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最終話

 ぼくは扉を開けて、振り返った。本当に、本当に楽しい時間だった。思い残すことは何もなかった。先に帰ったひーぼんさんにも丁寧にお礼を言っておいた。紳士な彼は、それに答えることなくただ杖を少し振っただけで応えていたが。レインちゃんにも感謝を、愛華ちゃんにはニヤけ顔を落書きと合わせて散々からかわれ既に二人とも後片付けに裏に回り、あるまさんが一人お見送りに立ってくれていた。

「いえ、そんな……」

 だけどなぜか。

 あるまさんは、少しなにか言いたそうな感じがした。

「あの……あるまさん?」

「はい、なんでしょう?」

「あの……なにか、その、あの……?」

 なんだか、言ってるうちにぼくのほうが言いたいことがある人になってしまっていた。正直この話しスペックの低さは改善したいものの一つだったりした意外と早急に、じゃないとあるまさんと釣り合いが取れるご主人様にいえすいません。

「――くろにゃんさま、」

 察してくれたのか、あるまさんは改めてぼくと向き合う形になった。それにぼくも身体を横に向けた状態から、正面に向き直る。期せずして、ドキドキした。あるまさんからこんな風に改まって話だなんて、ほんの一ミリをすら内容に心当たりなどなかったから。

 告白じゃないのはわかってる。

 ――まさかなにか怒られるわけじゃ、ないよな? やってしまった感が、ないとはまったく言えなかったが、だが流れて二機にそれはないとはきっと思うのだが――

「わたしは、」

「は、はいっ」

 考えていたら不安になって、自然と背筋が伸びていた本当にヘタレここに極まれりで最後までしまらなくて本当にすいません。

 そしてなぜか僅かな躊躇いのあと、あるまさんの唇が艶やかに動くエロ描写自嘲以下略。

「……御主人様のような御主人様がたくさん御主人様になられれば、それはきっと楽しい世の中になると思うんです」

 一瞬、真顔では? とかって言いかけた、危なかった、それくらい謎かけかよっていう内容だった、あるまさん何回御主人様って使ってるんですか?

 ――というかよくよく考えれば、これって褒めてるのか?

「あ……ありがとう、ございます……?」

「……御主人様、」

 くろにゃんさまから呼び名が変わったのは、きっとなにか意味があるのだろうかモチロン察することはまったくもって不可だが。

「は、はい……」

「御主人、様に……」

 ――言葉に、詰まった?

「あ、あるまさ……」

 震えてた。

「ぇっ、ぅ……」

 というか、泣いてた!?

「ひぅぇ!? なっ、あ、あるま、さ……どどどどどうしたた、たんですか?」

「いえっ、あの……」

 眼を拭うあるまさんを見て、ぼくは慌てるとか慰めようかとよりもわー泣き顔もかーわいーとか思ったぼくは腐ってますハイ。

「なんだか、ホッとしてしまいまして……」

「そ、そうですか」

「それでついつい普段は隠している趣味や巡回の話などしてしまい、わたしのキャラが崩壊していないか心配だったりしていまして……」

「そ、そうですか?」

 なんだか、その言葉こそがあるまさんのキャラ崩壊に繋がっている気がするんだが、それを言うわけにいかないこの袋小路こそが世の中の地獄かとか思ったり思わなかったりどっちだよ。

「すいません、お見苦しいところを……」

「いっ、いやそんな……!」

 頭を下げられても、そんなぼくの方こそという気分だったから慌てて両手を交錯させて否定する、なんかあるまさん今日ちょっと変だけど、つまりは心を開いてくれてるってことなんだろうか?

 そして次に顔を上げた時には、あるまさんはいつものあるまさんでした本当にありがとうございました。鉄壁の笑顔と完璧な物腰は見事でしたが、逆言えばまだまだ距離を感じました世の中ってうまくいかないねっ!

「では、くろにゃんさま」

「あ、はい」

 ふと思ったが、くろにゃんさまってお茶らけてる時のほうがむしろ距離あって、さっきみたく御主人様って言われてる時の方が近かったりするんじゃないかとか。いや根拠は無いけど。

「以上です。また次もキテ、くれるかなー?」

 前フリなしに、いきなりスゴイ振りキタコレ。

 ぼくは確実に2秒くらいは凍結フリーズしてから、

「い……いい、ともぉ……」

「え、聞こえませんよー?」

 あるまさん、大好きです。

「い、いいとも――――――――ッ!!」

「はい、最高です御主人様っ!!」

 キャッキャッはしゃぐあるまさんを見て、ぼくの今日のピークがここでキテしまった。やはりぼくは最後まで、シリアスは出来ないようだった。

 だけどぼくとしては、もう最高の終わり方だった。最後まであるまさんは――Hexenhausは、最高だった。

「ではくろにゃんさま、どうぞお気をつけていってらっしゃいませ」

「はいっ、行ってきます!」

 人生の大海原に漕ぎ出す勇気を、ちょっとだけ貰った気がした。


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