プロローグ
初投稿です。よろしくお願いします。
その世界は剣と魔法の世界。
神はその世界に三つの奇跡の力を持つ霊威の世界を創造した。
一つは善良なる霊威 天使が存在する『聖霊界』
一つは邪悪なる霊威 悪魔が存在する『魔霊界』
一つはそのどちらでもない自然物の大いなる霊威 精霊が存在する『精霊界』だ。
神はさらに一つの生命の世界『物質界』を創造し、同時にその生命が滅した時に逝く様々な魂の世界を創造した。
物質界には多くの国が興り、人々は慎ましくも穏やかに暮らしていたが、邪悪な存在がひき起こす不可解な事件、<怪異>に悩まされていた。
聖霊信仰の中心『法王庁』は、聖霊の奇跡『聖魔法』を駆使し、不可解な怪異を解決する特殊な騎士『神殿騎士』を組織し、怪異解決の任を与えた。
この物語は、一人の若き神殿騎士コークリットのお話。
綴るのは、彼とともに旅をする森の妖精エルフの娘、システィーナ。
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その怪異の発端は、今から百年ほど前にさかのぼる。
鮮血の貴婦人、と云われる女がいた。
名はバリトー・エリザベール。
貴族として生を受けた彼女は、誰もが羨む絶世の美女だった。
金色に輝く髪、蠱惑的な瞳、情熱的な唇、重量感を持つ豊かな胸、くびれた腰から美しく弧を描く尻、悩ましいほど官能的な体。
美女は社交界で羨望の的となり、常に男が美女の元にやってきた。
その性は奔放で、数々の浮名を流しては幾年も性を謳歌していた。
しかし時は残酷だ。
美女の肌からハリが失われ始めるにつれ、羨望の的は美女よりもうら若い子女へと移っていく。
美女は若さを羨んだ。
美女は若さを取り戻すため、他者から奪うことを目論んだ。うら若き純潔の乙女から、その穢れのない生命の象徴ともいうべき熱い血潮を…………。
領外から若い少女を侍女として雇うと、拷問し、その若い体に流れる血潮をすべて抜き取り、生温かい鮮血の湯に浸かった。
美女は、若さを取り戻す感覚を得た。肌にハリが戻る感覚を得た。
美女は次々に若い乙女たちを手にかけた。
美女は身寄りのない、生活に困っている娘を優先して侍女に選んだ。娘たちがいなくなっても誰にも怪しまれないように、そして困っている娘を救う優しい領主と思われるように……。
美女の考えは当たった。噂を聞いた身寄りのない娘たちが、呼ばれもせずに向こうからやってきたのだ…………美女は笑った。
何年続いたであろうか。
奇妙な噂が流れた。バリトーの侍女が、次々に神隠しにあっている、と。
そしてもう一つの噂も……。
侍女が雇われてからひと月と経たず、必ず夜に運び出される不可解な荷の噂も……。
人々は噂した。
少女たちが殺され、その死体を運び出しているのではないか、と……。
王の元へ、バリトーへ侍女として雇われた少女たちが消えた、との噂がもたらされた。百名を超える少女たちが、行方不明になったという噂が……。
王は真偽を確かめる為 バリトーの城へと兵を遣わす。
城へ到着した兵たちが最初に感じた異変は、臭い。香や花の香りでごまかしても確実に感じる、不快な悪臭。
悪臭の元をたどるように城を探り、不快な悪臭の元へと進みゆく兵たち。
臭いの元は、城の暗部へ、地下へとつながっていく。吐き気を抑えながら進みゆく兵たち。
そして彼らは ついに悪臭の元へとたどり着いた。
彼らは恐ろしいものを見た。
赤黒い何かがこびりついた拷問器具の数々……壁や床、天井にまでこびりついた何か……。
そしてその拷問器具から伸びる溝の先にある、槽。
澱みきり、悪臭を放つ、何か……。
美女は捕らえられた。
犠牲になった少女たちの遺骨は分かるだけで百体超あった。
貴族は死刑に処されない。だが美女にとって死刑よりも重い罰が与えられた。
洞窟を思わせる地下牢への幽閉。
地下水が染み出るむき出しの岩の壁と土の床。
陽の光ははるか数十メートルの高さにあるコブシ大の穴。
いるだけで汚れ行く服と体。
美女は土の床に生える、萎れ枯れ行く小さな花に、自分の姿を見た。
いやだ、いやだ、いやだ……
老いたくない、老いたくない、老いたくない……
若さがほしい、若さがほしい、若さがほしい……。
舌を噛み切る直前、自然の摂理をも超えた邪悪な奇跡を現実化させ、こと切れた。
それから百年…………。