20話「その頭が、ネコミミモード」
@ほぉ~むでは最大手というだけあって、チェキ用の指名表というかカタログ的なものまであるぐらいだった。ぴなふぉあの方はメニューとのセットだと落書きサービスはなく、千円かかるでかチェキというものだと描いてもらえた。
色々あるというのは、よくわかった。
まだ3軒しか回ってないから、なんともいえないけど。
なんだか評価を下すのも難しいものなのだと思ったりして。
「ふぅ……」
中央通りに戻り、どこを目指すともなく彷徨う。腹ごなしの意味もあるが、正直心休めたいという気持ちもあった。
こういう言い方だと語弊があるかもしれないが、今回まわったうちの、特にまえニ店はゆっくり落ち着こうという雰囲気じゃなかったような気がしていた。慌ただしいし、なんだかご主人さまが同士が、その……メイドさんと喋ろうと牽制し合ってるっていうか。なんか、アイドル的というか。
別にアイドルを否定するわけじゃない。AKBを代表とするアキバ発信の地下アイドルやアニソン歌手は、もはや日本の経済を支える柱の一本だと思うし、そのクオリティは本家のそれにも勝るとも劣っていないといっても過言ではないと思っている。
ただ、ぼくのニーズとは少し違ったと。ただ、それだけの話に過ぎない。
そしてそれはキュアも同様で、特に干渉もないただのレストランというか喫茶店ならば正直ガストやすき家やでもいいような気がしていたいやもちろんそれも落ち着きたいとかメイドさんがいることが重要とか色々あるんだろうけど――
「ん~……?」
よく、わからなくなりつつあった。財布から、今日撮った@ほぉ~むカフェのチェキを取りだして、見てみる。ぼくの笑みは、硬かった。やっぱりあの時朝成に言って部室で詳しい奴に話を聞いておけばよかったのか? いやまぁだからって自分のへたれさがどうこう出来るとも思えないし、無い物ねだりはオタクの得意技な気はしてはいるが。
とりあえず今回調べてるのは、ここまでだった。ここから先どうするか、特に決めてはいなかった。歩いていればそういう看板がいくつかは目に入るが、リフレだとか、耳かきだとか、学生服でいかにもいかがわしそうなのとかはなんなのだろうか? ああいうのに入るのは、少し抵抗が――
「もし、」
ネタ過ぎる、と思った。
「……はい?」
まさか、オレですか? という気持ちも混じりつつ、ぼくは振り返った。ここでそういうメイド喫茶の達人がぼくに指南とか、だったら、漫画的というかラノベ的というかそういうので都合がいいと――
「おぬし、今日も同人誌行脚でござるか?」
ていうか普通に、朝成だった。そりゃそうだった。
「ああ、おう、朝成。いや、今日は同人誌っていうか――」
二の句が、繋げにくかった。
朝成の隣に、誰かいた。
そしてその頭が、ネコミミモードだった。
「…………その、」
「うむ? ああ、こちらは小生の戦友、安達もといハルイチさんでござる」
――もとい?
「ハルイチです、どうも」
「あ、はい、黒瀬っていいます、どうも……」
とつぜん頭を下げられ、慌ててこちらも頭を下げる。ずいぶん腰の低い友人のようだった。今まで見かけたことがないが、大学の知り合いではないのだろうか? 朝成はアクティブおたくの部類に入って、それで色んなオフ会とかにも出てるからその辺の知り合いとかなんだろうか?
なんにしてもネコミミカチューシャを天下の大通りで付けてるあたり、間違いなく只者ではなさそうだったが。
「ハルイチどの、黒瀬殿は名前を春樹というでござるよ」
「おぉ、それはわたしのハンドルネームそっくりで、かつ某有名作家さんの名前と一緒ですな」
「そうでござる」
「ですな」
「…………」
なんだか、独特な空気だった。だいたい中央通りのど真ん中でどっからどう見てオタク3人が立ち話も嫌な感じだったいや間違いなく自意識過剰なんだろうけど。
「あ、あのさ朝成……」
「それで黒瀬殿は、なにをしてたでござるか?」
そしてまったく気にしてない朝成だった、まさに平常運転だった。だがそれで動揺するようじゃあオタクなんてやってられない、適応スキルを見せてやる!
「いやあ……ただちょっと、その、メイド喫茶をぉ……」
羞恥スキル発揮だった。おにゃのこなら萌えだが、男はただ痛いだけだった!
「ほお、メイド喫茶ですか?」
なぜかそれにネコミミのおっさ――もといハルイチさんが食いついてきた。なんでもいいけどネコミミは取って欲しかった目の毒。
「はぁ、まぁ、そうで――」
「それはチェキ、ですかな?」
しまった、と思った。つい出しっぱなしにしていたとなるとぼくは今までこのネコミミモードのおっさもといハルイチさん並みに痛い奴だったということか一ミリも人のこと言えねーさすがはアキバ、そういう空気を作り出してしまうことにおいては他の都市の追随を許さないぜ!
「あ、まぁ、その……」
「少し、見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「はぁ、まぁ、どうぞ……」
観念して、手渡す。これでメイド喫茶巡りしてる痛い奴とか思われてしまうのだろうか? まぁ相手もネコミミの時点で痛いが、でも三次が二次をバカにするのは昨今どこにでもあり、いわゆる弱みを見せた方の負け――
「ふぅむ、@ほぉ~むですか」
「はぁ、まぁ……」
ぼくは『はぁ、まぁ』言う機械かと自分ごとながら思ったり。
「失礼ですが、ポイントカードは何枚目ですかな?」
そういや。
聞かれたけど、今日まわったところでは作らなかったな。
「いや、持ってないですね」
「持ってない?」
そこ、喰いつくとこ?
「あ、はい。持ってないですけど?」
「失礼ですが、@ほぉ~むカフェには何度目のご帰宅で?」
「? 初めてですけど?」
「普段どこのメイド喫茶を?」
「――あの、ひょっとしてハルイチさん、メイド喫茶相当好きだったりします?」
「っと、これは失礼……」
ハルイチさんは我に返ったように慌ててかぶりを振り、それに合わせてネコミミが上下にうねり――
上下、に?
「あ、あの……その、ネコミミ?」
「あ、動いてました? いやー動揺が表に出てしまったようで、気恥ずかしい」
「…………」
ヲイヲイ、異次元空間ここに極まれりだな。それ、まさか付け物じゃなく本物とでも? いやバカなネコミミ少女なら存在しても許容できるがこんなネコミミおっさん存在してたまるかよさっきからおっさんおっさん言ってるけど年齢完璧不詳だけどさ30代前半くらいか?
「いや実はわたくし、恥ずかしながらメイド喫茶巡りが趣味でして、それで興味があるという小木曽氏にその機微などを享受しておりましたところでして……」
「へぇ。小木曽"氏"、にですか」
呼称が同レベル、なるほどそっち側のひとか。まぁそんな空気は最初の0,0001秒からぷんぷんではあったが。
「そうでござる。というわけで黒瀬殿もハルイチどのとメイド喫茶談議で盛り上がってはいかがでござるか?」
「あぁ、まぁ……」