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墓地の島

閑話が短かったので、本編も同時に更新しました。

 

 ■システィーナの視点


 怪異捜査二日目



 今日はヴェネリア本島から南へ行った島サン・ミカーレ島へ来た。

 この島はヴェネリアで唯一、『土と樹が残っている島』であり、そこに樹熱病を発症した樹木が存在しないか調査するためにやってきたのだ。



 なぜこの島だけ『土と樹木が残っている』のか?



 それはこの島が、永遠の眠りにつく人々を慰霊する『墓所の島』だからだ。ヴェネリアで生まれ育った人々が亡くなると、この島へ埋葬される。埋葬するために土地を残しているため、樹木も残っているのだ。



 今も黒服を着た数名の男女が、あるお墓の前で花束を手向けている。


 さあこの島で何か手がかりが発見できるかしら……。今日はコックリと二人だ。アリアさんは、別案件でいろいろな手配をしてもらっている。



「よし、今ちょうど島の中心だから、シスは西半分、俺は東半分を調査しよう」



 うん、分かったわ。

 ジャックさんや他の患者たちがこの島に来た事実はないのだけれど、コックリが仮説実証のため調べるとのこと。



 私は島をぐるりと見渡した。



 この島は、今私がいるこの場所、中心がなだらかな丘の野原で、短い芝の中から無数の四角い墓が等間隔にうっすらと突き出ている、整然と並んだ綺麗な墓所だ。島の至るところに樹木が繁り、柔らかな木陰を作っている。芝からはいろいろな花も咲いていて、蝶や蜂が飛んでいるのを見ると、のどかで、心を癒される。墓石の所々に花束が手向けられているのは、遺族が墓参りに来たばかりなのね。墓石に刻まれた文字を見ると一人ひとりが入る墓ではなく、家族や一族単位で安置されているみたい……それは島の大きさのため個人単位でお墓を用意できないゆえか、はたまた個人よりも一族を大事にするからなのか……



 私は、手近にあったクスノキに歩み寄るとその幹に手を触れた。樹齢は七十年くらいかしら……手を通して幹に流れる生命力や霊力を感じとる。エルフは樹木に触れればその樹がどんな状態なのか分かる。この樹は樹熱病に侵されてはいない。



 とても力強い樹……見上げれば、太い枝を四方にいっぱいに広げ、太陽の恵みをいっぱいに浴びている。葉がエメラルド色に光輝き、風にたなびきながらサラサラと癒しの声を囁く。



 私は額を幹に押し付け、囁いた。



 貴方はあと三十年もすれば、心……樹の精が目覚めるのね、いつか会えることを楽しみに待っているわ……



 樹の精ドライアードは樹齢百年を越える樹木に目覚める、心の具現化した姿で主に若い女性の姿で現れる。



 人や妖精に限らず、樹木といった動植物など、自然物にも魂と霊は宿っている。魂は生命の根源で意思を司り、その魂を守るように霊が存在するのだが、その霊力に心が宿るのだ。



 自然物は生まれても元々霊力が小さく、永い時を経て霊力を蓄える。樹木は霊力を蓄えるのに百年前後掛かるのだ。



 魂は生命力と意思を、霊力は魔法の力と心を。

 精霊、聖霊、魔霊は魔法を使う奇跡の力の根源の塊であり、心の塊なのだ。



 私は樹木の一本一本に触れ、状態を確認していく。

 しかし、樹熱病に掛かっている樹は存在しなかった。



 ないか……コックリはどうかしらと彼の方を見ると、コックリも調べ終わったようでこちらにやってくるところだった。遠くからでもわかるけれど、本当に背が高く大きな体だ。彼を見ると若木、内からはちきれんばかりのエネルギーを、幹にいっぱいに蓄えた若木を連想する。



「どうだった?」彼がいう。



 ううん、感染している樹木はなかったわ。



「ふむ、やはりないか。これでヴェネリア島の木々から感染したという可能性はほぼなくなったか」



 それでも、ほぼなのね。私は疑問に思っていたことを聞いてみた。



「ねえコックリ。昨日、二つ仮説があると言っていたけれど、どういう仮説なの?」

「ああそうだな……シスには話しておこう」



 そう言うと、コックリは木陰にあったベンチに私を誘った。



「まずは大雑把にこの樹熱病が、仮説① 自然に感染した場合、仮説② それ以外で感染した場合、という条件で分けて考えてみた」



 なるほど。



「シスも感じたと思うが、まず仮説①はありえないと考えている。が、可能性の大きい小さいは関係なく、まずはありのままに客観的に情報を集めて分析することにした」



 そうね。まず仮説①はありえない。何故ならばこの樹熱病が、『新月の夜に限定して発症』し『感染力の低い病気が、頑健な男性だけにかかる』うえ『同じ人間でも一人で寝ている場合だけかかる』という、極めて意図的、作為的な側面があるからだ。



「自然に発症したのなら、A:樹木から感染、B:人から感染のどちらかになる。まず、Aの可能性を考え樹木のある場所に樹熱病を発症した樹木がないか、調べた。例えば、唯一樹木のあるこの墓の島だ」



 この島に来たのはそう言うことか。



「結果、この島には樹熱病を発症した樹木はなかったことから、『この島から発生したものではない』ことが分かった。このあと、陸地のほうへ行き、樹木を探してみようと思う」



 分かったわ。



「そしてBの人から感染だ。人の調査はこのヴェネリアの傭兵隊がチェックしていたことを参考にした。その傭兵隊によると、感染者はいなかったということだったね。我々もある程度街の様子を観察して歩き回ったが、そういった人は見かけられなかった」



 ええ、そうだったわね。



「まだ結論を出すのはやめておくが、仮説①については頭の片隅に置いておく、程度としておこう。まあ、聖霊から啓示があった時点で、仮説①はないと思っていたがね」



 なるほど。聖霊が啓示を与えるのは、邪悪な存在が絡んだ怪異の時がほとんどだとコックリは言っていたっけ。でも念のためすべての可能性は捨てないことにしたのね。



「そして仮説② 自然感染以外の感染だ。シスも感じているだろうが、この樹熱病発症には、作為的で、意図的、故意的なものを感じているはずだ。その根拠は分かっているね?」



 分かっているわ。先ほど挙げた、新月の夜、健康な男性、一人の時だけ、ね。



「自然感染以外の代表例としては、『邪悪な存在』が感染させている、ということだ」



 ええ、エルフの里の怪異もそうだったわね。



「邪悪な存在『敵』が絡んでいると仮定すると、こちらも大きく a:方法、b:目的、が存在する」



 そうね、どんな方法で感染させているのか、どんな目的が存在するのか……



「a:方法 だが、二段階にわかれる。まずはa-1:被害者の選択方法、a-2:被害者へ感染させる方法だ」



 なるほど。被害者の選択方法もあるか。確かに皆若く健康な男性ばかりで、抵抗力の弱いお年寄りや子供、女性はいなかった。どうやってターゲットを選んでいるのか、その方法も調べなくてはならない。



「a-1:被害者の選択方法だが、昨日十五名ほど感染者に会い傾向を調べたら、皆、例外なく『頑健な男性』だったし『一人で寝ていた』場合だった。実に作為的だね」



 うん、そうだったわね。



「敵がどのようにして被害者を選んでいるのか? 例えば日中、仕事をしているところを見ていて目星をつけたとしても、都合よく一人暮らしなのか、家族がいても一人で寝ているか、調べなくてはならない」



 なるほど、そうよね。



「新月の夜、被害者たちが寝ているところを、しかも『一人で寝ているところ』を見ないといけない」



 そういえば、ジャックさんは同僚のロイさんに、部屋に泊まりに来てもらった時は病気にならなかったと言い、フィリップさんは結婚して奥様と寝室を共にするようになったら病気にならなくなったと言い、ジョセフさんは逆に家族と離れて寝るようになったら病気になったと言った。



 敵は、見ている……見て、選び、行動を起こしているのか……。



「この『見る』ということについて、忘れてはならない情報はジャック氏の話だ」



 ジャックさんの?



「彼は残業で遅くなり、職場に泊まったと言った。鎧戸で外から光が入らない、つまり『外から見えない部屋に泊まった』と言った。そしてその日は樹熱病にはならなかったという」



 ああ、そうか。そうだ。鎧戸のある部屋で寝た、と言った。一人だったのに樹熱病にならなかった……



「その事から推測できる敵の行動は二つ。一つは日中から見張っている訳ではないことだ」



 なるほど。常に見張っている訳ではなく、新月の夜に見て、選んでいるんだ。常に見張っているのなら、職場内にジャックさんしかいないことを知っているはずだ。



 ああそういえば、『酔いつぶれてベッドの下で寝ていて樹熱病にならなかった』という人もいた。その人の場合も、日中から見張っていたなら、酔いつぶれる前から見ていたなら、ベッドの下にいることに気づいたはずだ。



「もう一つは、寝ている部屋の中が見えないと手を出さない、ということだ。非常に『慎重』だ」



 本当にね。すごく慎重。



「もしかすると、新月の夜に行動しているのは、『誰かに見つからないようにする』ためなのかもしれない。新月の夜は暗い。暗いと誰かに見つかるリスクが減るからね。これはa-3:その他とでもするか」



 そうか、確かに新月の夜ならば、暗くて隠密行動には最適だ。とすると、敵は夜目もきくのかもしれない。



「リスクを把握し、リターンを的確に得ようと、良く考えられている。その事から『知能が高い』とも考えられる」



 敵は一筋縄では行かないかもしれない。知能の高さは手強さの証明だ。



「さて話しを戻そう。敵がどのようにして『頑健な男性』『一人で寝ている』ことを知っているのか考えてみるにしても、まずは目で見ないことには分からない。この目で見る方法は大きく三つある。まずは自らの目で近づいて直接見る、遠筒(望遠鏡)で遠くから見る、遠見の魔法で遠くから見る、と言ったところか」



 遠見の魔法は遠筒で見るのと同じ効果の魔法だ。



「この『見る』方法に関して、実を言えば第四の方法、『間接的に見る』という方法だと、俺は考えている」



 ええ? 間接的に見る? それはどんな方法? 私が続きを聞こうとしたら、コックリが立ち上がった。



「続きは陸地へ移動しながら話そう」



 なるほど、分かったわ。とりあえず、まとめるとこんな形かしら……



 仮説① 自然の流れで感染した可能性……低い

 A:樹木から感染…………樹木の感染事例なし

 B:人から感染……………観光客等の感染事例なし


 仮説② ①以外の理由で感染した可能性……高い

 聖霊の啓示………邪悪な存在が関わっている可能性を示唆。

 作為的行為………新月の夜、健康な男性のみ、一人で寝ている時のみ行動

 ⇒ 知能の高い、邪悪な存在を想起


 a:方法

  a-1:被害者の選択方法

   視認によるもの

   ・日中から監視しているわけではないこと

   ・部屋の中を覗けないと手を出さないこと……………慎重

  a-2:被害者へ感染させる方法

   ・これから教えてもらう

  a-3:その他

   ・新月の夜の行動は第三者に発見されないため?……慎重


 b:目的 これから教えてもらう





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