40話
なんでいきなりおじゃるまる語だよ? というツッコミはいきなり正気を取り戻したハルイチさんに掻き消された。
「……そうなのです、現在メッキーズは、緊急事態宣言を発動しているところなのです。こんなことは、結成以来初めてのことですよ……まさに未曾有の危機と言って差し支えないでしょう……」
「そ、そんないくらなんでもおおげ――」
「たかがメイド喫茶で」
その一言で、ハルイチさんの顔はネコミミ中年オタクから、赤木のそれに変化した。赤木?
「……いま、たかがメイド喫茶と言ったか? 私が愛するメイド喫茶を、玉入れ遊びと言ったのか!?」
「ヤべぇ! 言ってもいないことを言ったと言いだしてまさかのスラムダンクパロディだった!?」
カオスかここはなんでもありか!? という感じだった、というかなんでもいいから話を進めて欲しかった。
「あ、あの、ハルイチさ――」
「ていうか話進まねーよ早く喋れよ春田ー」
「ムキーっ!」
もう、自分如き低能オタクでは太刀打ちできない異次元世界だったなんか喋ろうとしても遮られるし、もうしばらく黙っとこうと思ううんそうしよう。
「春の字! どう思いますかこの暴言許すまじ!」
「思った矢先から話振られてるしっていうか結論出てるしでもうなにがなにやら」
どうやっても思い通りにはいかないようだった。だったら流れに身を任せるべし、幸いそういう作業には慣れてる引きこもりコミュ障人間嫌い舐めんなよ。
「あー、確かに酷いっすね。だいたい趣味なんてもんは他人にどうこう言われる筋合いはなく――」
「だいたい朝の字なんてメイド喫茶のなんたるかなんて知らないじゃないですか――――っ!」
「あーオレの意見がガン無視ねオーケーいいだろう無視されることには慣れてるからふたりで忌憚なき意見を交わすがいいさ」
「ねー春の字!」
「あーもーめんどくせー」
「ハハハ、おまいらおもしれー」
結局朝成の一人勝ちになるのだから面白くなかった。
その後15分ぐらい同じようなやり取りを繰り返し、その後10分くらいしてようやく落ち着いたハルイチさんからようやくのようやく事の概要を聞くことに成功した長すぎ意外とこのひとめんどくさ。
「要は、Hexenhausの存在有無、そしてその後についての調査なのです」
「なんか聞いてしまえば身も蓋もないですね」
予想の範囲内過ぎた、なにも他にはなかった、というかそれでそこまで大げさに言うのってもはや詐欺に近いのでは?
冷静さを取り戻したハルイチさんは少しだけ眉をひそめて、
「身も蓋もないといえばそうかもしれませんが……我々めっきーずの使命として、アキバに存在するメイド喫茶はすべて把握する、というものがあるのです」
「……それって、出来るんですか?」
「まぁ……正直厳しいですけど」
なぜか小声になる二人だった、ちなみに朝成は既に興味を無くしてかけていて、宙空をぼんやり見つめていたりした、そのうちバッくれて自由行動とかしないだろうな? まぁそれはそれで支障ないが――無いのか?
「とりあえず、我々メッキーズは御主人さまは楽しく! メイドさんは安全に! 双方とも癒されるウィンウィンの関係を保てるようにをモットーに活動しておりまして、そのためのGM規定と言うものを定めておりまして――」
「なんかそれ、自転車でそういうのなかったっけ?」
「うるさいですよ朝の字っちなみにGMはグッドメイドカフェ規定の略でして――」
「まんまですね」
「うっさいですよ春の字!」
なんかもう本当話進まないなという感想しか出せなかった、ていうかハルイチさん狙ってやってるんだろうか?
「そ、それでその規定に入ってるかどうか検査しなくてはいけないので……っ!」
「そ、そうですね」
なんかもう、憐れにさえ思えてきた。ていうか独りよがりの正義ってこういうのを言うんだろうか? ちょっと、自分を顧みてみよう、うん。
「なんか、ていうかその規定ってどこ基準なんですか?」
「私含めたメッキーズのメンバーで決めております!」
自信満々だった、そしてハルイチさんの情報量と情熱から、間違っているかどうかはおいておいてもやはりそれなりのツワモノメンバーが集まっているだろうことは予想できた。
だから――
「あの、ハルイチさん」
「なんですかっ!」
「他のメッキーズのメンバーに、ぼくを会わせてもらえませんか?」
しばらく空気が凍りついたように、静まり返った。
「……本気、ですか? 春樹さん?」
「いやなにが本気かはわからないですけどていうか呼称いきなり普通に戻りましたね?」
いきなり朝成がインターセプト、しかも肩に手を置いて。
「そうか、春樹が本気なら、俺ももうなにも言うことは無い……行って来い、行ける所まで!」
「お前ってそういう台詞ホンっっと愉しそうな笑顔で言うよなァ!」
なんか、今度は空気が不穏だった。いやでも自分の発言を省みたら、そうなるのか? いやでもそういう意図で言ったつもりじゃ――いや、どうなんだ?
自分でもすっかり?な感じになってしまった。
ぼくは結局、なにがしたかったんだ?
「いやだから……その、Hexenhausのことで――」
「おぉっ、そういえば黒瀬氏はHexenhausの住人でしたな! なにかご存知で――」
「いや逆にそのぼくの方が詳しいこと知りたくてですね……」
「あぁ、そうでしたか……」
お互い、意気消沈。いやいやそれおかしいだろメッキーズっていうぐらいだからぼくよりは情報持ってて当然でしょ?
「あの……その、それについての情報って、なにも掴んでないんですか?」
ぼくの質問にハルイチさんは力なく顔を上げ、
「いやいや、そんなことはないですよ? もちろん情報は掴んでおりますよ? たとえばHexenhaus出現の鍵は黒猫であるとか、」
いやそれってぼくが教えたやつじゃないか?
「あるま、愛華に比べてレインたんの出現率は涙目ものだとか」
確かに会ったことないな、でもそういうのの情報ソースはどこなんだ?
「そういうのって、いったい誰から聞けるんですか?」
「それは秘密事項です」
次はみくるんかよ、そういうのは美少女がやってこそ絵になって許されるものでまぁいいやだいたい天下の往来でネコミミつけてる時点であずにゃんもびっくりだしなうん。
「そ、そうですか……それはともかく、他にはなにか?」
「いや特に」
それだけかよ、なんかよく知ってるなと感心しかけたけど特に役にも立たない情報だなもうあんたにはガッカリだよ。
「そ、そうですか……」
「さすがハルイチ殿、さすがの情報網ですなー」
「いやいや、褒め過ぎですよ朝の字」
なんか朝成が身も蓋もなく称賛してて、すごく場違いな空気を感じ始めていた。どうしようか、なんかすごくどうでもよくなってきた。
「…………」
「んで? 春樹はメッキーズと合流すんの?」
「あ、いや……」
「そうなのですか? 春の字?」
期待の目、それを裏切られるほどぼくは――対人スキルは、高くない。
「そ、そうですね……」