59話
あるまさんは一回目を閉じて仕切り直すようにしてから、
「それで……実はその時お会いしたのが、くろにゃんさまのお父様だったのです」
「……うそでしょ?」
「ではそろそろ、本題に入ってもよろしかったでしょうか?」
とことんお茶目なあるまさんだった、正直ここまでとは思わなかったのでさすがに疑心暗鬼的になりつつあるどうもぼくです、確かお笑いで3回同じネタを使う事を専門用語でテンドンって言ったなーとか、
「その時お会いしたのが、くろにゃんさまのお兄様だったんですね」
今度は、少し信ぴょう性のあるそうな話だった。
だから今度は、訊いてみた。
「……それは、本当ですか?」
「本当ですよ?」
「……失礼ですが、名前は?」
「黒瀬祐樹さん、とおっしゃっていましたね」
マジだ、とぼくは思わず心の中で呟いていた。それが真実だったから一週間前メッキーズの面々とお会いした時に手下その一の名前が被っていてビックリしたものだったが。
ぼくは動揺を顔に出さないように気をつけて、問い直した。
「あ……あのあのあのそのあ、兄貴に会ったってそのほん、本当にその……っ」
「落ち着いてください、御主人様」
ハンカチを手渡された、それでとりあえずデフォとしてかいてもいない冷や汗を拭ってみたりした、ソファーではバッチリ愛華ちゃんが爆笑していた。
それでも形から入るというか若干は落ち着けて、
「あ、は、はい、落ち着きました……そそそれで、兄貴が?」
「はい、お兄様と……」
一瞬マジで聞きたくないとか思ったが、時間は容赦なく皆に平等に過ぎていくとか厨ニ病乙。
「楽しく、お話させていただきました」
「そうですか、どんなお話を?」
なんかもう慣れました、どうぞ先に進めてください。
あるまさんは――気持ち少しだけ遠い目をして、
「はい、あの日わたしは……巡回に疲れておりました」
『巡回?』
一人や二人じゃない、その場にいるほとんど具体的に言えばぼくに愛華ちゃんにひーぼんさんってその場にいる全員じゃねぇかよまぁなかなかにビックリな発言だよなっていうか愛華ちゃんとか知らないのかひーぼんさんだって常連さんっぽいけど?
「……その折、」
周りのリアクションに一瞬逡巡に近い様子を見せたあるまさんだったが、結局しれっと流して話を続ける辺りさすがだったもちろん誰も遮れません。
「わたしは、一人の男性に出会ったのです……いやあの場合、出会ったというよりもわたしの方だけが一方的にお見受けした、というべきでしょうか? とにもかくにも疲れ、ぐったりしていたわたしがガードレールに腰を降ろしておりましたらその時その方は中央通りの、真ん中にいらしたのです。
わたしは今でも、なぜあの時あの方に目がいったのかわからないのです。それでもわたしは、その方に眼を引きつけられていたのです。
わたしは、驚きました。
その方は、道に蹲っていたのです」
「…………」
若干、リアクションに困るところだった。そこでどう反応しろと?
だからぼくは待った、まぁ普通に。
あるまさんはいつの間にか目を閉じ、遠いその日に想いを馳せているようだった……なんか設定っぽいというかイエナンデモアリマセン。
「……最初わたしは、正直お腹でも痛いのかと訝しんでおりました。でしたら常備している胃薬をお渡ししようかと考え、迷っていたのです。しかしその方は、突然すっくと立ち上がり、わたしはさらに訝しみました。なにか? と。そしてその手に……」
「ネコですか?」
ふと。
意図も何もせず、ぼくは口を挟んでいたなんとなくそうかと。
『…………』
そして当然のように訪れる沈黙、話進みませんや本当にありがとうございます。
7秒くらい経って、あるまさんが口火を切ったなんかカッコいい。
「……さすがくろにゃんさまですね、兄弟の絆といいますか」