53話
そんなずっと無愛想だったのにいきなり全開の笑顔に手放しで喜んでくれたのならまぁ少しはやったかいもあるってもんなのかもしれなかったしかしもうホント可愛いなぁうん。
「あぁ、はい、うん、どうも、ありがとふ……」
「はいっ、ボクもマスターみたいな素敵なマスターに仕えることが出来て、光栄ですっ」
かなりヒットポイントを削られてぐったりしてるが、しっかし本当喜んでくれるなと好感触、なるほどこれがクーデレってやつの破壊力かぁ。
「あー、うん、いや、ハハ……」
ヤヴァい、ヤヴァいくらいデレデレしてしまっている……キモいと思われる!
という危機感に咄嗟に目の前の食いものに、
「じゃ、じゃあ食べていいですよね? 食べていいですよね、これ? うわーギガンテスのこんぼうかー、すっごい美味しそうだなー、どんな味なのかなー……?」
「七面鳥のモモ肉をスモークし、熟成させたものです。かなり大きく食べ応えも抜群ですが、武器にはしないでくださいね?」
ドックン、と心臓が高鳴った。キタならぬ出たって感じだった、失礼すっかりおかしくなってますというよりテンパってます余裕ないですというより会うっていうか見るのが恐いですはいチキンですぼくはどうせ。
「……くろにゃんさま?」
と思ってたら覗き込んでキテた、もちろんあるまさんです本当にありがとうございました。
「は……ハァイあるまさん、ハウアーユー?」
「I'm fine thank you」
さすがはあるまさんだった、見事な英語の発音だったけどそれはいい、それはいいが、さてここからどうするかが問題だった。
「ある」
「くろにゃんさま、お久しぶりでございます」
丁寧なお辞儀、それこそ久しぶりだったそしてやっぱりきっかり四秒動かず、それに恐縮してこちらまでかしこまってしまってなんともどうしたものかという気分になってしまう。
あるまさんが顔をあげるのを待って、
「……お、お久しぶりです」
「健やかに過ごされていらっしゃられたでしょうか?」
「そ、そうでも……」
「そうでも? なかったのでしょうか?」
「…………」
悩む、実際そうでもなく引きこもり街道まっしぐらだったのだが、しかしそれを言ったところで心配させてしまうだけだし構ってちゃん全開だしカッコ悪いのは間違いなしなわけだし――
「……まぁ、アレですかね。普通ですね」
「ふつう、ですか?」
「そうですね」
「そうなのですか?」
さらに問われたが、ここはスルースキル発揮が一番無難だと思われた一応空気読んだつもりで。別にカッコつけたわけじゃなく……しかしそれは本当に本音か? と問われれば否定しづらいのも確かだが。
あるまさんは少しの間こちらの瞳を覗き込むように見上げたあと、
「それでは、くろにゃんさまはこれまでをどのように"普通"に過ごされていたのかを、具体的にお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」
なんでここまで? という疑念が湧いた。こうまでしつこいということは、あるまさんが実はぼくが引きこもっていた事実を悟ってての、イジメめいたものだったりするのか? とか穿ちかけたが、しかしあるまさん側のメリットが一つもわからなかったし、というよりそういうキャラではないと信じたいのが本音だったりするし――
「……あ、あの?」
「はい、なんでしょうくろにゃんさま」
「その……」
なんて言おう?
ウダウダウダウダ悩むし、すぐにあるまさんみたいな素敵な女性まで疑い出すし、そのうえ目の前にしたらヘタレ全開で、心の底から自分が嫌いになりそうだった。
もちろん言い淀むその理由の根底には、さっきの告りまがいのことをやらかしてしまった後ろめたさみたいなものもあったりしてででもう大変で正直目線合わせるのもいっぱいいっぱいだというのが本音だったりはするのだけれど。
「……くろにゃんさま」