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19話「メイド喫茶めぐりツアー」


 テストが終わって、ようやく講義からもレポートからも解放された素晴らしき夏休みに突入したとあって、意気揚々とぼくは早速アキバに繰り出した。

 今回は先に調べを入れておいた、有名メイド喫茶を巡ると決めていた。

 まずは知名度NO.1、@ほぉ~むカフェから。

「ふんふふ~ん」

 思わず鼻唄なんて出てしまう、ちなみに曲は生き残りたい生き残りたいで有名な某動物名のアニソン。こんなにうきうきモードでアキバを闊歩するなんて、久かたぶりの事だった。さってさって、NO.1はどんな店かな~?

 NO.1だけあって、それはドンキホーテという超有名店のテナントに入っていた。中央通りを歩いていれば100パー目に入る大型目印だ、一緒に超有名アイドルグループの激情も入ってるぐらいだし。ぼくはエスカレーターを使って昇り、店頭を目指す。途中雑貨やアニメポスターやらゲーセンやらが過ぎていく。

 5F。

 辿りついた。

 すげー並んでた。

「…………」

 正直、沈黙してしまった。列の終わりが見えない。みんな暇なんだなおまえが言うなと脳内ノリツッコミをしてしまうほどだった。メイド喫茶に入るために並ぶというのは、日々の疲れを癒してもらうためにさらに疲れを溜め込むという賽ノ河原を連想させる光景だった。

 ご主人さまなのに、並ぶのかよ。

「…………」

 仕方なく、その最後尾につく。そして待つ。なんか、変な匂いがする気がした。いやきっと偏見だろうだとしたらぼく自身もそうなるわけだし。メガネを拭く。なんか体感温度上がってる気がした、きっと気のせいだから。こんなに待つなんて、昔行ったコミケ以来だった。いやPCゲームの0時売りの時も並んだっけ? あの頃のぼくは鑑みるにたぶんに情熱的だったなと懐古してみたり。

 うん、無理だ。どんな頑張っても、これを苦痛・苦行と思わないでいることは。

「…………」

 もうここは、無心しかなかった。コミケとか0時売りで養った忍耐力を発揮。ただただ、並ぶ。なにも考えず、その先にあるだろう幸せに向かって。あーこんなに人気のメイド喫茶なんだ、どんなスペクタクルでワンダフルな空間が広がってるんだろう? きっとアレでコレで金とかゴージャスで絶対領域でツインテールでちびっこで金髪でツンデレで以下略。

 結果。

 まんまテレビとかのイメージどおりでした本当にありがとうございました。

「おかえりなさいませぇごしゅじんさまぁおひとりですかぁ?」

 句読点一つも使わない系のかなり緩い言葉の羅列に、脳がシェイクされたような錯覚をおぼえる。

「そ、そう、ですね……お独り、です」

「ではぁこちらへどうぞぉ」

 ほわほわぁ、って感じだった。そして案内された席に着き、システムの説明を受ける。

 懐かしの、御帰宅料というものがかかるらしい。いわゆるテーブルチャージというやつだろう、しかし二回目でも思うが"帰宅"するのにお金がかかるというのは正直納得しかねるところがある。そして60分制らしい、つまり時間が経ったら帰――じゃなく"お出掛け"しなくてはならないらしい。時間を気にしなくてはいけない、と頭の中のメモ帳に記入しておく。

 そして、オーダーに入る。とりあえず定番というか、一番最初にでかでかと載っていて周りもみんな頼んでいる、お絵かきオムライスを選んだ。

 15分くらいで運ばれてくる。……うむ、特に可もなく不可もないオムライスらしいオムライスだった。

 ただ一点、メイドさんがケチャップを持っているというところを除けば。

「なにを描きますかぁ、ご主人さまぁ?」

 これが有名なアレかと、軽く唾を飲み込む。

 そして、考える。

「えー、と……逆になにが、描けますか?」

「うさぎさんとか、ねこさんとか描けますよぉ?」

「じゃあ、ねこさんを」

 淀みなく鉄壁ともいえる笑顔で受け答えして、名札にらいむと書かれたメイドさんはケチャップでオムライスに猫のイラストを描き出していく。おぉ? と軽く感嘆してしまうくらい、想像してたよりもうまかった。ケチャップでこれだけ描けるということは、実際相当練習してんだろうなぁなんてせっかくの非日常なのにリアルを想像してしまい、若干萎えてしまう。

 そして続いて出る、テレビでよく見た"アレ"。

「はいご主人さまぁ、ご一緒におねがいしまぁす」

「こ、こうですか?」

「はい、おいしくな~れ。萌え萌えぇ、きゅんっ」

「お……おいしく、なあれ……萌え萌え? きゅん……」

「はぁい、ではこれで100倍っ! 美味しくなりましたので、ごゆっくりどうぞぉ」

「どうも……」

 テンション、ダダ下がりだった。まさかこっちまで一緒にやるハメになるだなんて……こういうのは一方的にやってもらうものだとばかり思ってたのが甘かったか? そのオムライスの味も半熟で、甘かった。

 メイドさんが離れてしばらくして時間を持て余して周りを見てみると、あちこちでイベントというか、アクティビティ的なことが行われているようだった。なるほどここはそういうお店かと納得しかけたが、よくよく見ると案外メイドさんはご主人さまに構っているでもないようだった。というか現実問題それは無理の相談のようだった。文字通りひっきりなしのお客ちゃうご主人さまのご帰宅およびお給仕に追われて、そんな暇もないっぽい。

 こんなもんか。

 オムライスをもう一口パクリ。お冷で胃に流し込みながら、そう思った。

「いってらっしゃいませぇ、ごしゅじんさまぁ」

 アニメ声で手を振り見送られ、ぼくは最大手をあとにした。コミケ的な言い方になってしまったが、やはりこれをスタンダードのひとつと見ていいのだろうか?

 そのあとさらに2軒、ネットで調べた有名店を回ってみた。ぴなふぉあと、キュアメイドカフェってやつだ。

 ぴなふぉあは、@ほぉ~むと似通っていたけどかなり話しかけてきてくれて、距離感が近かったように思う。あとピンクだった、メイド服が。よりそっち系特化と見ていいのだろうか?

 話によるとメディア露出が一番多い店らしい、なるほど確かにのクオリティだった色んな意味で。

 キュアは、正直まえ二つとは毛色が違っていた。足元までのクラシカルメイド服に身を包んだメイドさんが、丁寧な言葉遣いで、落ち着いた店内で、きちんとした料理――といったら前の二店に失礼だがより手の込んだ料理を提供していた。

 だけど会話はなかった。アミューズメント要素もなかった。だからどっちかっていうとメイドさんがいるレストラン的な感じだった。

 ありがとうございましたという普通の挨拶になんとなく新鮮さを覚え、それに末期症状を自覚しながら、ぼくは中央通りを目指しつつしばらく放心していた。

「…………うぷ」

 結構な、お腹いっぱいっぷりだった。三つの店の、それぞれのメインともいえるものを制覇した結果だった。@ほぉ~むのオムライスに、ぴなふぉあのあにまるパフェに、キュアのチャンピオンカツカレー。もうなんにもいらないっていうのが本音だった。

 ちなみに@ほぉ~むとぴなふぉあでは、チェキを撮ってみた。キュアでは撮らなかったというよりは、そういうサービスが無かったのだ。

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