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28話

 不快だった、率直に。可愛い妹もしくは妹キャラに言われるならまだしも、こんな豚に呼ばれたい呼称ではない。ぼく、キャラ崩壊してないか心配。

「……じゃあお前、」

「初めて会ったのにお前呼ばわりされる筋合いはない」

「…………」

「…………」

 すごい空気になってしまった。しかし相手が悪いと思うから、ぼくが反省するべき点はないと思う。もういっそ止まったことが悪かったとするならもう行ってしまおうかとも考えた時、

「……この路地を通るってるのは、たいがいHexenhausに行った人間だけさもし。じゃなきゃこんななんもない路地裏、誰も入らんさねもし」

 仕方なくと言った感じで、ようやく男は話し始めた。それにはなるほどと納得して、

「じゃああんたも、Hexenhausに行ったことがあるんですか?」

「ないなもし」

 そのもし、ってのいるかな? キャラ作りか? だとしたら失敗してると思う実際そっちの方に気が取られて本題の方に身が入らない。

「ないなら、なんでそんなこと知って……ひょっとして、メイド喫茶巡り同盟の?」

「あんな似非自警団なんて消えればいいぞなもし」

 なるほど、ほぼ痛客確定だった。いやだけど今日会っただけでハルイチさんイコール良い人とも確定しきれなかったけれど。

「なら、なんで知ってるんです?」

「むしろ知らないならもぐりぞなもし」

 そうか、都市伝説とかハルイチさんも言ってたもんな。知る人ぞ知るっていうやつか。だけどハルイチさんも知らない通路まで知ってるだなんて、この男――

「それで、最初に戻りますけどなにか用ですか?」

「まずはこっちも最初に戻るけど兄ちゃ――おぬし、メイド喫茶とはなんぞや心得てるかもし?」

 なんでそんなことを聞かれなきゃいけないのか、裏の裏を読みとろうとしてみた。

「……癒しスポットですよね? この戦場秋葉原においての。それがなにか?」

 ニヤリ、となにか含みのある感じで笑ったようだった。

「わかってない……わかってないぞおぬしもし。メイド喫茶が癒し? はん、鼻で笑ってしまうぞもし」

「……違うんスか?」

 じれったいやり取りだった。キャラ作りしてるせいで含み持たせたり雰囲気づくったりフラグ立てたり、実生活においてはその辺ズバッと言って欲しかった。めんどくさい。

 男はしばらくくくく、と笑ったあと、

「まぁ、嫌でもわかるぞなもし。次にHexenhausに行くことになったら、な。もし」

「って、おいおい?」

 含みだけ散々持たせて、男は唐突に去っていった。後ろ向きに小走りしながら、文字通り暗闇にうわマジかあっちに行って果たしてどこに行きつけるというんだろうかそれとも状況的にそちらしか行けなくって引っこみがつかなくなったのかだったらしばらくここに居座ってやろうかとも考えたが意味もないので、やめておいた。

「…………」

 そのまま今のやりとりの意味を考えながら、駅に向かった。正直せっかくの満たされた気持ちが、乱暴にかきまぜられて周囲に飛び散り味もよくわからなくなってしまったような、そんな気持ちになってしまった。ただなんとなく嫌な感じはしていた、ボス戦前に隠れ的に置いてあるどう考えてもイイものが入っている宝箱をMPが残り少ないから放置してしまった時のような。


 二日後。朝成とアキバデートいやすまん気持ち悪かったから撤回させてくれアキバで会う約束をした。待ち合わせ時間は13時40分にしておいた。なぜこんな中途半端な時間かというと予想通り朝成から駅に着いたというメールが届いたのは、14時をかなり過ぎた時間帯になってからだったから。

 朝成とアキバに来るのも、随分久しぶりだった。朝成自体がピンでの行動タイプで、しかも基本的にはえがく部所属で幽霊のぼくと自由時間帯が異なるのが問題だったりする。

「うっす、朝成」

「おう、悪い遅れたわ」

 ――ん?

「あれ……なんか、朝成口調元に戻ってね?」

「ああ、もう時代は戦国じゃないね。これからはメイドさんだぜ、メイドさん!」

 期せずして同士が増えたような錯覚に陥りそうになったが、これが罠だということは重々承知だった。朝成はメイドさんと言ったわけで、メイド喫茶だとは一言もいっていない。……さて、今期のアニメでメイド系はなかったからこいつのハートに火をつけたのはPCゲームかそれとも漫画かラノベか――

「どうも黒瀬氏、お久しぶりですな」

 ネコミミ大使、再びだった。

「あ、どうもハルイチさん……あの?」

「なんでしょう?」

「そのネコミミは……必要なんですか?」

「いえ、なんだったら外します?」

 ひょい、とあっさり取ってしまったなんだよこだわり無いんなら人と会う時は取って欲しいんだけどキャラ作りとかあると思って黙ってたのにとこの辺がぼくのへたれというキャラ作りかもしれないとは思わないでおいた保身のため。

「では行きましょうか? 今日はお昼ごはんに、とっておきのメイド喫茶があるんですよ?」

 そう言って歩き出すハルイチさん、さすがにメイド喫茶巡り同盟――そういえば役職とか言ってなかったな会長とかなのかそもそういうのないのかていうかたった4人だしそういうもの無いか。

 後ろについていきながら、朝成に耳打ち。

「そういえば朝成は、メイド喫茶に行くのはいいのか?」

「? 別にどこで飯喰おうと一緒だろ?」

 さすが食事を単なる栄養補給行為だと思ってる奴は言葉が違っていたいやぼくはここまで突き抜けたくはないが。

 そんなこんなで例によって例のごとく電気街側から中央通りに――とばかり思っていたら、違っていた。

 久々の、昭和通り方面だった。

「こっち側にもメイド喫茶ってあるんですね?」

 思わず聞いていた。こっち側はあんまり来ることがなかったから、景色まで新鮮だったし。

「知る人ぞ知る、ってやつですよ?」

 ニッコリ笑って導いた先には、普通っぽい店があった。木の扉で、ピンクもキラキラもなくて、メイドの文字すら見受けられない、ある種シャッツキステに近いと言いたいところだったがカフェっぽさすらないというのはどういうことだろうか? そのうえ昭和通り口から、15分は歩いた。まさに穴場って奴なのか?

「こんにちわー」

 慣れた様子で扉を押し開け入っていくハルイチさんに、ぼく、朝成の順で続く。

「いらっしゃいませ、お好きなお席にどうぞ」

 普通の挨拶が返ってきた。まぁ今まで巡ってきたメイド喫茶も3割くらいは普通の挨拶だったが、それでもやっぱり新鮮ではあったっていうかまだ5軒しかいったことがない罠。

 内装は、本当に普通のレストランというか個人経営の喫茶店――のように見せかけて、壁一面にまずサイン色紙がズラリだった。アニメやPCゲーム界の大御所が揃っており、まずそこにびっくり。さらにカウンターの上にはキープボトルが並んでおり、その表面にはアニメ柄。さらにあその隣にはぬいぐるみやフィギュアがいっぱいでBGMはアニソン、うん、ぜんぜん普通じゃないね。

 そしてお客さんが、少なかった。

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