62話
みんな特にあるまさん、そんなつぶらな瞳で見ないでくれ。
だいたいあるまさん、あなたはその答えさっき聞いてるじゃないですか?
――じゃあ?
いまの質問は、別の意味が込められてるという事なのか?
「……ずっと、息苦しかったんです」
ふと、そうちょうどさっきのあるまさんみたいな感じに自然と、ぼくは呟いていた。
なんか、胸のうちを打ち明けたくなったから。
そうさせる空気が、この空間にはあったから。
「オレ、アキバが好きで……ずっと東京に来て居場所がなくて、そんなオレでも受け入れてくれる二次元の世界が生きがいで……その聖地である秋葉原が楽しくて、入り浸ってて、そのおかげで日々をなんとかやってこれて、人の間で生きるという戦いをくぐり抜けてこられて……だけどそれでも、ひとと、繋がり、たくて」
「当たり前ですよ」
気づけば。
あるまさんは、ぼくの手を取っていた。
――って、え?
「あ、あるま、さん……?」
あるまさんは伏し目で、どこまでも静かで、穏やかな顔をしていた。
ぼくは――
「ぼくは……」
「いいんです、とわたしは思うんです、いいじゃないですか? 誰だって、人と繋がりたいですよ。だからネットが広がって、2ちゃんが流行って、LINEなんですよ。傷つくのだって恐いから、こんな風にひととひとが直接顔を会わせなくても済むような世の中になって……
でも、想ったっていいじゃないですか?
傷つかずに、誰かと繋がりたいって。
それでゆとりだとか言う権利が、誰にあるっていうんですか?」
ぼくは。
ぼくは、ただ、心揺らされた。
「……あるまさん」
「はい、なんですか?」
「好きです」
「ありがとうございます」
『…………ッ!』
ものすごいザワつく気配が辺りに流れたが、ヘタレなぼくはしかし珍しく動揺せず先の言葉を続けることが出来た。
「ぼく、Hexenhausが好きです」
え? とかって愛華ちゃんが言ってた気がする、ひーぼんさんはなんか頷いてた気がする、レインちゃんはやっぱり頭上に?マークで、きっとイイ子だろうからこれから仲良くなれればいいなとかなんともいえない事をぼくは考えていた。
「はい、ありがとうございます」
「ぼく……」
「はいっ」
あるまさんは、ぼくが出会ってから一番いい顔で、笑っていた。
ぼくはそれに導かれるように、ただありのままの真っ直ぐな言葉をぶつけていた。
「――すごく、いま生まれてから初めて、生まれてきてよかったなって、思えてるんです。本当に、生まれてきてよかったんだな、って……ぼく、みんな大好きです。みなさんが、大好きです」
そんなおぞ気モノの臭いセリフにも、あるまさんの鉄壁の笑顔が崩されることは無かった。
笑わないで、微笑ってくれるという事がこれほど心安らぐのだという事を、初めて知った気持ちだった。
「はい。わたしも、黒瀬さんにお会いできて、ほんとうにほんとうに、嬉しく思います。……うれしく、思っていますよ?」
「はい……」
なにか、言おうとした。
言おうとしたのだけど、だけどしかしなぜか、それは言葉にはならなかった。
想いがいっぱいだと、なにも喋れなくなるのだと、初めて知った。
それを包んでくれる女性に会えたぼくは、やっぱり幸せだったのだと、思ったりもした。
そしてぼくは、あるまさん――含めたその場にいた全員と、チェキを撮った。きっとぼくが今まで撮ってきたどんな写真よりも、大切な一枚、いつか朝成も連れてこれたらとか気持ち思ったりした。
愛だな、なんて。
「じゃあ、今日は本当にありがとうございました」