57話
愛華ちゃん、レインちゃん、ひーぼんさんが続いた言葉には目もくれず、ぼくはもう気分ままよだった、アハハ。
「愛ですよ、あるまさん……ぼくは愛のままに、この一週間ネットに齧りついていたのですよ……それはただ、たったひとつの希望に縋りつくため……それは、そう――」
「Hexenhausっ!」
「そうっス、ナイスタイミング愛華ちゃんっ!」
パンっ、とハイタッチしたもう理屈や流れだとか関係ねーや、思うがままに生きてやるぜちくしょー!
「あるまさんっ!」
「なんですか? くろにゃんさま?」
「くぁあア――――っ、なんかそういうくりっ、とした顔かわえぇなア――――っ!!」「ね――――ぇっ? 最高よね? 最高よねご主人さま?」「おおう、弾けとるのう若人よ、ええぞう!」「……マスター、恐いデス」
もうなんかお祭り騒ぎだった、すげー楽しかった、なんかこのまま心のままに――
「それで、なんですか御主人様?」
御主人様っていわれて、ハイもう動揺して鎮火されてしまいましたよええ。
「…………」
若干後ずさりして、距離を30センチくらいとってから息を吸って吐いて冷静さを取り戻し――というより戻そうと儚い努力をしてみてから、
「……あ、あるまさん」
「なんですか?」
「あ、ああ……あるまさん?」
「はい、なんですか?」
「あ、あああああるあるあるあるまままささささ……!」
「はいはいはいはい、なんなんなんでしょう御主じ――」
「やめいっ!」
スパンっ、と愛華ちゃんがショートカットしてきた。なんか、なんだかな関係になってきたなぼくたちもと思う今日この頃愛華ちゃんには迷惑かけて正直ゴメンナサイ。
ぼくはゴホン、と咳払いしてから、
「……あるまさん、」
「はい、なんですか?」
「……実はそうまでしてHexenhausに来たかったのには、理由があるんですよ」
「そうなんですか、どんな理由なんでしょう?」
なんだか色々途中経過こそあったが、ようやくというか本題に入ることになってしまったしまったってなんだよと自分でツッコミは入れておくことにする。
今度こそかなり本気で深呼吸して――あまり効果は無かったが、
「あの……このたびは、本当にご迷惑おかけして、申し訳ありませんでした」
頭を下げた、直立不動で、直角九十度に、ちょうど軍隊形式みたいな感じで。
床をじっ、と見つめながら、ぼくは待った。
なにかしらの、反応を。
『…………』
いや誰かなんか言ってよ。
ぼくは待った、とりあえず、ひたすら、待つのなら慣れてる、こういう時のコツはただひたすら待つことだ、耐えるといってもいいかもしれない、何も考えずただ待つ、あとどれくらいだとか、そのあとにはなにがとか、そういう誘惑は心を弱らせるだけだ、ただただ待つ、無心で待つ、待つために待つ、待つことを待つ、待って待って待って、待ちに待つことが待つことの極みに達する唯一の道だと信じて待ちに待って待ち待ち――
待てねぇ。
「…………」
おそるおそる、顔をあげた。たぶん体感時間で一分近くは経っていたように思う、だけど実際はもっと短いと思うが、でも10秒20秒ではないと思うからさすがに確認も許されるくらいには待ったかと、たぶん。
目が合った、あるまさんと。
笑っていた。
向こうに愛華ちゃんが見えた、吹き出していたなぜに? レインちゃんが奥に見えた、?マークが浮かんでいたこっちも?だ、ひーぼんさんは紅茶片手に文庫本読んでいた部外者かい。
ぼくはどうしたものか、三秒ぐらい考えていた。
そして結局、近くのあるまさんに聞くことにした。