50話
名前にⅡとかネオとかついてるのを期待したが、どうやらそのままだったらしいまぁそもそものコンセプトである癒しとか何とかを考えたらそりゃそうだよなとひとり納得。
「じゃあ、注文とか……」
「はい、承りますマイマスター」
「じゃ、じゃあ……」
横目で愛華ちゃんの表情を、確認。暗くて若干わかりづらいかと思ったが、案外愛華ちゃんの楽しんでいる笑顔が浮かびあがっていた。うーむとなると、レインちゃんは基本こういうキャラと解釈していいのだろうか?
ぼくはとりあえず半笑いのままカウンターを離れ、そして二歩でいけるテーブル席まで移動した。椅子に座って、
「あの……じゃあ、いいですか?」
「はい、メニューです」
持ってないですよね? とツッコもうと思ったが、しかしレインちゃんはコートの内に隠されたその右手を前に突き出し、そこにメニューを持っていたそういうギミック?
「あ、ど、ども」
恐縮しながら――もちろん指先が触れないように気をつけながらメニューを受け取り、そしてなんか見られてるかどうかよくわからない視線を感じながら愛華ちゃんはやっぱ笑ってんだろうなーとか思いつつ、薄暗い蝋燭の火を頼りに、メニューを開いた。
「WAO」
思わず、英語で反応してしまった。
単純に並んでいるメニューを述べると、エリクサー、ポーション、エルフののみぐすり、世界樹のしずくエトセトラえとせとら……
要はこのうえない、RPG臭だった。
「……あ、あの?」
「お決まりですか、マイマスター?」
実はマスターの当て字は御主人様ではなく勇者さまかも知れなかった、うん、どうしようか?
とりあえずは喫茶だし、まずは飲み物――と呼べるかは微妙だったが、
「じゃあ、エリクサーをひとつ」
これだったら某エニックスで一時期販売されていたからまぁそうハズレも無いだろうと、確かグレープフルーツっぽい味とか2ちゃんで揶揄されてたような?
「はい、エリクサーをひとつ……」
しかし。
待てど暮らせど、なぜかレインちゃんはその場から動かなかった。そのまま会話も無く三秒くらい経ってぼくは、
「……レインちゃん?」
「それと、なんでしょうマイマスター?」
なかなかにレインちゃんは欲しがりな性格のようだったいやこの言い回しはマズイか自重自嘲――となるとなにか食べ物か。
「じゃあ……この、ギガンテスのこんぼうを」
ゴールデンスライムのデミオムライスのような安牌なネーミングの食べ物もあったか、それじゃあ面白くないという変な冒険心発動乙。
「はい、かしこまりましたマイマスター」
ペコリと頭を下げ、レインちゃんはなぜか後ろ向きに下がっていったどこまでもネタ要員というかネタ好きな性格というかキャラのようだった、こちらもそういう対応を心がけようと思う。
そして、手持ち無沙汰になった。いやまぁ久しぶりのHexenhaus満喫するとか、というか全然雰囲気違うから散策するとか、まぁ確かに色々やることはあるんだけど、しかしその時のぼくはそういう気にはなれなかった。
ゆらゆらと揺れるろうそくの炎を、見ていた。ろうそくの影が、向こうに伸びていた。
「…………」
そんな事とは関係なしにドクドクドク、と心臓が高鳴っていた。なんちゃなかった、久しぶりのHexenhausですよ? 夢にまで見たHexenhausですよ? ゆったり楽しんでる余裕なんてないですよ? しかもレアキャラのレインちゃんと初遭遇、っていうか非番の愛華ちゃんまで私用で来ているというのだからどうかしない方がどうかしていたマズイ日本語までマズくなっていたどうしよう。
そんなことはどうでもいい。
そんなことより問題は、さっきあるまさん相手にやっちまったという事実だった。
「…………」