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7話「黒ぬこに導かれてinAKIBA」

「…………」

 自分の携帯を見る。スマホ、じゃなかった。ガラケーだ。グーグルマップとかは使えない。だけどこれで調べながら行く――

 待てよ?

「そういえば駅の入り口に……」

 思い立って、道を逆に戻る。駅の改札の横に、窓口があり、そこの上には秋葉原案内所の文字。

 ぼくは縋りつく想いで、

「あの、すいません」

「はい、なんでしょう?」

 中にいる結構美人な制服の女性に逆に訊かれ、そこでぼくは思い至った――というより、困惑した。

 うわ、なんて訊けばいいんだ?

 メイド喫茶に行きたいことは、間違いなかった。だけど住所がわからない。あるまさんがいる所と喉まで出かかったけど――

 って、名前。

「あ。……あの、Hexenhausっていうメイド喫茶に、行きたいんですけど?」

「へきせんはおす、ですか?」

 露骨に怪訝な表情をされてしまった。あまり有名ではないのだろうか? 少しハラハラしながらパソコンで検索するのを見守っていると、

「……ホームページは、ないですね。住所とかご存知ないですか?」

「ちょっと、わからないですね……」

「……んー」

 案内のひとは難しげに眉を寄せて、パソコン画面とにらめっこしてから、いくつかの地図やらチラシやら資料やらを出していたが――

「……すいませんが、なにもひっからないですね。ちょっと情報が無いというか」

「あ、そうですか。わかりました、ありがとうございます」

 お礼を言って、案内所を離れた。

 さて、困った。あとに残るは、人海戦術のみ。それも、たったひとりによる。

 ――みつかるかな?

 という危惧は、間違いなかったようだった。

「う、ぇえ……あじぃ」

 今日も今日とて、世界は火のような暑さに包まれていた宮崎アニメ的表現自粛。ぼくはソフマップ本店前のガードレールに腰掛けて、自販機で買ったコーラを飲んでいた。

 秋葉原に着いてから、3時間と10分少し。歩きに歩き回ったけれど、結局店を探し出すことを出来はしなかった。というよりもメイド喫茶そのもの自体、7軒くらいしか見かけなかった。実際アキバブログとか見てるとメイド喫茶はなん十軒もありそうだったのだが、それは実際のところどこに隠れていたりするのだろうか?

 なんかもう足が棒で、若干めんどくさくなりつつあった。住所くらい、訊けばよかった、こんなんなら。でもあの時点でもう一度行くかどうかは決めてなかったし。考えてしまう、色々と。

 ああ、ゆったりとした椅子に座りたい。そしてあの紅茶が飲みたいスコーンが食べたい。

 あるまさんに、癒されたいなあ。

「…………ハァ」

 ため息。ぼくは飲みかけの350ミリのコーラを飲み干し、ガードレールから飛び降りて、空き缶入れに放った。外した。慌てて拾い、直接中へ。まったく柄にも無いマネなんてするもんじゃないと反省。

 そして再び、アキバ探索の続行だった。とにかく自分の記憶しか頼るものが無いのだから、自分の記憶を探る。確かあの日、どこかで猫を見た気がする。それまで自分は――確かとらのあなをはしごしてソフマップとかトレーダーとか巡り、そのあとゲーマーズとかアニメイトとかに行こうとして……そうそう、相当な路地裏でビルに挟まれるような形の屋敷だったと思い出す。となると大通りを行っても見つからないから、奥に奥にと入って行った方がいいんじゃないだろうか? そういや猫が死んでたのってどこだったっけ? 確かこういう直射日光が当たる――

 なーお。

 耳を疑った。

「……おぉ、ぬこ」

 といってしまった辺り自分の手遅れさ加減がわかるというものだった。

 猫がいた、黒いのが。だからこの前会ったやつかと思った。アキバで猫に会うこと自体、猫喫茶にでも行かないとなかなか難しいことだったりするから。

 道を挟んで向こうとこっち、猫はその鋭い視線でこちらをじっ、と見つめていた。もしくは睨んでいるのだろうか?

 くるり、と背を向けるぬこ。そしてスタスタと路地裏を進んでいく。路地裏。その言葉にぼくは想いを巡らせていると、ぬこは首だけでこちらを振り返った。そして5秒ほどして、再び前進を始めた。まさかと思ったが、いやもはやこれは――

「……なんというメルヘン」

 なーお。

 そして、着いてしまった。

「うわ……道順、まったく覚えてねえ」

 よくよく考えるとぬこに会った場所の時点でどこだったのかよくわかっていなかったから仕方ないといえば仕方なかった。いい、あるまさんに帰り方を聞けば逆にすれば行き方になるから。そう思って、ぬこにお礼でも言おうと振り返ったが、

「おぉ?」

 ぬこはそのままスタスタと、屋敷へ。飼い猫ならぬ飼いぬこなのだろうか? と思っていると――

「はいはい、おかえりなさいませ黒ぬこさま~」

 ビックリした。

 扉が開いて、メイド服の女の子が姿を現した。

「って、あらあらおかえりなさいませくろにゃんさま」

 深々と、5メートルは離れた距離で頭を下げられる。

 まごう事なき、あるまさんだった。

 ていうか名前、覚えてるし!

「あ、ぅ……た、たっだい、ま」

 瞬間頭真っ白になって、なんかとんでもない返しをしてしまう。それにあるまさんはゆっくり顔をあげて、にっこり笑ってくれる。

 もう可愛すぎて、昇天してしまいそうだった。この笑顔を見れただけでもここまで歩きまわって時間と労力を使ったかいがあったものだった。

「本日は、おかえりでしょうか?」

「は、はい。お、おかえりにやってきました」

「まぁ、それは嬉しいですね。では、こちらへ……それともよろしければ、恐れながら手をお引き致しましょうか?」

「いッ!? いやいやあのだだだだいじょうぶですっ」

 もちろん引いて欲しくないというわけではこれっぽっちもないというかむしろあまりに至上のお言葉過ぎてこちらの方が恐れ多くなってしまったというのが本音だったりする今日この頃ヤヴァいあまりの対人スキルの低さに彼我との戦力差は想像を絶するものがありますぞ……!?

「そうですか、それは大変失礼たしました」

 ぺこり、とまたも丁寧に頭を下げられる。それに怯える某ご主人さまつまりはぼく。どっちがどっちだか本当にわかったもんじゃなかった。

 だいたい2秒くらい頭を下げたあとあるまさんは顔をあげて扉を片手で開いて、

「ではご主人さま、どうぞ」

 にっこり、反対側の手で促される。

 けっして。

 けっして急かしているわけではないのだろうがこれだけ完璧ともいえる女の子にこんな真似をさせているという使命感に似た勘違いのなにかが芽生えて必死こいてダッシュしてた。よくよく考えると車とかバイクとか来てたらアウトな感じだったけどかなりな路地裏のせいでその辺は回避できたようだった。

 あるまさんはそんなぼくを、くすりと可愛らしく笑って見守っていた。

「そんなに慌てますと、転んで怪我をしてしまいますよ?」

「ぜっ、ぜっ……は、いっ……気を、つけます」

「くすくす、大丈夫ですかご主人さま?」

「は、い……だいじょうぶ、です」

「では、どうぞ」


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