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37話

 アキバの駅に着く。道中最近の新作ラッシュの中、これ! というキラーコンテンツの話になり、へーとか適当に相槌打ってたらネタばれ始まったからちょっおまっ!? と軽く殴り合いになりかけて、そういや最近寝ても覚めてもメイド喫茶で二次元の方がおろそかになってたから今度そのタイトルやってみるかちなみに『メイドンメイデン』というメイド人形の話だったけどな!

「だいたいメイドンってなんだよメイドンって? なんかメイドじゃなくてもはや別のなにかだろ?」

「メイドンっていえば、メイド丼の略だろ。ほら、姉妹丼とか親娘おやこ丼とか」

「そっち系かよ!?」

「そりゃそうだろ、エロゲーだし、ていうか妙に熱いなお前?」

「いやまぁ……いや、なんでもない」

 メイドをそういう風に――うんたら痛い事を考えかけたが、やめておいた。うーん、ぼくもだいぶ痛い方向に進化しているなと。

 そんなしょうもないやり取りをしながら、駅を出る。そして中央通りに向けて、歩き出す。

 そうとした。

「おい、春樹」

「ん? なんだ朝成?」

「ゲーマーズ寄るわ」

 確かに。ぼくはほんの――考えてみると1ヶ月とかそれくらい前か、までの自分の行動パターンを思い返す心地だった。だから今回は久しぶりに朝成のあとについて、ゲーマーズに入り、とらのあなやらトレーダーやらソフマップやら電波会館やらガチャポン館やらブックオフとかまで色々色々と巡ることになった。久々の巡回も、それはそれで心ときめくものだった特に一ヶ月も経ってるから新刊入りまくっててまるで初めての土地に来たような感覚で。

 そして気づけば、辺り真っ暗になっていた。

「うぇっ!?」

 最後に行ったとらのあな3号店を出たところで、ビックリした。それに朝成はやや寝ぼけ眼で、

「ん? どしたんいきなり?」

「いや……い、いつの間に真っ暗……っていうかもう9時!?」

「いやー……時間忘れるくらい、満喫したなー……」

「顔ツヤッツヤだなそらまぁ楽しかったけどさ! ていうか違うっつの当初の目的が――」

「なんかあったん?」

「っ……!」

 悩む、確かに話さなかったのはこちらだが、今さらそれを言っても仕方ないし実際言ったように楽しかったのも事実なのだから。

 だが、閉店まで残りニ時間、そしてラストオーダーまで一時間半。

 場所の特定からなにから始めるとするなら、実に実に微妙な時間帯だったりした。どうしたらいいのか、正解がわからない。別に一刻を争う事態でもないのだから日を改めてもいいじゃんといわれればその通りだから、その辺も少し誘惑だったりして。

「……うーん?」

「どしたん、なにを悩んでる感じなん?」

「い、いや、その……」

「黙っててもわからんぜよー」

 不満げだった、まぁ確かに目の前でうんうん唸って内容言わないっていうのも不満か、ぼくは心変わりした。ていうかそもそも朝成のイレギュラーを期待して連れて来たのだ、こういう事態もそもそも想定の範囲内と言えなくもなかったイヤごめん嘘範囲外ですはい。

 ぼくは事情を、朝成に話した。

「というわけで、Hexenhausに行きたいんだよ」

「どういうわけだよ、説明ハショり過ぎだろ」

 さすがに無茶過ぎた、ドラクエみたいにはいかなかった自重自嘲、というかニヤケ笑いしてしまった、いつも驚き役だからたまにはこっちもからかいたかった。

「けどまぁ、大体事情は呑み込めけどな」

「…………は?」

 と思っていたら、やっぱり斜め上の返しをされた。

 ぼくの方が少し混乱しかけたので、整理することにした。

「ちょっ、ちょっと待てな……なに? お前はいまの説明でなにをどう理解したわけ?」

「ん? あれだろ、お前は今からお気に入りのメイド喫茶に行きたいっていう話なんだろ?」

 まぁ確かに、概ねその通りだった。その前後の事情など確かに知ったこっちゃないし話にも出していないのだからその通り過ぎた、シンプルだった、まさにぼくと真逆の生き方だった、なるほどぼくが朝成とつるんでるのってその辺りに憧れ的なものも抱いているからなのかもしれなかった、だが実際なりたいかと言われたらそうでもないが。

「ま、まぁ概ねそうだな」

「概ねってなんだよ、春樹ってなにげ難しげな言い回し好きだよな、軽く厨ニ病っていうか」

 まんま厨ニ病だよ悪いかよというのは実際同類相哀れみるというかなんというかだから止めておいた、というかこいつの場合リアル褒め言葉として使っている可能性が実に高いし。

「……と、というわけなんだけど、ラストオーダー10時半なんだよね」

「あと、1時間ちょいだな」

 携帯で確認すると、9時17分とかになっていた。さて、いよいよな感じだな。どうするか?

「で、結構距離があって」

「走るか?」

「……それで、場所がわかりづらくて」

「人に道を聞きながらだな」

「……そうだな、確かにそうだな」

 ウダウダ悩んでるひまがあったら、確かに行動した方が早かった。そういうところは素直にイイと思える、連れてきた甲斐もあったっていうものか。

「……じゃあ、行くか?」

「あ、悪い。俺は帰るわ」

「――嘘だろ?」

 悪い夢でも見ているような心地になった。マジで一瞬、目の前が真っ暗になったし。

 だけど朝成は当たり前の顔で、

「そろそろ帰んないとマリマリマリモっちに間に合わないんだよな。そういうわけで、悪いけど――」

 ガシッ、と朝成の両肩を掴む。結構、強く。

 朝成はそれに結構驚いたような顔をして、

「ん? お? ど、どうした春樹――」

「……なぁ、朝成」

「な、なんだ春樹?」

「オレたち、友達だよな?」

「そ、そだな……」

「……あのさ、朝成」

「な、なんだ春樹?」

「本当申し訳ないんだけど……出来れば、っていう話なんだけど……その、」

「な、なんだ春樹?」

「つ、付き合ってくれると助かるんだけどオレホント!」

 目一杯目を見開き、喉の奥から押し殺したような呻き声が出ていた。それに朝成はなぜか初めて見るなんていうか微妙に目が揺れている感じになって、

「お、おおう……あ、ああ、や、やぶさかでもないな」

「あぁありがたい! 本当ありがたいわーやっぱ友達っていいなーおいっ!!」

「お、俺は少し、恐いがな……」

「え!? なんて言ったいまっ! よく聞こえなかったわ!」

「い、いやなんでもないわ……」

 強力な仲間を得て、気持ちも大きくなってぼくは意気揚々とした気分で中央通りに向かった。

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