病気を運ぶもの
修正しました。
修正箇所:まとめの『c:不可解点』を追加記載
■システィーナの視点
コックリと私はジャックさんに差し入れを届け、樹熱病を完全に治したあと、彼の部屋から二つ離れた空き部屋へと移動した。アリアさんは聖堂に戻ってもらい、いつも通りに過ごしてもらっている。
「シス、どうかな?」
うん、ちょっと待ってね。私は精神を集中して精霊魔法を唱えると脳裏にジャックさんの部屋の光景が浮かび上がった。コックリ、バッチリよ。
この魔法は、対象となる植物に自分の印をつけることで、その植物と精神を同調しその植物がみている景色、感じている周りの気配などを共有できるという精霊魔法だ。先ほどお土産としておいてきたプランターに私の印を付けておいたので、ジャックさんの部屋の光景が分かるのだ。ちなみに遠くにある植物と精神を同調できるかはその術者の能力次第で、私の住んでいた里の者では数キロメートル離れた樹木と同調できる術者がいたが、私はこの魔法は苦手でせいぜい十数メートル程度の距離しかできない。エルフといえど精霊魔法にも得手不得手があるのよね。
「よし、これで時が来るのを待とう。」
コックリはそう言うと、オルファーという大型のフクロウに餌をあげた。このフクロウは陸地の森で私が精霊魔法によって契約した長距離を飛べるフクロウだ。私は森の動物と仲良くなる精霊魔法の方が得意で、先ほどの樹木と精神感応する魔法のようにこのフクロウの見ている景色や感じている感覚を共有することができる。
フクロウを用意したのは、コックリが立てた仮説を証明・調査するのに必要になるかもしれない、ということからだ。
さあ、その時を待とう……。
―――――――――――――――
深夜。
月のない今宵の夜は幻想的な満天の星空を生み出し、流れる星を鮮やかにさせる。ヴェネリアの街は、まるで海の底に沈んでいるかのように暗闇と静寂に包まれている。私たちがいる部屋も暗闇に包まれ、夜目のきくエルフでも室内の物の位置がシルエットとして分かる程度だ。窓際ではコックリが椅子に座って外を眺めているのが見える。コックリはこんな暗闇で大丈夫なのかしら、と思っているとコックリが立ち上がる様子が分かった。
「何か来た……。複数いる。」
えっ、複数? コックリは空を見上げて目を凝らしている。
「大きいな……蝙蝠…………蝙蝠だ…………でも、大きすぎる…………両翼で……一メートルくらいある…………。シス、ジャックの部屋を見ておいてくれ。」
う、うん分かったわ。私は再び精神感応の魔法を使うと、暗闇の中ジャックさんがベッドで寝ているシルエットが見えた。凄い盛大なイビキをかいて寝ている。
「一軒、一軒、窓に寄って中を伺っている……。」
なんでこの暗闇の中で見えるんだろう。
「来た……。シス、窓の外だ。」
私は精神感応でジャックさんの部屋の窓を見た。
すると蝙蝠が…………人型に変わった…………!
人型のシルエットが見えるっ! 人型になったそれは窓を開け、そこに腰かける。
ああ……目が赤く光っている! その赤い眼の人影が何か身振りをすると、今度はジャックさんがノロノロと起き上がって窓の方に歩き始めた! 彼は夢遊病者のように窓へ歩いていくと、窓辺に座る人物に手を差し伸べる。あれは……!
「やはりスクブスか……。」
【スクブス】
淫魔、と呼ばれる女の妖魔であり、男性と性交し生命力を奪う。男の淫魔をインクブスと呼びそれは女性を狙う。どちらもチャームという魔法を使い魅惑する上、チャームが掛かりやすくなるよう自分と性交したくてたまらなくさせる姿で現れる。男はたくましい半裸の姿で、女は肉感的な妖艶な姿をとる。両者とも赤い眼をして背中に蝙蝠の羽を生やし、鞭のような尾が生えている。また、淫魔は蝙蝠に化けることもできる。
「見えた範囲では、蝙蝠は三匹……おそらく全部スクブスだろうな…………。」
ええ? この暗闇の中でなんで見えるの? というか、スクブスを見ちゃだめっ! 誘惑されてしまうかもしれないし! 明確にチャームを掛けてきてなくてもコックリだって男だから……、万が一があったら嫌だし!
というか……というか……肉感的なだけの女に誘惑されたら……うう~、私とは半年も一緒にいるのに! 絶対、嫌っ!
「シス、ジャックはどうだ?」
え、ああそうだった。えっと……ぶふっ!
スクブスはその……ジャックさんの上にまたがって……上下でつながって…………口と下の結合部分が光ってる! あれが生命エネルギー!? 吸い取ってるっ!
「性交中か。おそらく今 生命エネルギーを吸い取っているところだろう。より多く生命エネルギーを奪うための若い健康な男性の選択。他の者に騒がれないための一人暮らしの男性の選択。生命力がなくなるということは病気に対する抵抗力がなくなるということ、それで感染力の低い樹熱病を伝染させる……。記憶がないのはチャームによる記憶操作か…………しかし何故、樹熱病? 何故だ…………。まだ何かあるっ! まだ何かあるぞっ!」
コ、コックリ、ジャックさんはどうするの?
「ああ、とりあえず仮説②の大部分は証明できた、彼を助けに行こう。」
コックリと私はジャックさんの部屋へと向かうと、ドアを思い切りたたいた。
「おお~い、ジャック! 酒飲もうぜ~っ」
「そうよ~、明日は休みでしょ~?」
再び樹木と精神感応すると、スクブスが出ていくところが分かる。コックリは空き部屋に戻ると、暗闇の夜空へとフクロウを羽ばたかせた。
尾行開始!
とりあえずこういうこと!
仮説① 自然の流れで感染した可能性……低い
A:樹木から感染…………樹木の感染事例なし
B:人から感染……………観光客等の感染事例なし
仮説② ①以外の理由で感染した可能性……高い
聖霊の啓示………邪悪な存在が関わっている可能性を示唆。
作為的行為………新月の夜、健康な男性のみ、一人で寝ている時のみ行動
⇒ 知能の高い、邪悪な存在を想起
a:方法
a-1:被害者の選択方法
視認によるもの
・日中から監視しているわけではない
・部屋の中を覗けないと手を出さない……………慎重
a-2:被害者へ感染させる方法
スクブスによる性交
・弱ったところで病気に感染
・チャームによる記憶操作
a-3:その他
新月の夜の行動は第三者に発見されないため?……慎重
b:目的
生命エネルギーを吸い取ること
・生命力あふれる健康な男性が選ばれる
・一人暮らしの男性が選ばれる
・生命力が低い高齢者や子供、女性は選ばれない
c:不可解点
樹熱病の発症……なぜ樹熱病? 他の性病じゃないのはなぜ?
あとは、樹熱病が関わる理由が分かれば……!




