44話
じゃあなにがぼくにとっての救いだ? と。田舎から出てきて、友達もまともに作れず、初めてのアルバイトで世間の厳しさというものに晒され、サークルでコミュ障を自覚させられ、負け犬ように引きこもり休日だけアキバに出没するという日々を送っていたぼくが――
「…………」
考えていて、ぼくは思いがけず大きなダメージを負うハメになった。な、なんという救いが無く情けないぼくの大学生活……我ながら、憐れの一字だった。
救いがない。
そう、ぼくの大学生活というものそのものが、そもそも救いが無いという言葉の代名詞な気がしてきた。だとするなら、救いの無いこの街に来るのは、むしろ必然、というかぼくの大学生活の為にある街と言えなくもなかったなんのこっちゃ。
というかまぁ。
要は傷舐め合ってるのに、近いか?
「…………ハハ」
開き直ったら、なんかまさに自嘲気味な笑みがこぼれた。そうだとするなら、それでいいじゃないかと。この厳しく、経済は不況で政治も不信なこの世の中いやそれは今関係ないか、誰も彼も自分のことでいっぱいいっぱいで利益で成果主義でああどうも脱線するな、他を想いやろうという言葉が欠けていて他人に対する興味が薄いゆとり世代と呼ばれてぼくも久しい、そんな世の中で――
誰も彼もたぶんきっと。
寂しいんじゃないかと、ぼくは思う。
そして余裕ある人や偉い人は上を見て下なんて搾取する対象くらいにしか思ってないから、持たざる者は者同士で慰め合っても――って、メイドさんからしたら失礼な話か、それは。
だけど、でも。
迷いは、晴れた。
負け犬は負け犬らしく、らしい人生を満喫させてもらおう。
「――で? って話なんだけどね」
まぁ、行くあてなんて皆無だったが。おまけに時刻は、6時過ぎ。どうしたらいいとか以前の話だったし、今日は朝成もハルイチさんもメッキーズの面々もピザすらいない。
ふと、あるまさんからだろうメッセージが脳裏をよぎった。
『とつぜんですが、Hexenhausの営業体系を変更させていただきます。みなさまには大変ご迷惑をおかけしますが――しばらく頭を冷やしたいので無理に探したりしないでねっ』
というか後半は愛華ちゃんだな、らしいといえばらしい、っていうかアレ見て改めて二人に会いたくなったんだよなー、あー会話してー。
「…………」
携帯を取り出してみて、待ち受けを見つめて、結局電話帳を呼びだせずに無為に時間が過ぎた。
電話かけようかと考えたようなそうでもないような。だって時間鑑みてあんまり現実的じゃないし、それと携帯見て現れる愛華ちゃんとのチェキに心奪われてしまってるし、ああそういやあるまさんとはまだチェキ撮ってないなー撮りたいなーとかホンっとどうしようもないことを考えていたり。
「おぉ」
変な声、なんか目当てのゲームの発売日が今日でビックリしたとかそんなところだろうか、気持ちはわかるからスルーしといてやるとする。
さて、いつまでも愛華ちゃんと睨めっこしてても仕方ないが、実際どうにも手を打ちようがなく――
「黒瀬くん、じゃったかな?」
オレの名前?
この秋葉原という天突く高層ビルが立ち並ぶ大都会かっこ自重で、まさかこんなちっぽけで蛾で負け犬なぼくの名を聞くような時がこようとは。
振り返る。
そこに――タキシードにシルクハットでステッキをついてる紳士が、温和な笑みで佇んでいた。
ぼくは思わず、背筋が伸びた。
「あ、あの……ひーぼんさん、でしたっけ?」
老人は、見た目通りの温和な感じでぼくの挙動不審な対応に微笑み、
「ほっほっほっ、ひーぼんですな。二度目、まして」
なんともこっち系な挨拶とともに差し出された手に、ぼくは苦笑いしながら応えていた。