41話
そんな経緯を辿って連れてこられたのは、中央通りにあるむちゃくちゃマイナーっぽいメイド喫茶だった。なんていうか、読み方も難しい感じの看板だった、待ち合わせ場所ここかよ?
カラン、と中に入るとほとんど埋まっていない客席の隅の一角に、二人組がメイドさん関係なしっぽく話し込んでいた。そこに当然ハルイチさんは向かっていきぼくもついていき、
「参ったぞ、同士諸君!」
『イエス、マイマム!!』
「…………」
なんだこれ? という勢いで、どん引きだった。いきなり立ち上がって直立不動の敬礼、いやお前ら今どき自衛隊でもそんなんしねえよたぶん。
「無事生還、お疲れ様であります隊長殿! して、彼の青年はいったいどういう関係であられるのでしょうか!?」
「おう! 我々の即戦力に繋がる可能性を秘めた大型新人だ、各々身構え戦々恐々とするようにっ!」
『ハッ!!』
「…………」
正直、全力で関わり合いになりたくない部類の人たちだったというか戦々恐々とかなんか言いたいだけだったろう?
「お名前はっ!」
「……え? は? あ……オレ、ですか?」
「そうでありますっ!」
ヤべぇ、本気で面倒くさいぞこれ? とりあえずサクサク進めていこうと心に決める。
ちなみに話しかけてきた側は、メガネでさらさらヘアーだった、ちなみにもう一人も似たような感じ、この辺太いのと細いのだったりしないでキャラ分けが出来てないのがリアルだった。ついでによく見て違いを探すと、ハルイチさんイコールネコミミ中年で、今のが黒ぶち眼鏡で、残りが縁なしメガネってところか、どうでもよかった。
「……黒瀬、です」
「黒瀬氏でありますかっ!」
「春の字でありますっ!」
うわ、ハルイチさん一番痛々しい形でバラしちゃったよ。
黒ぶちはメガネの縁をキラン、と光らせる――ような勢いで、
「春の字でありますか! 小生は秋の字であります!」
「そ、そうですか……」
「そうでありますっ!」
「…………」
「――――」
いや直立不動で黙られても。
するとハルイチさんがなんだか助け舟的なノリで、
「いやいや、黒瀬氏もそんなに緊張しなくてもいいでありますぞ? 我々メッキーズの信念は誰でも平等、メイドさんに癒される心に分け隔てはない、ですからな」
「そ、そうですか……」
「隊長、この御仁正直若干引いてはおりませんでしょうか?」
縁なしメガネは、意外と空気を読む力がありそうだった。
ぼくは体の向きを変え、縁なしメガネと話してみることに決めた。
「あの……お名前は、なんでしょうか?」
「僕は、ユーキといいます。ドラクエ的な勇気と思っていただいて結構です!」
思ったよりはまともじゃなかった、まぁそれはいいとにかく会話が成り立てばそれでいいと軌道修正する、下方に。
「ゆ、ユーキさんはその、メッキーズに……ていうかお二人とも座って、っていうか座らないんですか?」
それに縁なしというかユーキさんと黒ぶちは顔を見合わせて、その後二人でハルイチさんの方を向き、
「座って――」「――よろしいでしょうか?」
「許可するっ!」
『ありがたき幸せっ!!』
何様だよ、と本気で落胆しかけた。ヤヴァい、マジでこのノリについていける気がこれっぽっちもしない。
とりあえず、二人は着席した。それに続いてハルイチさんも手前のユーキさんの隣に座り、ぼくも逡巡したあと黒ぶちの隣に座ることにした。
なんか、なんだコレな感じだった。
「…………」
男四人がメイド喫茶の隅に集まり、向かい合っていて、黙っている。お見合いか? 思わずツッコミそうになるところだった、それだけは絶対にいけない、なにがだ? 自分でも心の中の言動がわからない。
「……では、こうして落ち着いたところで話を始めましょうか?」
やはりというか、ハルイチさんが仕切りだした。それにぼくはとりあえずは従うことにする、郷に入っては郷に従へ。
「はい、隊長殿」
「なんですか、ユーキ氏?」
「先ほどそこの御仁であられる春の字が、なにか自分に質問があったようなのですが?」
「そうですね、黒瀬殿発言を許可します」
なんて考えてたら、普通にお鉢が回ってきた。まぁ、ですよねといえばそんな感じもしなくもなかったが。
「あ、はい。それで、あの……ユーキさん、」
「なんでありましょう!」
座りながら直立不動で激しく返事をされる。いや、ちょっと――
「あ、あの……」
「なんでありましょうっ!」
「いやあの……ふ、普通に話し合いません? 今後のこと」
「こ、ここここ今後の事とは!?」
「ハハハハハルイチ隊長び、BLでありますか? この御仁、BL使いでありますか?」
「ていうかもちつけユーキと秋の字、まぁ確かにオレの言い回しも問題ないこともなかったが」
なんだか逆にすごく落ち着いてしまった、相手が微妙なネタで盛り上がると反比例して盛り下がるのはなぜだろうな、と。
そんなぼくたちに、ハルイチさんはなぜか隣のユーキさんのものであろうカップを手に取り口をつけ、
「いや、落ち着け同士諸君……おそらくは黒瀬殿は、今の言葉にそれほどの意味を込めてはおらぬというか少しハシャギすぎだこっちまで恥かしいわ」
真っ当だった、まぁこれが普通だと思うしなるほど秋の字とユーキさんはハシャいでるのかまぁ確かにそういえばそうなるかうん。
ハルイチさんはこちらを向いて、
「お騒がせしました、黒瀬殿、どうぞ」
「は、はぁ……?」
まあもうあまり細かいことは気にせず、とりあえず話を進めようと心に決めた。
ぼくは軽く心を落ち着かせて、
「ハァ……その、ユーキさん?」
「なんでありましょう!」
ハシャギ過ぎは変わらずだった、もうそれはいい。
「そ、それでですね……Hexenhausっていうメイド喫茶についてなんですけど、」
「ヘキセンハオスっ!」
「ヘキセンハオスッ!!」
ユーキさん、につづいて秋の字までも激しく反応、いやあんたらわかりやすいというかここまで来ると愛おしさも湧いてくるわ。
ぼくは若干うんざりしつつも、
「あぁ……はい、ヘキセンハオスですけど、なにか知りませんか?」
「知っておりますとも!」
「知っておりますともっ!」
二人続いて答えるのはデフォかよというツッコミももういい。
「はぁ、そうっすか……なら、その情報をオレに教えてもらえると嬉しいんですが?」
「その前に、」
「前にですな」
「? なんですか?」
『春の字は、もうメッキーズには入られておられるのですかな?』
ダブりで、ちょっと痛いところを突かれた感じだった。
「あ、いやその……」
『違うのですかな?』
「ああ、まぁ、今回はその、ちょっとお二人にお話を聞いてみたくて……」
「まぁまぁユーキ氏に秋の字」
そこにハルイチさんがフォローを入れてきた。ぼくたち三人はそちらに振り返り、
「お二人とも、確かに我々が持つメイド喫茶情報は悪用されれば大変な被害をもたらすことに繋がりかねません……なにしろあらゆるメイド喫茶のメイドさんのシフトや、実年齢、嗜好、そして彼氏の有無……」
「は、ハルイチ殿!?」