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43話

 ガバッ、と跳ね起きる。それにビクッ、とピザがしてたがンなことはどうでもいい。

「ネットに、って……それマジでかおい?」

「ま、マジぞなもし……?」

「どこ……っていうか、どこで再開!?」

「ヲ、ヲちつくぞなもし?」

 怯えていた、それに若干落ち着きを取り戻す。なるほど冷静さを取り戻したければ女性の涙かオッサンのテンパリ顔か、覚えておこううん使う機会が微妙だが。

「あ、ああ、落ち着いた。落ち着いたからそれでHexenhausはどこで営業再開してんだ?」

「え、営業再開というより、場所を移しますから探さないでね的なことが書いてあったぞなもし――」

 ガン、と頭をテーブルにぶつけるっていうより叩きつける。ピザがびくっ、とした気配や視線が集中してるのを感じるが、ンなこたどうでもいい。

 なんなんだ今日は?

 なんでみんな期待を持たせておいて、こうも奈落に突き落してくれるのか?

「え、えっと……だ、だいじょうぶかぞなもし?」

 お前がそれを言うのかよ。

 そしてピザはなんだかんだで顔なじみのメイドさんと話して飯食ってチェキまで撮って、満喫して去っていった。どちくしょい、一人楽しみやがってよ事の元凶が。

 そしてぼくは、一人帰路についた。一応目の端で黒猫を探してみたりしたが、もちろん見つかることもなかった。切なくなった。苦しくなった。なんだかこんな気持ちは最初にHexenhausに行った時以来だった。

 もしぼくを救ってくれるというのなら。

 またぼくの目の前に、現れて欲しかった。


 それからぼくはどうなったのかというと、引きこもりに逆戻りしてしてしまっていたいやいや物語の終盤で逆にレベルを下げる主人公もぼくくらいのものだとは思うが、仕方なかった。

 なにしろぼくは実際、なにをしたということもなかったのだから。

 努力もしなかった。試練も乗り越えなかった。誰かのために必死になって走ることすら、なかった。

 ただぼくがやっていたことは、呑気にメイド喫茶に通って萌え萌えする。ただ、それだけなのだから。

 改めて考えると、嫌になりそうになった。呑気なもんだった、本当に。御主人様と呼んでもらっておきながら、実際メイドさんの方がよっぽど偉かった。毎日朝からお屋敷できっと掃除とか下拵えとかしてご主人様が訪れじゃなかった帰宅してからは愛想振りまきお出迎えしてオーダーとって料理もして配膳もしてお話もしてお会計もして、最後にお辞儀して送り出す。

 世間的には褒められることも認められることも無い、ただただ御主人様に尽くすためだけの、その在り方。

 まさに御奉仕と呼ぶに、相応しかった。

「…………ハァ」

 思い返して、ため息を吐いた。そうだ、彼女たちに在るのはどこまで純粋で美しく透き通った、ボランティア精神に近いものだった。ハルイチさんによると時給も低いというのにその高スペックを要求され世間的には口外もろくに出来ないようなその仕事に自分をやつすのは、ただその一点に他ならなかった。

 そう、ぼくは。

 きっと眩し過ぎる外灯に吸い寄せられた、きっと蛾のような存在に過ぎなかったのだろう。

「…………ハァ」

 ため息ばかりだった、もう本当自分で自分が嫌になる。そう、蛾だ。ぼくは蛾だったんだ。彼女たちが眩しくて、あまりにも貴くて、それに分も相応も考えなしにたかっていた蛾に過ぎなかったんだ。

 そう考えると、毎日毎日彼女たちのことを考えて――とそこまでいって、ぼくは思い至った。

 ぼくは彼女たちの事を、想っていたのか?

 それともHexenhaosという癒される非日常の空間の事を、想っていたのか?

「…………」

 小さいようで、それは大きい違いのように感じられた。

 一週間が経っていた。ぼくはあの日。メッキーズの面々と邂逅してピザと無為な時間を過ごしたあと打ちのめされて帰路についてから、ぼくは再度現実世界に絶望して、ドアに鍵をかけカーテンを閉めて、ただひたすらインターネットに埋没していた。

 少しでも、どこかに、なんでも、名残のようなものでもいいからHexenhaosの欠片を探していた。しかし見つかるのは実際名残のようなあの日の奇跡に対するコメントと、その後のなにも無くなってしまった状況と、そしてピザが言っていた彼女たちが残した言葉だけだった。それをみんなコピペして、結果にあちこちに拡散していた。

 それを漁るような作業をずっと続けて、疲れたら買いだめしておいた袋ラーメンを食べてだってカップめんより3,4倍は安いから、寝て、そしてまたパソコンに向き合った。

 髭ももう、随分剃ってない。顔も洗ってないし風呂にも入ってないから、たまに現れるブラックスクリーンに映る不審者の姿にビクッ、ビクッ、としながらの探索だったいや実際部屋から一歩も出ないで探索とかのたまっているのだから実際笑えて仕方なかった。

 そしてそう、一週間が経っていた。

 ぼくはベッドに、倒れ込んでいた。

「…………ハァ」

 会いたい。

 思うのは、そればかりだった。色々理屈もあげたし、謝りたいと言うのも実際だったし、癒されたいというのもリアルだったりしたが、もう本当それもこれも全部ひっくるめてただただ会いたいといのが生の気持ちだった。

 ひとと触れ合うのも、もう一週間してない。少しづつ、声の出し方を忘れつつある頃合いでもあった。

 文字通り、煮詰まっていた。

 このままここで、死んでしまおうかとか思ったりした。

 もちろん0,7秒でそんな考えは霧散したが。

「……そとに、でてみるか?」

 呟いた言葉が、がっさがさに掠れていた。

 結局出るのは、次の日になった。出るからにはそれなりの身なりをと、風呂に入って顔も洗って髭も剃らないとと言うことなのだが、それが一週間パソコンの前から動かなかったぼくにはダルくてたまらなかった。結局丸一日ウダウダ言いながらもダラけてしまって、次の日の夕方だった。ダメだ、ダメ人間度が加速していた、廃人一歩手前だった。あぁ、ぼくってメイドさんがいないとダメ人間なんだなと考えかけて、いやよく考えるとメイドさんがいたってメイドさんに会うためだけにしか頑張らなければベクトルが違うだけでダメ人間じゃんと気づき、結局大きくガックリするハメになった。

 それはいい、というかそんなことはどうでもいい心底。

 そして夕方、ぼくは久方ぶりにアパートの外に出た。

「まっ……ぶしー」

 手庇を作り、目を細める。赤い夕焼けが、やたら眩しかった。これもカーテンを引いてパソコンの灯りだけを頼りに生活してきたツケだった、ぼくは吸血鬼かと自虐してみたり。

 そして一歩一歩、階段を下りる。その間ぼくは、なんか月面に降り立ったアームストロングとかいう人みたいだなとかわけのわからん感想を抱いていたりした。

 そして葛藤や悩みや迷いなんかほとんど抱かず、秋葉原の駅にぼくは着いていた。

「…………あれ?」

 思わずの疑問符だった。一応選択肢として、というか学生としてまずは大学に行けよとか尽きかけてる食料の調達にスーパーとか、衣食住的な目的地がまず先行するはずだったが、なにも考えずにここに来てしまうとは。

 まったくもって救いがない――と考えかけて、でも心の底で思っている事との違いに気づいた。

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