……。



 その時ふと、自分の言葉に何かが引っかかった…………。ん? なんだろう……。



「行くよ、シス。」



 彼がホールを出ようとしているので、私も後に続いた。うん、今は忘れよう。何に引っかかったのか今は忘れよう。ここは敵地だ……。



 通路を歩くうち、ツタがある方向へ向かっていることに気が付く。

 ツタの流れに沿って歩いていくコックリ。

 するとツタはある一点に集約するように流れる。その集約される先に、一際多く茂る扉がある。



 地下への通路だ。ツタはこの地下への通路からはい出るように壁や天井を埋め尽くしている。



「……シス、これを見てくれ。」



 コックリは太いツタを指差した。そこには緑色の斑ができている。



「樹熱病だ。」



 コックリの推理どおりに進んでいる…………このツタの先に、真の敵がいる!



「行こう……。」

「うん……。」



 地下への通路は真の暗闇に包まれ、冷たい空気が澱んでいる。ああ……すごく寒い……当然か、ここには太陽の光は届かないのだから……。寒いうえに、地下独特の湿り気があって、階段が滑りやすくなっている。


 コックリと私は、螺旋状の階段を地下へ……地下へ…………。

 光の精霊が動くことで…………ツタや葉の影が動き、何者かが存在しているような恐怖感を与える…………。


 コックリと私は、螺旋状の階段を地下へ……地下へ…………。



「霊は心……霊は魔法の力の根源…………。」



 暗闇の中コックリがささやく…………。



「バリトー・エリザベールは、若さを望んだ。美しさを望んだ……。彼女の心は若さへの渇望にあふれていた…………。」



 ささやきながらも…………暗闇の地下へ…………。



「しかし幽閉され、若さを…………美しさを奪われることに耐えられなかった…………。」



 若さへの渇望…………。少女たちの命を奪ってでも…………得ようとした若さ…………。



「彼女は…………死を選んだ…………。」



 長く、寒い、暗闇の螺旋階段が終わり…………、凍土のような冷たい土の感触が足に広がる…………。

 見える範囲では、岩を荒削りしたようなドーム状の空間だ。



「…………しかし死の間際…………彼女の心…………『霊』は彼女の体から抜け出し、『植物』に宿り憑依した…………。植物はすべてを、ありのままに受け入れる…………。」



 私はウィスプをドーム状の空間の奥へと誘導した。

 冷たい空間の奥…………樹熱病を発症したツタの生い茂る中心…………。

 うねる大蛇のようなツタの中心に、巨大な樹木の幹が見える。樹熱病におかされた巨大樹だ…………。その幹に浮かび上がる全裸の女性の姿…………美しい、妖艶な女性の姿…………。



 体長七メートルは超える、巨大な人の姿が浮かび上がった樹木がそこにあった。



「樹齢百年を越える巨大古木……。樹熱病におかされながら、美と若さに渇望し、人の生命エネルギーを奪う…………。巨大な『マンドラゴラ』…………。」



 花のように美しい、肖像画のとおりの女性が…………体長七メートルほどまで成長した巨大で美しい裸の女性が、幹の中で静かに眠っていた…………。




 【マンドラゴラ】

 人の霊が植物に憑依し、人の姿に変成して成長する植物。

 引き抜く時あげる悲鳴を聞くと、死亡する可能性がある。処刑場、ギロチンの下に植物を植えると、処刑されたものの霊が宿り、マンドラゴラとなる確率が高い。マンドラゴラは霊薬や魔術の道具として重宝される。





次回は真相編です

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