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17話「ふたりではーと」

 うわ、聞いちゃったし言っちゃった! それでいいのか喫茶Hexenhaus? お客さんもさっきのオシャレ貴族さん以外見たことないし……ぼくがすることじゃないとは思うが、本当にやっていけるんだろうか?

 それはともかく、

「じゃあ、お願いします」

「愛華と撮ります? あるまちゃん呼んできますか?」

「…………」

 なんか、降って湧いた究極の選択だった。あるまさんがイイっていえば間違いなかったが、しかしだからといって愛華ちゃんの接客に不備があったかといえばそんなことはこれっぽっちもなくてむしろ好感触でしかも聞かれる相手なわけで――

「…………じゃあ、愛華ちゃんで」

「? あるまちゃんじゃなくていいんですか?」

「いやいやいやその言い方おかしくないですか?」

「? おかしいんですか?」

 なんか、会話がおかしかった。というかこの子の中でなにかが確定してしまったのか? それが誤情報だとすれば、やはり正す必要があるのだろう。

「あの、なんか勘違いしてませんか?」

「? あるまたんハァハァですよね?」

「ちょっ……なんか勘違いしてるよね?」

「? だからあるまたんとハァハァしたいですよね?」

「…………ヲイ、わざとやってないかヲマエ?」

「てへぺろっ」

 うわ、言葉に出してやる人初めて見たそれネットスラングでリアルでやったらただの痛い人だぞ愛華ちゃん!? という心の叫びは押しとどめた、まぁそういう個性もこういう業界で生きていくには大切なのだろうローラ的に。

 それはともかく、って感じで愛華ちゃんはヘッドドレスの上に乗せたぐーとぺろっと出した舌をしまい、

「じゃあ、愛華でホントにいんですね?」

「はい、いいよ」

 なんかすっかり馴染んできたぼくなのであった。

「じゃあ、こちらへどうぞー」

「こちらって? ……うぉ!」

 びっくりだった。トイレがある方とは反対側の用途不明だった勝手に掃除用具入れだと思ってたそこは、なんとスタジオだったりした。上から照明がパッと照らされ、背景に――

「……これ、」

「はい、ヨーロッパの風景ですよ、やだっ、なんか新婚旅行で海外に来てるみたいで愛華、恥かしいっ」

「…………」

 もうなにも言うまいと思った。両手で頬を押さえて片足上げてる姿もなるほど確かに様にはなっているし、きっとこの子はこういうお仕事してるんだろうなーとか薄い目で見守る。

「……ご主人さま、考えてること丸わかりですよ?」

「いやいまマジで無我の境地に至ってて」

「ちなみに愛華、ここでしかお給仕してませんからね?」

「え? アイドル候補生とかじゃないの?」

「……ご主人さま?」

「…………」

 沈黙は金なりというより、沈黙しか手が無いと言った感じが近かった。なぜこうなる? と考えてる時点でなにか間違ってる気がしていた。

「じゃあその……ていうか、誰が撮るんですか?」

「あ、忘れてた。あるまちゃーん」

 うわ、いま素が出た素がとか思ったのと、あれ? ベルは鳴らさないんだアレはご主人さま専用? とか二つの疑問が噴出した、ホントなんだんだこの子は?

 そして奥から、

「はあい、なんでしょう愛華ちゃん?」

 あくまでしずしずと、メイドとしてパタパタ音を立てるなんてことはせず気品あふれる足取りで現れる、あるまさん。うはあ、メイドさんって感じだった。じゃあ愛華ちゃんはなんだという感じだが、なんていうか、その――

「…………」

「あるまちゃん、チェキの撮影を――ってご主人さま? なんですかその熱い視線は、愛華照れちゃいますよっ」

 もうホントなにも言うまいって感じだった、なんていうかアキバ系の具現体が彼女という存在なのだろうと厨ニ病発動自重自嘲。

「というのはおいておいて、実際なんですか?」

「いや、愛華ちゃんはホントニカワイイナアト」

「なんで棒読みなんですか?」

「そんな日もないかな?」

「いやどうでしょうね?」

 逆に聞かれてしまった。確かに不可解な会話だった。ぼくなんてこんなもんだろう。とりあえず――

「それで、チェキは?」

「あ、はい、そうですね、あるまちゃんお願い」

「はい、かしこまりました。それで、くろにゃんさまは如何様なポーズでの撮影を御所望でしょうか?」

 ――ポーズ?

 ――ポーズ、

「……普段、他のご主人さまはどんなポーズで撮ってるんですか?」

「にゃんにゃんとか」手首をくりっと曲げて頬の両隣りに、「萌え萌え~とか」両手を握って甲を見せる形に口元に、

「…………」

 頭痛くなってきた。さすがはアキバだった、なるほど前にネコミミつけてるすごい恰幅が良いケットシーみたいなご主人さまがテレビ画面でご満悦だったなとか。正直、結構真剣に悩んだり――

「あとはふたりではーと、とかですかね?」

「……二人で、はーと?」

「はい、はーとですよ。こんな感じで」

 愛華ちゃんは右手の小指から人差し指までを鉤爪みたいに曲げて、親指をピン、と伸ばした。なるほど、それを両手で作ってくっつければハートの形に――

「ああ、なるほど。それを二人ですれば、」

「はい、はーとですねー」

「…………」

「どうかされましたか、ご主人さま?」

 なんどころじゃなかった。ぼくは真剣に考えていた。ハートを作る、二人で、指で。それって――

「……指、……いや、ちょっと待って」

「指がどうしたんですか?」

 愛華ちゃんの追求に、ぼくはとりあえず笑ってみた。やべぇ、地雷踏むところだったとリアルに思っていた。そこで『指触れあっちゃうよドキドキだなぁアハ☆』なんて言ってたらその時点で自意識過剰の痛い奴確定なところだった危ないあぶない、というわけで。

「いや、指ってあれだよね、約束とかの指きりとか、色々な作品で重要なモチーフとして使われてるなーって」

「……ご主人さま、またもなにか誤魔化そうとして誤魔化しきれないというジレンマに陥ってませんか?」

「いやきっと愛華ちゃんの気のせいだと思うよ?」

 ここはなんとか乗り切ろうと思う、おそらく今回に関してはそれほど不自然な会話の流れじゃなかったと思うしたぶん。

 愛華ちゃんはふーん、みたいな感じでこっちを見たあと、

「ま、いいですかね。それでご主人さま、どんなポーズにしますか?」

 問われ、自分が瀬戸際に立たされていることに、気づいた。

 乗り切ったことに安堵してる場合じゃなかった。

「……えーと、」

「はーと、ですか?」

「なんで?」

「いや、ご主人さまの表情からっ」

 口元に手をやるそのポーズは確かに萌えポイントは高かったが自分がやるかと考える背筋にそら寒いものを感じた、やっぱテレビ出るようなヲタクはレベルがハンパなかったんだなとある種尊敬的な。

 そう考えると、一択だった。

「……じゃあ、ハートで」

「はい、御主人様どうぞっ」

 差し出された左手に、右手を近づける。うわお、笑えるぐらいドキドキする。触れ合うのは四方1センチにも満たない僅か2か所だっていうのに、なんだこれは? これがメイドマジックだとでも言うのか? 出典なし。

「はいご主人さま、ちゃんとむこう向いて笑顔作ってくださいねー」

「撮りまぁす」


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