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33話

「麗しかないですよ?」

「じゃあ麗しくなく」

「なんなんですか? 愛華怒らせて、御主人さまは愉しいんですか?」

「いやなんかたのしいの漢字がおかしいし……オレ、御主人様だよね?」

「そうですよー」

 どうしろっていうんだ、とマジで思った。なんでぼくはメイド喫茶にきてこうして悩ましく思わなければならないのかとか?

「それで残念ながらあるまさんじゃなく愛華ですが、メニューをお伺いしてもよろしかったりするでしょう、か?」

「いやいやいや誰が愛華ちゃんに不満などありましょうかむしろ自分のメニューを聞いていただけることに至上の喜びを感じずにはいられませんええ」

 ちりん、という鈴の音。

「はい、今窺いますのでー。で、ご主人さまご注文はお決まりなんですか?」

「あ、はい。乙姫パスタと一番星カクテルを」

「はい、かしこまりました。では――すみませんご主人さま、お待たせしましたー」

 元気にぽんぽん跳び回る愛華ちゃんはなかなかに元気系の素敵メイドだった。そして乙姫パスタも一番星カクテルも内容がまったくわからない辺りがなかなかにツワモノメニューだった、ちょっとドキドキ。

「ふーん……」

 そしてぼくは、さらに店内を見回した。なるほど狭い空間に確かに詰め込むだけ詰めて、窮屈さとごった返したような騒がしさはあったが、しかしそれが完全に裏目に出ているかといえばそれは3:7といったところだった。

 確かにぼくの好きなあの落ち着けて安らげる空間は、失われていた。

 その代わりどこかパーティーのような、そんな賑わいが生まれていたのもまた、事実だった。

 殺伐とした感じは、今のところはない。それは客層と、そして圧倒的に二人のメイドさんのスキルによるところが大きかった。完璧に捌きながら、しかしなお雑に扱うことは無い。改めてスゴイと思う。狭さも、逆に良い方向に作用しているようで、除け者感が出ないで済んでいる。そしてお祭りのような別の方向性の非日常が演出されていた。

 でも、それもやっぱり3だったけど。

 7にはまんま数通り、かないはしなかったけど。

「……ふーむ」

 なんて考えてるうちに。

 ぼーんぼーん、と柱時計の鐘が鳴り始めた。

「うわ……」

 ヲイヲイ、閉店の時間だし。

 周りを見回す。と、そこで初めてぼくは気づいたのだが、御主人さまはみんながみんな、既に食事といえる食事は終えているようだった。ぼくと帰ったもう一人が呼ばれるまで時間が結構あったしで、みんなドリンクをちまちま飲みながら雑談する漫画を読むなり持ってきたゲームをするなりもしくはメイドさんにちょっかい出すなりに勤しんでいるだけだった。まぁ喫茶店だし、ぼくみたいにガチに食事しに来てる人は少ないか、しかもメイド喫茶だし。

 そこであるまさんが中央で口元に手でメガホンを作り、

「みなさぁん。申し訳ありませんが、当屋敷本日お出掛けの時間を迎えてしまいましたぁ。お忘れ物などございませんよぉう、お気をつけくださいねぇ」

『はぁ~いっ』

 小学生か!? とガチで思った、口には出さなかったけど。なんかみんなこういうとこ来ると勝負師になるか幼児退行するかのどちらかだな、と遠い目で見守る。なら、ぼくはどっちなんだろうか? 勝負師だったらガッついてそうでヤダし、でも幼児退行だとそれはそれで気持ち悪いしなぁ。

「では、おひとりおひとりお見送りいたしますので、お会計を終えたらこちらへどうぞ」

 そしてテーブルのおきゃ――御主人様から、ひとりひとりと出口へ向かっていく。さすがにカウンター席の御主人様はギリギリまで粘り愛華ちゃんとかに話しかけたりしていた、むしろ尊敬。

 そして隅っこでひとりゲームに勤しんでいた男が、最後のカウンター席の男が去ってから1分は悠に経ってから、立ち上がる。

 そこで鈍いぼくは、気づいた。

 あの時の、ピザだ。

「あ、ピザ男……」

「誰がピザ男かもし!」

 なんか最初はそれっぽい現れ方しておきながら意外とひょうきんなキャラに変わっていた、現実ってこんなものだよねっ。

 ピザ男は相変わらず仕上がった肉体をたぷんたぷん揺らしながら、

「ふ……ふっふっふ、今日いちにち、きみらの働きぶり見させていただいたぞもし。そして結論を言わせてもらうと……」

「では御主人様、お忘れ物などないようお気をつけてお出かけください」

「話聞いてない!?」

「大変申し訳ありませんがお時間ですので、お早くお荷物をおまとめになって出かけられちゃってくださいく疾く」

「なにげに急かしている!? というかそれを言うならそこの兄ちゃんというか御仁にも――」

「はいはいご主人さまお一人様おかえりでーす」

「その台詞もはやメイドじゃね――――――――っ!!」

 至極まっとうともいえる絶叫を残し、ピザ男は結局名乗ることすらできず強制外出を余儀なくされた強制外出って結構ウケるなと思ったり。

 カラン、という音を立てて、ドアが閉められる。

 ――閉められる?

 あれ? ここにひとりまだ、絶賛ご帰宅中のご主人さまがいるんですけど?

「――と、いうわけで」「大変お見苦しいところを、お見せしてしまいました」

 愛華ちゃん、そしてあるまさんの順でなぜか謝罪の言葉。

 それに最初ぼくは若干の混乱しかけるが、しかし少し考えて憶測で4~6割ぐらいの事情は呑み込めた気になる。

「その……今回のこれは、やっぱりオレのせいだったり?」

 ぼくの言葉に愛華ちゃんは鼻をかき、あるまさんはスカートの前で手を合わせたまま瞳を閉じて、

「いやまぁ、色んな不幸な偶然が重なったっていうか……」「わたしたちのミスも多分にございます、大変お見苦しいところを……」

「えーと……あの、まとめさせてもらっていいですか?」

「まとめるんですか?」「おまとめになられますか?」

 愛華ちゃん、あるまちゃんによる連続ツッコミに、ぼくはにへらと苦笑い。アレ、ぼく間違えた? はず。ないけどな? とぼくは動揺をなんとか抑えつつ、

「と、いうより、こっちの方が説明を欲しいんですけど……?」

 訂正、たぶん理解してるのは2,3割もしくはそれ以下と推定、または誤解が混ざってる? まずは互いの考えを交換しようと、

「え、と……まず、あれですか? 今日こんなに混んでたのって、その……やっぱり、色々とバレちゃったからですよね?」

「ちょっと攻略法がバレちゃいましたね、てへぺろっ」

「うわ愛華ちゃんそんな最上級萌えテクを惜しげもなく!?」

「まぁ、そんなところですね御主人様っ?」

「あるまちゃんもそんな完璧な角度でくりっと可愛らしげに頭を傾げてなお全くの無表情だなんて!?」

 なんだか訳がわからん事態だった。というかはぐらされてるのか? いやそれともただ単にそういうキャラ付けなだけなのだろうか?

「あの……真面目に話す気、あります?」

「ありますよ、というか真面目に話してますよ?」

 あるまさんの場合ネタなのかガチなのかわからなくて、ダメだ。

 愛華ちゃん。

「え、と……?」

「ん? なんですかご主人様てへぺろっ」


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