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待機室で

 

 ■システィーナの視点



 コックリと私はサン・マルゴー聖殿の待機室へやってきた。ここで司教様とアリアさんを待っている。

 今日はコックリがアリアさんに指示していた件の結果を聞きに来たのだ。アリアさんは教団関係者に指示して、コックリの依頼をやってもらっている。実はコックリ、あくまでも教団関係者のみで事に当たってくれ、と言っていた。



 あまり多くの一般人を捜査に入れると、リスクが二つ発生するからだ。一つは怪異捜査状況が敵などに漏れるリスク、もう一つは一般人が怪異に巻き込まれるリスクだ。



 コックリがふと立ち上がったので、私も立ち上がった。するとドアがノックされ、モルゴー司教とアリアさんが荷物を抱えて入ってきた。



「おはようございます、神殿騎士殿、システィーナ殿」

「おはようございます。司教様、アリア司祭」



 アリアさんが私を見てニッコリと笑った。私はアリアさんからストールを借りっぱなしで、今も首と耳、頭を隠しているのだけれど、私が使っているのがうれしいのかな? ありがとうアリアさん。



「司教様、突然の依頼で申し訳ございませんでした。依頼した件、いかがでしたでしょうか?」



 コックリの言葉に司教様とアリアさんが顔を見合わせたあと頷いた。コックリは怪異捜査のために、アリアさんに色々な指示を出していたのだ。アリアさんは司教様にその指示を伝え、教団関係者に短期間のうちに人海戦術で調査したようだ。



 コックリの指示……それは以下の点だ

 ①ヴェネリア近隣の町や村の樹熱病発症調査

 ②発症していた場合の時期・人数

 ③発症者の特徴

 ④部屋の状況



 コックリは、この怪異がヴェネリアだけでなく、近隣の町村にまで及んでいるのではないか、と懸念していた。



「はい。神殿騎士殿にご指示をいただきました通り、ヴェネリア近隣の陸地にある町や村々に同様の病気が流行っていないか確認させました」



 司教様が話し始めた。



「すると近隣の町や村々でも、同様の症状を訴える者が複数おりました」



 そうよね……。ヴェネリアだけではなく、陸地にある近隣の町や村々でも起こっていた。司教様の話では発症者が少ないため、あまり問題にならなかったことと、町や村々の行き来が多くないので、こういった奇妙な病気の噂がヴェネリアやこのマルゴー聖殿までこなかったらしい。また、よほど大きな町でないと聖魔法を使える聖職者が教会にいないので、そのことも発覚が遅れた原因になったらしい。



 実は昨日、樹熱病を発症した樹木がないか陸地の方へ行った時、一つの村を訪れたのだけれどその際樹熱病になった人がいたという情報は仕入れられていた。ただ広範囲は調べられないので、教団関係の皆さんに頑張ってもらって助かったのだ。



「そしてこちらがご指示のあったヴェネリア周辺地図です」



 司教様に促され、アリアさんは丸められた大きな羊皮紙をテーブルに広げた。それはヴェネリアを中心に半径十キロくらいに縮尺された地図だ。地図には大小二十くらいの町や村が記載されている。



「町や村の横に書いてある数字が、だいたいの発症者数と初めて病気が発生した時期です」



 おお、こうして見るとやはり大きな町は患者が多い。けれどあら……ヴェネリアより西の地域はほとんど患者がゼロで、北東の方が結構いるし、ヴェネリアより前に発症しているみたい。(ちなみにヴェネリアの南は海だ。)



 ということは、この病は北東から伝播して来ているということ?



「ありがとうございます。短期間でここまで調査していただけるとは……さすがヴェネリアの皆さんは優秀ですね」

「いえ、神殿騎士殿のご指示があればこそです」

「患者の傾向はいかがでしたか?」

「やはり若い健康な男性がほとんどでした」

「ほとんどというと?」

「ああ、健康な中年もいたようで」

「なるほど。そして独り暮らしで、新月の夜に多い、と?」

「はい、そのようです」

「部屋の状況は、窓から中が見やすい状況ですか?」

「ええ、その通りでした」

「ヴェネリアを中心に方角的には北東の方が、患者が多いようですね。何か心当たりはございますか?」

「むう、残念ながら……。新月まで時間があれば、もう少し先の方まで調べられたでしょうが……」



 司教様は残念そうにしていた。それはそうか、ずっとこの怪異に心を痛めていたところで、光明が見えてきたのだから。



 北東か……私たちは西から来たから、こういった事例に気が付かなかったのかも。



「ありがとうございました。だいぶ真相に近づいてきたと思います」

「「おおっ!」」



 司教様とアリアさんが声を上げた。



「して、真相とはどのようなものなのでしょうか?」

「そうですね……真相とは申しましたが、仮説の段階ではあります」

「仮説でもよろしいので、お教え願えますまいか」

「そうですね。では説明しましょう」



 コックリはそういうと、昨日サン・ミカーレ島で話してくれた内容を話し始めた。



 仮説① 自然の流れで感染した可能性……低い

 A:樹木から感染…………樹木の感染事例なし

 B:人から感染……………観光客等の感染事例なし


 仮説② ①以外の理由で感染した可能性……高い

 聖霊の啓示………邪悪な存在が関わっている可能性を示唆。

 作為的行為………新月の夜、健康な男性のみ、一人で寝ている時のみ行動

 ⇒ 知能の高い、邪悪な存在を想起


 a:方法

  a-1:被害者の選択方法

   視認によるもの

   ・日中から監視しているわけではない

   ・部屋の中を覗けないと手を出さない……………慎重

  a-2:被害者へ感染させる方法

   ・これから教えてもらう

  a-3:その他

   ・新月の夜の行動は第三者に発見されないため?……慎重


 b:目的 これから教えてもらう



「なるほど……確かに邪悪な存在が作為的に行っている可能性が高いですな。して、被害者へ感染させる方法とその目的はいったい?」

「はい。ではいったん目的の方を考えてみたいと思います」



 あら、a-2の感染方法ではなく、bの目的から? 何か意図があるのね。



「私は司教様から話を聞いた当初、邪悪な存在は『病気を感染させること』が目的だと考えていました。病気を蔓延させることで、この街や町村、あるいは国を混乱に陥れ、不信や不浄なる念を世界に満たし、汚冥界とのつながりを強める……そのため病気を感染させるという目的を考えていました」

「え!? 違うのですか?」

「はい、違う可能性が高い。根拠は二つです」



 根拠は二つ。いったい何かしら。



「一つは、抵抗力の弱いお年寄りや子供、女性などにまったく感染させていないこと、です」



 ああ、そうか……。病気を蔓延させることが目的だったら、体の弱い人からどんどん感染させて、聖職者の手にも余るくらいのパンデミックを起こせばいい。抵抗力の弱いお年寄りや子供など格好のターゲットになる。特に子供が感染し、今にも死にそうになった時の人々の感情は……世に不満と不信の念を満たすことになるだろう。



「さらにもう一つ、感染力の弱い『樹熱病』を蔓延させるより、もっと感染力の強い伝染病を蔓延させる方が、効率が良い」



 ああ、それもそうだ……。なぜ、伝染力の弱い樹熱病だったのか……。もっと伝染力の強い病気ならいくらでもある。



「それゆえ、敵の目的は『病気を感染させること』ではない……と考えました」

「では……では、敵の目的はいったい……?」

「敵の目的は『別のところ』にあり、その目的を達成することで相手を病気にさせている……というところではないかと考えています」

「別の目的を達成することで、病気に……」



 その別の目的とは……皆がコックリを見つめる中、彼は別の話を始めた。



「今日は新月の夜……。仮説を実証したく、怪異解決のために逆に怪異を利用しようと思います」



 怪異解決のため、怪異を利用する? なんのこっちゃ?





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