表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/62

52話

 とか色々考えてたんだけど、未だレインちゃんはクロッシュを開けてくれてはいなかったという。

「…………レインちゃん?」

「なんでしょう?」

「あの……これ、食べていいのかな?」

「どうぞ、マイマスター」

 ――開けろって、ことか?

「じゃ、じゃあ、いっただきまーす……わーい、なにかなー?」

「――――」

 ちょっとハシャギ気味に言ってみたが、レインちゃんからは、そして目の前のひーぼんさんからもリアクションはなかったっていうかひーぼんさん既に文庫本読み始めてるしね! まさに屋敷の主人のような様相を呈していますしね!

 というわけで、仕方なく自分で開けた。

 原始人の骨付きみたいな肉が丸々、現れた。

「……うWAO?」

「それとコレ、エリクサーです」

 言葉と共に、今度はワイングラスの中で琥珀色に輝く液体がテーブルのうえに置かれる。少し炭酸のようなものが見て取れるが、まさかシャンパンとかじゃないよな? とか思ったり。

「あ、どうも」

「では、」

 ――では?

「え……はい?」

 なんか始まるみたいなので、エリクサーを飲みながら待つことにする、うん、これはグレープじゃなくてレモンサワー風味の炭酸飲料みたいなもんで、たぶんハチミツが入ってるのかな? なんか、紅茶飲むようになって味の違いがわかるように――

「僭越ながら、これより美味しくなる呪文を唱えさせてもらいます」

「っ!?」

 危な、かった。マジ、間一髪で口に含んだエリクサーを吐きだすところだった、せっかくの希少アイテムを無駄にしてたまるかなに言ってるオレ。

「く、っ……へ? え? じゅ、呪文ですか?」

「ハイ、呪文デス」

「……美味しくなる?」

「デス」

 エリクサー飲みながらデスとか言われると、それこそ死の呪文のような気がしてくるから恐かったいやそんなことはいい。

「え、えと……どんな呪文、なんですか?」

「ではマスター、御唱和ください」

 御唱和かよ、雰囲気ぶち壊しだなとは言わないでおいた、きっとこれがレインちゃんのペースなんだろうと生温かい目で見守ることにする。

 レインちゃんはその碧い瞳を閉じて、そして両手を胸の真ん中で合わせ、ひし形のようなものを作り――って大仰、っていうかどっちかっていうと厨ニ病臭いなおい!

「……全知全能たる、黄昏の神々よ」

 うわ、ていうか全開で厨ニ病だった!

「――――」

 そして黙る、同じ姿勢のまま、ぼくも待って見ているが――ちらっ、と片目でこちらを見るレインちゃん。そこには明らかな期待したような光があった、ていうかひし形をかたどってる右手の人差し指がくい、くい、とこちらを誘っていた。

 正直、ノリたくなかった。

 でも、どうやったってノらないわけにもいかない状況だということは、それこそ火を見るより明らかだった。

 9秒抵抗してみたけど結局、

「……ぜ、ぜんちぜんのうたる、たそがれのかみがみよ」

「血の如き紅きその力よ、時空の中で忘れ去られし凶悪なるそなたの名において、ボクは今ここに暗闇に願わん、ボクたちの前に立ち塞がりし全ての食物と飲み物に、ボクとそなたとマスターが力を合わせ――」

 うわ、どこかで聞いたような長々しい詠唱キタコレ!

 そしてレインちゃんはガニ股開きに片手を突き出した決めポーズのあと、

「召喚されしこのギガンテスのこんぼうに、マスターの為、さらなる美味を付与されよ!」

 チラッと片目でこちらにサインを送るレインちゃん……これを、ヤレと?

「しょ、しょうかん、され……」

「…………」

 だから上目づかいに期待した眼をするのは、反則です。

 ぼくは一旦眼を閉じて、もうバカになると心に決め、自分がいま中学二年生だと言い聞かせて――カッ、と眼を見開き歌舞伎調に両手を広げ、

「――召喚されしギガンテスのこんぼうにィ! 我の為っ! さらなる美味を、付与ッ、されよォオオ!!」

「素敵です、マイマスター!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ